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< 参考資料 イネの遺伝子「WRKY45」による病害抵抗性に関する研究について >

【背景】
  植物は、様々な病原菌に対する抵抗性機構を持っています。しかし、いもち病菌などイネに大きな被害を与える病原菌は、イネ自身の持つ抵抗性機構を封じ込めることにより、イネを感染・発病させると考えられています。ベンゾチアジアゾール(benzothiadiazole、BTH)は、植物活性化剤と呼ばれる薬剤の一種で、植物の生来の抵抗性機構を活性化することで作物に強い抵抗性を誘導すると考えられています。

【成果の内容】
  本研究では、BTHの高い病害防除効果の作用の背後にあるメカニズムを明らかにするため、まず、BTH溶液をイネにスプレーした後にイネで発現誘導される遺伝子をマイクロアレイという手法で探索したところ、数百の遺伝子の発現量が一斉に上昇することが見出されました。その中で、遺伝子発現の制御に重要な役割を担う転写因子と総称されるタンパク質の遺伝子に特に着目して機能を調べた結果、イネにおける病害抵抗性反応の誘導に極めて重要な役割を果たす遺伝子「WRKY45」の発見に至りました。
  BTHの作用の中核的役割を担う「WRKY45」は、実際の抵抗性反応を行うのではなく、抵抗性反応の実行部隊となる多数の遺伝子群を統括的に制御していました。すなわち、「WRKY45」遺伝子は、これらの実行部隊の遺伝子群に指令を下して一斉に働かせる役割を果たしており、強い抵抗性反応の誘導においてキーとなる働きをしていることがわかりました(図1)
  「WRKY45」遺伝子を導入した高発現イネで、いもち病と白葉枯病の抵抗性を調査した結果、いもち病に関しては、いもち病抵抗性が極強とされる品種群の標準品種である「戦捷(せんしょう)」という品種よりさらに強く、また、白葉枯病にも極めて強い抵抗性を示すことがわかりました(図2)。BTHは非常に広範囲の病害に効果を示すことから、BTH作用の中核を担うこの遺伝子は、さらに多くの種類の病害に効果を顕す可能性が高いと考えられるので、今後、順次調べていく予定です。
  一般的に、転写因子を高発現させると、強い生育障害が出て収量に影響する場合が多いといわれています。しかし、「WRKY45」遺伝子を高発現したイネの場合は、生育阻害が比較的小さいことがわかりました。現在、この遺伝子の働きの仕組みを分子レベルで解明する研究も進めており、生育への影響が小さい理由もわかりつつあります。これが完全に解明できれば、生育への影響がゼロになるように改良することが可能と考えています。
  この研究は農林水産省委託プロジェクト研究「アグリ・ゲノム研究の総合的な推進」の「イネ・ゲノムの重要形質関連遺伝子の機能解明」で実施されたもので、成果の概要はPlant Cellのオンライン版に2007年6月29日に公表されました。掲載論文は以下の通りです。

Shimono, M., Sugano, S., Nakayama, A., Jiang, C.-J., Ono, K., Toki, S., and Takatsuji, H. (2007). Rice WRKY45 plays a crucial role in benzothiadiazole-inducible blast resistance. Plant Cell (on line 版 10.1105/tpc.106.046250)

  なお、この研究の一部はすでに国際特許出願(特願WO2006/126671 A1)しています。

【今後の展開】
  「WRKY45」遺伝子による抵抗性は、従来の抵抗性品種に見られた、病原菌の突然変異によって病気に対する抵抗性が失われるという心配のないものと考えられ、また複数の病気に高い効果を発揮するという点で優れているため、病気に強いイネ品種の育成に大いに利用されると期待されます。また、この遺伝子の機能は、コムギなど、イネ以外のイネ科作物にも広く利用できることが期待され、食料、飼料、バイオマス用等の様々な作物の低コスト・低環境負荷栽培となる減農薬栽培を可能にし、これらの作物の増産に病害防除の面から大きく貢献することが期待されます。


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