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プレスリリース  参考資料(背景、詳細、今後の展開図1、図2、表1

参考資料

【背景】

我々が普段食べているコメは、約1万年前に自生していた野生イネを古代人が栽培化し、作物として望ましい農業形質の選抜を繰り返して改善してきたものです。この栽培化に伴い変化した一群の遺伝子を、栽培化遺伝子と呼びますが、その中には、コメや穂の大きさを大きくする、あるいは脱粒をしにくくする等の遺伝子の変化があります。農業生物資源研究所では、農林水産先端技術産業振興センター農林水産先端技術研究所や富山県農林水産総合技術センター農業研究所と共同で、日本晴とカサラスの品種間差を利用して、栽培化過程に重要な変化をもたらしたと考えられるコメの粒の幅を決めている遺伝子の単離・解析をしました。

【詳細】

ジャポニカイネ(日本で栽培されている)の一種である日本晴は短粒、幅広であるコメを作りますが、インディカイネ(おもに海外で栽培されている)の一種のカサラスは長粒、幅細のコメを作ります。これら2品種を用いて、コメの粒の形を決定している遺伝子を検討した結果、幅を細くしているqSW5遺伝子の単離に成功しました(図1)。この遺伝子が、イネの栽培化の過程で部分的な欠失を起こしたためにその機能を失い、コメの外側のもみのサイズが約2割増大しました。その結果、コメの粒の幅が大きくなったと考えられます。

さらに、いろいろな地域で栽培されていた古いイネ品種(イネ在来種、約200種)の、qSW5遺伝子の欠失の有無、イネの脱粒性の喪失にかかわるqSH1遺伝子の働く場所を決めているDNAの変化、さらに、炊いたコメのモチモチ感を決めているWaxyというデンプン合成酵素の遺伝子のイネの栽培化の過程で変化したDNAの変化の有無を調べ、RFLPマーカーという手法で調査した、ゲノムワイドなDNAの多様性のパターンを比較しました。その結果、インディカイネでは、qSW5, qSH1,WaxyのDNA変化はほとんど見られませんでしたが、ジャポニカイネでは、いろいろな変化のパターンが見られました。このことは、インディカイネとジャポニカイネは、独立な過程で栽培化が進んだことを示しています。また、比較した3つの遺伝子がオリジナル(変化する前の元の遺伝子)であるタイプのジャポニカイネが東南アジア、特に、インドネシアやフィリピンの在来種に見られることを見出しました。このことは、ジャポニカイネの起源がインドネシアやフィリピンであることを示唆していると考えられます(図2)。

従来、温帯ジャポニカイネの起源は、考古学的な水田遺跡の年代推定や遺跡から見つかったコメの遺物のDNA鑑定から中国の長江流域と考えられていました。今回の解析結果では、qSH1遺伝子の変化をもつ系統が中国や日本でしか見られず、東南アジアでは見つかりませんでした。このことと従来得られている証拠から、1.現在東南アジアで陸稲として栽培されている熱帯ジャポニカイネがジャポニカイネの起源に近い、2.熱帯ジャポニカイネが中国に伝わって長江流域で水田化され、温帯ジャポニカイネが生まれた、3.温帯ジャポニカイネが更に日本に伝わった、と考えられます(図2)。

【今後の展開】

今回単離に成功したqSW5遺伝子を利用することによって、インディカイネの収量性を向上させる現実的な育種が可能と考えられます(表1)。また、ゲノム情報を利用することで、進化や栽培化といった一見、科学的に証明不可能であるような過去におきた現象を、ゲノム変化・自然変異といったDNA変化から歴史を推定するという手法を用いて、明らかにできるようになりました。今後ともイネ科植物のゲノム情報の充実が進むことで、更なる成果が期待されます。


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