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プレスリリース
生物研
解禁時間は7月21日午前4時
(新聞は21日朝刊から)
平成27年7月17日
国立研究開発法人農業生物資源研究所

『幼若ホルモン』フリーのカイコを作出

−安全な農薬開発に有効な遺伝子を特定−

ポイント
  • 昆虫の脱皮と変態に関わる幼若(ようじゃく)ホルモン※の阻害剤は農薬の有力候補ですが、幼若ホルモンは不安定で解析が難しく、その生合成や働きに関わるタンパク質についての情報は不十分でした。
  • 今回、幼若ホルモンの合成酵素タンパク質の一つと受容体タンパク質の働きを止めたカイコを、それぞれ作出したところ、最大の食害をもたらす終齢幼虫になる前に死にました。
  • カイコと共通点が多いチョウ目害虫のこれらのタンパク質の働きを抑えることにより、幼虫による食害を防ぐ、新たな農薬の開発を行っています。
概要
  1. 農業生物資源研究所(生物研)は、幼若(ようじゃく)ホルモンの合成酵素の一つとその受容体タンパク質の遺伝子の働きをそれぞれ止めることにより、「幼若ホルモンを全く作れないカイコ」と、このホルモンの「受容体が機能しない(幼若ホルモンが働かない)カイコ」を作出し、この酵素やタンパク質を阻害した場合の効果を確認しました。
  2. 幼若ホルモンは昆虫に特有のホルモンで、昆虫の脱皮・変態などを制御しており、体内に幼若ホルモンがあると、幼虫から幼虫へ脱皮し、幼若ホルモンがなくなると幼虫はサナギになることが知られています。
  3. これまで生物研では、幼若ホルモン合成酵素の一つをほとんど作れないカイコを見出していましたが、このカイコの一部は成虫になるため、ここで標的となった酵素は、農薬のターゲットとしてはやや不十分でした。
  4. 今回作出したカイコは、いずれも最大の食害をもたらす終齢幼虫になる前に死んだことから、今回標的とした酵素やタンパク質を阻害する薬剤は農薬として有効であると考えられます。
  5. また、今回作出したカイコにより、幼若ホルモンが無いと早くサナギになり、そのまま死ぬというだけではなく、幼若ホルモンが無くても幼虫が2回までは脱皮できることが明らかとなり、これまでの定説を覆す画期的な発見となりました。
  6. 幼若ホルモンの構造は昆虫のグループごとに異なっており、今回確認した酵素やタンパク質はチョウ目に特有のものであることから、チョウ目害虫だけを対象とした新たな農薬の開発が可能になります。現在、これらのタンパク質の働きを阻害する薬剤の開発を進めています。
  7. この成果は、米国科学アカデミー紀要で、7月20日(日本時間で7月21日)に発表される予定です。
予算:科研費基盤(A)「ノックアウトカイコで拓く幼若ホルモン研究の新展開」
(平成25.26年度)
プレスリリース全文 [PDF:460KB]
【発表論文】
  1. Takaaki Daimon, Miwa Uchibori, Hajime Nakao, Hideki Sezutsu, Tetsuro Shinoda(2015) Knockout silkworms reveal a dispensable role for juvenile hormones in holometabolous lifecycle. Proceedings of the National Academy of Sciences, the United States of America.
Proceedings of the National Academy of Sciences, the United States of America(8月18日号)の Featured Imageに選ばれました。
http://www.pnas.org/content/current
問い合わせ先など
研究代表者:農業生物資源研究所 理事長 廣近 洋彦
研究推進責任者:農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域
領域長 野田 隆志
農業生物資源研究所 昆虫成長制御研究ユニット
ユニット長 篠田 徹郎
 電話:029-838-6075 E-mail:shinoda@affrc.go.jp
研究担当者:農業生物資源研究所 昆虫成長制御研究ユニット
主任研究員 大門 高明(留学中)
  E-mail:daimontakaaki@affrc.go.jp
広報担当者:農業生物資源研究所広報室長 谷合 幹代子
 電話:029-838-8469
本資料は筑波研究学園都市記者会、文部科学省記者会、科学記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブに配付しています。

【掲載新聞】  7月30日化学工業日報
8月7日常陽新聞
8月28日日本農業新聞

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