大西ユニット長らの研究グループは、免疫機能を持たない「免疫不全ブタ」の開発に成功しました。この成果は米国の専門誌Cell Stem Cellで公表されるとともに、テレビや新聞でも多く取り上げられ、注目を集めています。ここではその成果と意義についてご紹介します。
私たちヒトの病気の研究には、動物を用いた実験が欠かせません。さらに近年では、遺伝子組換え技術を駆使して、ヒトの生理現象や病気を再現できる「モデル動物」が作成されています。その一つに、免疫機能のない「免疫不全動物」があります。免疫機能がないと拒絶反応が起こらないため、免疫不全動物には他の個体や他の生物種から細胞や組織を移植することができます。例えば、免疫不全動物にヒトの細胞を移植すれば、ヒトの細胞や組織を持つ「ヒト化動物」を作ることができ、よりヒトの体に近い条件で精密な実験が行える、というわけです。現在マウスでは、研究の目的に合わせた様々な「ヒト化マウス」の作成が急速に進んでいます。しかし、よりヒトにサイズの近い大型動物では、このような研究は進んでいませんでした。そこで私たちは「ヒト化ブタ」作成の第一歩として、免疫不全ブタの開発に取り組みました。
遺伝子組換えマウスの作成には「ES細胞」という特殊な細胞が使われます。しかし、ブタでは実用的なES細胞がなく、遺伝子組換えブタの作成は長い間できませんでした。一方、一般的な細胞である「体細胞」から個体を再生する「体細胞クローン技術」の開発が世界各地で進められ、1996年には世界初の体細胞クローン動物、ヒツジの「ドリー」が誕生しました。その後2000年には、米国のグループと私たちのグループが相次いで、体細胞クローンブタの作成に成功しました。そこで私たちは、「遺伝子組換え技術」と「体細胞クローン技術」を組み合わせることにより、ES細胞を使わない遺伝子組換えブタの作成を目指しました。そして今回、遺伝子組換えによって免疫に関わる遺伝子の機能を消失させた「免疫不全ブタ」の開発に成功しました。
今回開発した免疫不全ブタは、これまで小動物のマウスでのみ可能だった免疫不全動物の開発を、大型動物のブタに発展させた大きな一歩です。ただし、すぐに病気の研究に使える段階ではなく、細かい改良が必要です。今後は、改良した免疫不全ブタにヒト細胞を移植することにより、「ヒト化ブタ」の開発を目指していきたいと思います。
関連リンク:
・免疫不全ブタの開発に世界で初めて成功
(平成24年3月14日プレスリリース)
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