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QⅠ-2 遺伝子組換え技術はどのようなものに利用されているのですか?

 遺伝子組換え技術は、研究開発、医薬品や工業品の製造、農作物の品種改良、新たな機能性をもつカイコの開発、食品や飼料への添加物の製造など、様々な場面で広く活用されています。

 研究開発では、遺伝子の機能を調べるための実験に不可欠です。これらの研究成果が、後述するように、様々な分野で実用化されています。ほかにも、実験や検査に使う試薬や酵素の生産にも、遺伝子組換え技術が用いられているものが多数あります。

 医薬品としては、ヒトのインスリン、成長ホルモン、インターフェロンなどが遺伝子組換え微生物を利用して大量生産できるようになり、医療の現場で大いに役立っています。これらは化学的な人工合成が困難で、生物から抽出精製するしかありませんでしたから、供給量は極めて少なく、とても高価でした。
 例えば、糖尿病の治療に必要なインスリンは、かつてはブタからインスリンを取り出し、そのまま使用するか、化学反応を用いてヒト型と異なる部分のアミノ酸をヒト型に変換してヒトインスリンを作っていました。1982年に遺伝子組換え技術によってヒトインスリンの遺伝子を大腸菌に組み込んで、大量に生産できるようになりました。 これによって高品質で副作用のより少ないインスリンの大量供給が安価に可能となり、インスリン注射が必要な多くの糖尿病患者を救うことになりました。これ以降、インスリン以外でも様々な医薬品が遺伝子組換え技術を用いて生産されるようになっています。

 毎日の洗濯に使っている洗剤に含まれる酵素(脂質を分解するリパーゼなど)や、ジーンズ・デニムの風合いを出すための『バイオウォッシュ加工』などに用いられている酵素(セルラーゼ)の生産にも、遺伝子組換え技術が使われています。

 農作物の生産では、様々な農作物で遺伝子組換え品種が実用化され、世界各地で栽培されています。遺伝子組換え農作物に付与された主な特性は、除草剤耐性や害虫抵抗性です。主な農作物は、栽培面積の多い順に、ダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネ、テンサイです。 これらの栽培国・栽培面積は、年々大幅に拡大しており、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)の発表によれば、2014年(平成26年)では1億8,150万ヘクタールに達しました。FAOの統計データベース(FAOSTAT)によれば世界の耕地面積は約14億haで推移しています。 したがって世界全体での遺伝子組換え農作物の作付面積は、世界の耕地面積の約12.5%に相当します。例えば、米国やアルゼンチンで栽培されるダイズでは、9割以上が遺伝子組換え品種となっています。

 我が国では、海外で生産された遺伝子組換え農作物約1,500万トンを輸入していると推定されており、畜産飼料や食品原材料として、私たちの食卓を支えるためには不可欠なものとなっています。

 食品や飼料以外では、これまでにない青色のカーネーションやバラなどが商品化されています。

 食品加工用の酵素、食品や飼料への添加物の中には、遺伝子組換え微生物で生産されている品目もあります。デンプンを液化するα-アミラーゼ、L-グルタミン酸ナトリウムや塩酸L-リジンなどのアミノ酸、リボフラビン(ビタミンB2)などがあります。

 最近では、遺伝子組換えカイコによる検査試薬の生産が実用化しています。さらに、緑色蛍光タンパク質を発現する絹糸をつくる遺伝子組換えカイコは、将来的に養蚕農家に飼育してもらうために、まず生物多様性への影響を調査するため、 カルタヘナ法(QⅣ-2参照)に基づく第一種使用等の試験飼育が始まろうとしています(下図)。