カイコゲノム解読

カイコ (Bombyx mori) は5,000年前に中国黄河流域で野生種のクワコ (Bombyx mandarina) から家畜化された.現在,動物の中で最も家畜化が進んだ生物である.大量飼育のしやすさと繊維産業利用のために現在でも多くの発展途上国では経済的に重要な生物である.最近の遺伝子導入技術の確立によってカイコは組換えタンパク質生産工場として注目を集めている.

カイコゲノムシーケンスとカイコの祖先で野生種のクワコのゲノム情報を比較すれば家畜化に至る人為選択の影響を解明でき,家畜化に関わる遺伝子を同定できる可能性がある.また,カイコの属する鱗翅目昆虫(チョウ・ガの類)は最大の農業害虫を含み,害虫に特異的に効果がありその他の生物種には影響のない環境に優しい殺虫剤開発が,世界の主要国の大きな研究課題である.しかし,カイコ以外の鱗翅目昆虫のゲノム情報はほとんどなく,カイコのゲノム情報を利用してターゲット遺伝子を探索することを世界の研究者が期待している.つまり,カイコは鱗翅目昆虫の代表種として期待されている.

2004年に日本と中国でそれぞれ独立に雄のカイコのホールゲノムショットガン(WGS)シーケンシングプロジェクトが進められ,そのアセンブリー結果が発表された.しかし,両者とも比較的浅いWGS で,長いシーケンスコンティグ(塩基配列断片のオーバーラップした部分をつなぎ合わせた塩基配列)やスキャホルド(シーケンスコンティグを長いブリッジクローンでつないだ塩基配列)が得られず,アノテーションや機能解析研究への実用的利用には大きな距離が残った.国内外の多くの研究グループから両方のデータの統合によるより完全なカイコゲノム シーケンスへの要望と期待が数多く寄せられた.幸いなことに,日中両方でWGS に使われたカイコは同じ系統(日本はp50T 系統の雄,中国側はDazao 系統の雄)で,結果の比較からも両者のデータをあわせることができることが分かった.2006年3月中国側とWGS データ合作による高精度カイコゲノムシーケンスのための合意が実現した.

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