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プレスリリース
平成15年8月19日
独立行政法人 農業生物資源研究所
理化学研究所
岡山県生物科学総合研究所






イネ完全長 cDNA を利用した遺伝子機能解析で、農業生物資源研究所、理化学研究所、岡山県生物科学総合研究所が共同研究を開始

- 効率よく短時間に解析できるハイスループットなイネ遺伝子機能解析と有用遺伝子単離に向けて -

[要約]

  独立行政法人農業生物資源研究所、理化学研究所、岡山県生物科学総合研究所は、農業生物資源研究所を含む3研究機関が協力して収集し塩基配列を解読したイネ完全長 cDNA と、理化学研究所で開発した完全長 cDNA 高発現遺伝子探索法 ( FOX Hunting System ) を利用し、ポストイネゲノム研究の一環として、イネ遺伝子の高速機能同定を目指す共同研究を開始することで合意した。本共同研究により、イネ遺伝子の機能解明が一段と加速されるものと期待される。

[背景]

  1. 平成15年7月に農業生物資源研究所は、理化学研究所、国際科学振興財団と共同で、イネ遺伝子の完全長 cDNA 3万2千個の塩基配列を解読した。これらは、タンパク質を作る有用な情報を含む遺伝子で、今後、これらを集中的に解析することにより、効率的に遺伝子の機能解析が推進できるものと期待されている。
  2. 理化学研究所は、昨年シロイヌナズナの完全長 cDNA 1万6千個の解読に成功しており、これらを利用して迅速に遺伝子機能を解析するための方法 ( FOX Hunting System ) を開発している。この方法により、従来法よりも高い効率で、遺伝子の機能に関する情報を取得できることが示されている。
  3. 農業生物資源研究所は、イネ遺伝子の機能解析法の一つとしての遺伝子破壊技術を開発しており、遺伝子破壊系統5万種類を作出し、機能解析研究の有効なリソースとして利用されている。しかし、一部の遺伝子は重複により、遺伝子破壊法では機能解析が困難であることも明らかにされてきており、遺伝子破壊法を相補する新たな遺伝子機能解析法の開発に期待が寄せられている。
  4. 岡山県生物科学総合研究所は、シロイヌナズナをモデル植物として遺伝子の機能解析研究を精力的に進めており、開花や形態の制御に関わる重要な遺伝子の単離に成功する等の実績を上げている。
[合意内容]
  1. 農業生物資源研究所と理化学研究所は、FOX Hunting System 用ベクターを利用し、イネ完全長 cDNA を高発現するシロイヌナズナの形質転換体を作成する。
  2. 農業生物資源研究所、理化学研究所、岡山県生物科学総合研究所は、共同でイネ完全長 cDNA を高発現するシロイヌナズナの形質転換体から、それぞれの得意技術を用いた有用形質について解析して、遺伝子機能同定を行う。
  3. ハイスループットなイネ遺伝子機能解析を可能にするために、イネに比較して形質転換が容易で、世代時間が短いシロイヌナズナを用いる。
  4. FOX Hunting System により、シロイヌナズナにおいて機能の推定された遺伝子については、農業生物資源研究所がイネを用いて機能の確認を行う。
[共同研究の意義]
  1. イネ(植物)で3万個以上の完全長 cDNA の解読に成功しているのは、農業生物資源研究所を含む研究グループだけであり、理化学研究所の開発した完全長 cDNA 高発現遺伝子探索法を利用することにより、独創的かつ効率的な植物遺伝子の機能解析研究の展開が期待される。
  2. 遺伝子の機能同定には、作成される数万種類のイネ完全長 cDNA を高発現するシロイヌナズナの形質転換体について、形態の変化や種々のストレスに対する感受性の変化を解析することが必要である。イネの遺伝子機能解析において実績のある農業生物資源研究所と、シロイヌナズナにおける機能解析研究において実績のある理化学研究所、岡山県生物科学総合研究所が、共同して機能解析をすることにより、ハイスループットなイネ遺伝子機能解析が可能となる。
  3. イネ遺伝子の機能解明が加速され、草型やストレス耐性を制御する遺伝子等農業上有用な遺伝子の単離と利用が加速されるものと期待される。


[用語説明]

完全長 cDNA 高発現遺伝子探索法 ( FOX Hunting System ):
  FOX Hunting Systemは、Full-length cDNA Over-expressor Gene Hunting System の略。この方法は、完全長 cDNA を効率良く植物に導入して高発現させることによりもたらされる形質の変化から、遺伝子の機能を明らかにする方法である。具体的には、完全長 cDNA ライブラリーから、ベクター部分を取り除き cDNA 部分のみを取り出し、植物用遺伝子導入ベクターである T-DNA ベクター上に存在する発現調節配列(プロモーター)の下流に挿入し、アグロバクテリウムを介して、植物に導入する。このようにして得られる形質転換植物の示す形態の変化や種々のストレスに対する感受性の変化を解析することにより遺伝子の機能同定が可能である。形質転換が容易で、植物体が小さく世代時間が短いシロイヌナズナを用いることにより、ハイスループットな遺伝子機能解析が可能となる。

ハイスループットな遺伝子機能解析:
  わが国の大きな貢献によりイネゲノムの概要解読が終了するとともに、イネ遺伝子の約半数に対応する完全長 cDNA の塩基配列が解読された。このことは、次のステップである遺伝子機能解析研究の本格的な開始を意味し、このように構造の解析された多数の遺伝子の中から、効率良く有用な遺伝子の特定を可能にする方法の開発が重要となってきている。そのためには、多数の遺伝子の機能を効率よく短時間に解析できる方法(ハイスループットな遺伝子機能解析法)の確立が必須であり、その一つとして FOX Hunting System が注目されている。


研究責任者:独立行政法人 農業生物資源研究所 理事長:岩渕 雅樹
理化学研究所 研究調整部長:桝田太三郎
岡山県知事:石井 正弘
研究推進者:独立行政法人 農業生物資源研究所
                  分子遺伝研究グループ長:廣近 洋彦
Tel:029-838-7011
理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター
植物ゲノム機能情報研究グループ
プロジェクトディレクター:篠崎 一雄
Tel:045-503-9625
植物変異探索研究チーム
チームリーダー:松井 南
Tel:045-503-9585
岡山県生物科学総合研究所 室長:小田 賢司
Tel:0866-56-9452
広報担当者:独立行政法人 農業生物資源研究所
企画調整部 情報広報課長:下川 幸一
Tel:029-838-7004
理化学研究所 広報室:田中 朗彦
Tel:048-467-9271


[掲載新聞]
2003/08/20日本工業新聞、日本農業新聞、日刊工業新聞、化学工業日報
2003/08/25日本食糧新聞


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