蚕糸昆虫研ニュース No.45(1999.12) 
<トピックス>
PCR-RFLPによるヒメハナカメムシ類の識別

 
   ヒメハナカメムシ類(Orius属)はアザミウマ、ハダニなどの微小な農業害虫の有力な捕食性天敵として注目されています。日本には主に5種のヒメハナカメムシ類が分布しています。ナミヒメハナカメムシO. sauteri(図1:以後「ナミ」と略す)、コヒメハナカメムシO. minutus(コヒメ)、ツヤヒメハナカメムシO. nagaii(ツヤ)、タイリクヒメハナカメムシO. strigicollis(タイリク)、琉球列島以南のみに分布するミナミヒメハナカメムシO. tantillus(ミナミ)の5種です。このうち、ナミは天敵農薬として最近市販が開始されました。

 当研究室では、有用な天敵系統の育種を最終目標としており、その育種対象としてヒメハナカメムシ類に注目してきました。上記の5種は休眠性・発育適温・捕食効率・増殖効率などが異なり、それぞれ異なった場面で害虫を抑制できると考えられます。天敵農薬としての育種に先立ち、これらの特性を解明することが必要です。しかし、これら5種は形態的に酷似していて識別が困難なため、どのような環境(気候・作物・害虫種など)にどの種が分布しているのかといった野外調査も不十分でした。識別は雄成虫を解剖して交尾器を調べることによってのみ可能であり、雌成虫の形態による識別はさらに困難で、その子世代を飼育後、雄成虫を得て同定するといった手間と時間をかけなくてはなりません。そこで簡便な識別法が求められていましたが、今回、PCR-RFLP   (遺伝子を増幅した後制限酵素で切断し,その断片長多型を調べる方法)によって種の識別法を行う方法を開発しましたので以下に紹介します。

 解析には核ゲノム中のrDNA(リボソームRNA遺伝子)の非コード領域であるITS1(Internal Transcribed Spacer 1)を用いました。各種の制限酵素を用いてPCR産物を切断したところ、制限酵素Hae IIIで切断したときに断片長多型がもっとも明瞭に区別できることが判明しました。ナミ6、コヒメ3、ツヤ2、タイリク3の複数系統を用いましたが、種内で一貫した結果が得られ、識別手法として有効でした(図2)。また、この方法で用いるDNA溶液はヒメハナカメムシ1個体をマイクロチューブに入れてプロテイネースで処理しただけのものを用いました。PCR後は精製を行わず、そのまま制限酵素を加えて反応を行いました。こうした簡便な方法によって確実にバンドパターンを検出でき、効率的に多数のサンプルを識別できることがわかりました。さらに、成虫だけではなく、卵や幼虫、あるいは成虫の足1本でも識別できました。

 この方法により、日本に分布するヒメハナカメムシ類の種識別が性別や発育ステージを問わず可能となったため、野外での種構成調査など、種の特性解明の調査を簡便に行えるようになりました。現在私たちはつくば近郊で種構成調査を行い、気象条件などとの相関を調べています。こうした基礎的な研究を足がかりに、効果的な天敵系統を育種する足がかりにしたいと考えています。
 
  

(遺伝育種部天敵育種研究室 川崎建次郎・清水 徹・村路雅彦・日本典秀)
       
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