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公募課題

2012年6月26日更新

イネの成長・代謝遺伝子ネットワークの解明 (略称:成長・代謝プロ、GPN)

概要

作物としてのイネは、栽培地域の環境に適応する品種を育成し、その栽培域を拡大してきた。一方、地球温暖化のように、気候は徐々に変動し、高温登熟のような気候変動が原因と考えられる障害も大きな問題になっている。こういった問題を克服し、さらに、栽培適地を広げていくには、イネがもつ、日々の環境変化への基本応答能力を理解し、その増強を検討する必要がある。この公募課題では、出穂期制御、複雑花序形態形成、光成長制御、不良環境における光合成の適応の4つの生物学的現象に関する遺伝子ネットワークに関して、遺伝子レベルでの解明を目的とする。

研究目的

  1. 環境応答性イネ出穂期制御遺伝子ネットワークの解明:
     イネが北方で収穫できるようになったのには、耐冷性の獲得も重要ながら、日長変化に影響を受けず、早稲となる品種の育成が重要であった。このイネ出穂期制御による栽培適応に寄与する遺伝子ネットワークの解明を目的とする。

  2. 多機能遺伝子が関与する花序の形態形成の遺伝子ネットワークの解明:
     a) イネの収量性に直結する一穂に分化する小花分化の制御の解明
     b) 葉の支持器官である中肋形成とめしべ形成の両方を制御する多機能転写因子の機能を独立に制御する技術開発を目指して、ネットワークを理解する。

  3. 光環境応答遺伝子ネットワークの解明:
     a) 光環境に応じて、葉の傾きが変化し、強いては、光合成効率が変化する、葉の光環境応答の遺伝子ネットワークを解明し、普段、光を有効利用できていない下位葉の光合成効率の改善を目指す。
     b) イネ幼苗の光信号伝達による形態制御機構を解明し、各種光環境の有効利用を模索する。

  4. 不良環境での光合成維持機構ネットワークの解明:
     光合成は、いろいろなステップで、フィードバックがかかり、全体を改良することを容易ではない。そこで、まず、低温・高温や低肥料といった条件での強光や弱光といった不良環境でのイネの光合成を解析し、そういった不良環境でも効率的な光合成をサポートする分子機構の解明を目的とする。

達成目標

  1. いろいろな栽培環境で、収穫時期を自由に制御できるようなこれまでに存在しない環境応答をするイネ系統を作成するための基盤となる知見を明らかにし、具体的なデザインまでを試みる。

  2. a) サイトカイニンのような植物ホルモンによる一穂粒数の制御と独立に制御可能なFON1-FON2による花序の制御のネットワークを解明し、小花数を増加させるためのアイディアを具体化する。
    b) めしべの形成には影響を与えず、中肋形成だけを供することで、これまでになかった直立葉イネ作成を目指し、密植度合いと、その応用可能性を実験室レベルで調査する。

  3. a) 密植で光が使いにくいときには、より直立葉に、また、光を利用しやすい疎植条件では、葉が展開するといったように、周辺光環境適応したイネ系統を開発し、実験室レベルでの基礎データを得る。
    b) 光が弱い環境、例えば、人工環境化でも徒長せず、しっかりと葉が展開するといった弱光適応型のイネ系統を光信号伝達系の改変により作成し、実験室での基本反応データを得る。
    c) 葉緑体の分化を人為的に制御し、普段、光合成を起していない組織・時期での光合成を可能にし、バイオマス増加を図る。

  4. a) サイクリック電子伝達系に異常を持つイネ系統を用い、不良環境でのイネの光合成反応を安定的に調査し、より適応力をつけるために強化すべき部分を探索する。
    b) ルビスコの含量を変えたイネを作成し、CO2等を変化させ、その最適環境との組み合わせにより、光合成能向上する系統を模索する。
    c) リンゴ酸代謝を改変することで、窒素源の適応性を改変し、施肥によるイネの光合成能力改善を試み、栽培環境によるバイオマスの改善を模索する。

