トップページ > プレスリリースリスト > 病害抵抗性作物創製の新技術の開発
病害抵抗性作物創製の新技術の開発- 2つの蛋白質の同時導入で「科」の壁を越えて作物に抵抗性を付与 -
概要岡山県農林水産総合センター生物科学研究所(永井一哉所長)の鳴坂義弘専門研究員、鳴坂真理流動研究員は、2つの遺伝子を同時に植物に導入することで植物が正常に生育し、かつ複数の病原体に対する病害抵抗性植物の開発に成功しました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)植物免疫研究グループの白須賢グループディレクター、京都府立大学(渡辺信一郎学長)生命環境科学研究科の久保康之教授、農研機構野菜茶業研究所(小島昭夫所長)の畠山勝徳主任研究員、玉川大学(小原芳明学長)農学部の今村順教授、筑波大学(山田信博学長)生命環境系の江面浩教授、農業生物資源研究所(石毛光雄理事長)の田部井豊室長、七里吉彦特別研究員、京都大学(松本紘総長)農学研究科の高野義孝准教授による共同研究の成果です。 本研究は、農研機構生物系特定産業技術研究支援センターのイノベーション創出基礎的研究推進事業、平成22年度採択課題「病原糸状菌の分泌戦略を標的とする作物保護技術の基盤開発」(研究代表者:白須 賢)及びJSPS科研費21580060、21780038,24228008による成果と各機関との共同研究により行われたものです。なお、この研究は平成22年4月から平成24年冬に実施しました。 本研究成果の詳細は、2月21日付け(日本時間)で米国オンライン科学誌「PLOS ONE(プロスワン)」に掲載されています。 成果の内容鳴坂義弘(岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 植物免疫研究グループ グループリーダー)らのグループは、シロイヌナズナ(アブラナ科シロイヌナズナ属)の2つの抵抗性遺伝子を同時に、農作物ナス科のトマト、タバコ、アブラナ科のナタネ、コマツナ、ウリ科のキュウリに導入し、作物の生産に甚大な被害を及ぼす青枯病(細菌)、斑葉細菌病(細菌)及び炭疽病(カビ)に抵抗性の作物の開発に世界で初めて成功しました。 これまで1つの抵抗性遺伝子を植物に導入しても、病害抵抗性を付与できないか、または、抵抗性を付与できても植物が矮小化することが報告されていました。また、抵抗性遺伝子は植物の科、属及び種を超えて機能しないことが報告されていましたが、これら2つの遺伝子を同時に植物に導入することで植物が正常に生育し、かつ複数の病原体に対する病害抵抗性植物を開発することが可能となりました。今後、この原理に基づいた病気に強い作物の開発が期待できます。 また、シロイヌナズナ由来の2つの抵抗性遺伝子(蛋白質)が複数の植物種で機能したことから、共通のメカニズムにより植物の免疫が機能していると考えられます。 【注:植物の病原体認識機構】
植物の病原体に対する抵抗反応は、Flor氏が唱えた遺伝子対遺伝子説により、植物の抵抗性遺伝子(病原体を認識する植物側の受容体)と、対応する病原体の因子の1対1の組み合わせによって決定されると考えられています。しかし、例えばモデル実験植物シロイヌナズナのゲノム上には約150の受容体しか存在せず、多様な病原体に対する抵抗性はどのようなメカニズムによって発揮されているのか、遺伝子対遺伝子説のみでは説明できませんでした。近年、動物の自然免疫と植物の耐病性の分子機構に類似した機構があることが明らかになっており、植物の免疫系も動物と同様に、少ない遺伝子を組み合わせることにより多様な病原体を認識し、防御系を発動している可能性が考えられます。 【論文題目】
Interfamily transfer of dual NB-LRR genes confers resistance to multiple pathogens 米国オンライン科学誌「PLOS ONE(プロスワン)」(日本時間2月21日付け) 「2つの抵抗性遺伝子を導入した植物は複数の病原体に対して抵抗性を示す」 DOI:10.1371/journal.pone.0055954 プレスリリース全文 [PDF:438KB]
問い合わせ先など
|