オオムギのゲノム配列の詳細な解読

オオムギのゲノムの塩基配列解読を目的として、日本(岡山大学と生物研が参画)を含む6カ国で構成される「国際オオムギゲノム配列決定コンソーシアム(International Barley Genome Sequencing Consortium)」が2006年に結成され、ゲノム塩基配列解読を進めました。

最初に、ドイツと米国が中心となり、超高速ゲノム解読装置(シーケンサー)を駆使して、2009~2011の3年間で米国のビール用オオムギの標準品種である「Morex」のゲノム塩基配列の解読に成功しました。過去にイネ国際コンソーシアムによるイネゲノムの解読には7年間を要したことを考えると、配列解読技術は大きく進歩していると言えます。オオムギのゲノムは約51億個の塩基からなると推定されていますが、今回解読されたMorexのゲノム塩基は、このうちの98%に相当する49.8億個です。さらに詳しい解析の結果、解読されたゲノム塩基配列のうち84%は転移因子3)、単純繰り返し配列4)等の特定の配列が数回から数千回繰り返して存在することがわかりました。通常、繰り返し配列領域には遺伝子が存在しないと考えられているので、残りの16%にオオムギの形質を決定する遺伝子が存在していることになります。

次に、我が国とドイツにより、Morexのゲノム塩基配列を、他の作物の遺伝子情報と比較することなどにより、オオムギの遺伝子を26,159個同定しました。この中で岡山大学と生物研は、「はるな二条」の完全長cDNA5)を作成し、Morexのゲノム塩基配列と比較することにより、その遺伝子がゲノム中のどこに位置するのかを正確に決定することにより、遺伝子同定に大きく貢献しました。最後に、各国で4種類の栽培オオムギ品種および1種類の野生オオムギのゲノム塩基配列を解読し、Morexの配列と比較して、合計1500万個に上る一塩基置換多型6)を発見しました。これらは、今後オオムギのDNAマーカー7)選抜育種を進める上でゲノム上のマーカーになります。またこの1500万個の多型の位置を26,159個の遺伝子の位置と比較したところ、35万個の多型が遺伝子中にあることがわかりました。これらの多型の一部がそれぞれのオオムギの形や性質の差を決めていることが示唆されました。この研究では、岡山大学が、我が国の優良品種である「はるな二条」のゲノム塩基配列を解読し、Morexや他の品種の塩基配列と比較することで多型の検出に貢献し、同時に我が国の育種に役立つDNAマーカーの作出に結びつきました。

オオムギの詳細なゲノム塩基配列の解読は世界で初めてです。イネ科の共通先祖から、ムギ類がどのようにして進化してきたのか? オオムギのゲノム塩基配列をイネ、トウモロコシなど他のイネ科作物のゲノム塩基配列と比較することで、その謎に迫れると期待されます。

  • The International Barley Genome Sequencing Consortium (2012) A physical, genetic and functional sequence assembly of the barley genome. Nature 491:711-716
  • Matsumoto T, Tanaka T, Sakai H, Amano N, Kanamori H, Kurita K, Kikuta A, Kamiya K, Yamamoto M, Ikawa H, Fujii N, Hori K, Itoh T, Sato K (2011) Comprehensive sequence analysis of 24,783 barley full-length cDNAs derived from 12 clone libraries. Plant Physiology 156(1):20-28