研究内容

  1. a) Ehd1やGhd7といったイネ出穂期制御因子によるフロリゲンの転写制御機構を解明し、概日時計と光信号による調整の分子機構を解明する。また、知見を基にした人為的なフレキシブルなイネ出穂期の制御を実験室での様々な環境で試みる。
    b) イネ概日時計遺伝子OSGIの変異体の圃場でのパフォーマンスを調べることで、概日時計による収量性への効果を明らかにし、概日時計改変による収量性改善の可能性を模索する。
    c) 日本稲間に存在する出穂期の高精度な制御に関わるQTL遺伝子を単離し、その作用機作を明らかにする。

  2. a) FON1-FON2に代表されるイネの茎長分裂組織の制御機構を明らかにするために、関連の遺伝子を自然変異や相同性から同定して、ネットワークを解明する。
    b)めしべ形成と中肋形成の両方に必須な転写因子DLの発現部位の特異性をそのプロモーター解析を進め、人工改変プロモーターによる一方だけの強化および改良を行う。

  3. a) phyB光受容体の変異体の解析から、クロロフィル含量の調整機構に関して、解析を進める。
    b) 青色光受容体の変異体・過剰発現体を利用して、光条件が変わった中でのイネの成長への影響を確認する。
    c) 青色光へのラミナジョイント(葉の開度を決める結合部)の反応が異常になる自然変異からその原因遺伝子を単離・同定する。
    d) シロイヌナズナの光形態形成に影響を与えるイネ遺伝子をイネのcDNAをシロイヌナズナで過剰発現させることで同定し、その遺伝子のイネでの光形態形成への役割を明らかにする。また、シロイヌナズナの形態形成の知見を元にイネのオーソログの機能解析を進める。
    e) OsGLK遺伝子の機能解析を転写制御の機構と、転写因子としての下流遺伝子の制御の両方向で進める。

  4. a) サイクリック電子伝達系のイネ欠損株をRNAi法で作成し、強光等での光合成への寄与を確認のうえ、様々な環境条件における光合成の変化をモニターする。
    b) RbcSCOのスモールサブユニットをコードする遺伝子を個々にRNAi系統により機能を抑えた系統を作成し、高いCO2条件をはじめ各種条件での光合成能をモニターし、環境条件に応じたルビスコ量の最適化を図る。
    c) イネ科特有の葉緑体局在のPEPC活性を下げることで、細胞内の代謝の変化を解析し、アンモニア型か硝酸型かの窒素源による効果を調査する。
    d) 圃場での過還元状態をいろいろな時間、環境、成長ステージで見て、イ ネが電子伝達系から見て、ストレスを受けているかどうかをモニターする。
    e) 葉のシンクサイズが変わった稲を作成、または、入手し、実験室で各種条件での過還元をモニターする。

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GPN概略図

実施課題一覧(〜平成24年度)

↓課題番号をクリックすると、各実施課題の研究成果を見ることができます

課題番号 実施課題名 課題責任者 所属機関
GPN0001 栽培環境に応答するイネ出穂期制御遺伝子ネットワークの解明 農業生物資源研究所
GPN0002 複雑形態制御ネットワークの解明 東京大学
GPN0003 イネの光シグナルによる葉緑体発達・草型のネットワークの解明 農業生物資源研究所
GPN0004 転写因子GLKを介した葉緑体発達のネットワークの解明 農業生物資源研究所
GPN0005 イネの伸長を制御する光受容体フィトクロムの信号伝達経路に関わる新奇遺伝子の単離・解析 九州大学
GPN0006 イネ葉緑体内のレドックス状態と炭素代謝の最適化 農業生物資源研究所
GPN0007 光合成炭酸固定酵素Rubisco量の適量化 東北大学
GPN0008 光エネルギー利用効率の最適化:イネの戦略 京都大学

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