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プレスリリース
平成17年8月1日
独立行政法人 農業生物資源研究所




遺伝子組換えによりカイコの変態を制御することに成功
−昆虫に特異的な農薬開発の効率化に期待−

【要約】
 (独)農業生物資源研究所では、昨年解読を終了したカイコゲノム情報を利用して、昆虫だけが持つユニークな生理現象の解析を行っています。その結果、遺伝子組換えカイコの作出技術を用い、昆虫幼若ホルモン1分解に関わる酵素の一つ、幼若ホルモンエステラーゼ2を過剰に発現させることによって、幼虫の体内のホルモン量を極端に低下させ、早熟変3を誘導することに成功しました。
  本成果で開発された実験系を用いることで、幼若ホルモンを分解する酵素の脱皮変態制御機能や未解明部分が多い幼若ホルモンの作用機構の解明が急速に進み、さらに環境に対する影響が小さく、昆虫に特異的で、かつ種間で選択性を持つ農薬開発の効率化をもたらすものと期待されます。
  本研究成果は、8月2日発行の米国科学アカデミー紀要(オンライン版)に掲載されます。また、9月16日に開催予定の「昆虫テクノロジー」研究プロジェクト成果発表会でも発表されます。

【背景】
 幼若ホルモンは、昆虫に固有の低分子ホルモンで、脱皮・変態、生殖など昆虫生理現象のほとんどの場面に関わる極めて重要なホルモンであり、その作用機構については未解明の部分が多く残されています。
近年、当研究所で、カイコの遺伝子情報データベース化が進み、かつ、遺伝子組換え体作出技術が確立されたことを受け、幼若ホルモンが関わる脱皮変態の仕組みについてもそれらを利用した研究を活発に行ってきました。今回、幼若ホルモンを分解する酵素、幼若ホルモンエステラーゼを過剰に発現する組換え体を作出し、遺伝子組み換え技術により世界で初めてカイコの未成熟幼虫を蛹へ変態させることに成功しました。

【内容】

  1. カイコの遺伝子組換えカイコの作出技術を用いて、昆虫幼若ホルモンを分解する酵素の一つ、幼若ホルモンエステラーゼを過剰に発現させることに成功しました。
  2. カイコは通常、4回脱皮して5齢幼虫から蛹になるのに対し、幼若ホルモンエステラーゼを過剰に発現する系統では、2回脱皮して3齢幼虫から蛹になる早熟変態が誘導されました。
  3. これまで早熟変態は、昆虫の幼若ホルモン合成器官であるアラタ体の外科的摘出、あるいは、薬剤(昆虫成育制御剤)処理によらなければ誘導されませんでしたが、今回、遺伝子組換えによって誘導できました。
  4. 幼若ホルモン研究は、ホルモン受容体が見つかっておらず、分子機構がよく分かっていなかったことから遅れていましたが、本研究成果の応用として人為的に幼若ホルモン濃度を変化させることで、その作用機構研究が発展するものと期待されます。

【今後の展開】

  1. カイコにおける新規プロモータ5が次々に単離されており、それらを用いることで時期や組織による発現制御が可能となり、幼若ホルモン作用や幼若ホルモンによって調節されている遺伝子群の機能が解析できるようになります。
  2. 幼若ホルモン濃度を自在に調節することで昆虫の成長を自由に制御することができ、さらに昆虫ホルモンの作用点を標的とする新規昆虫制御剤の検定に応用できます。これは、昆虫に特異的でかつ種間選択性を持ち、環境に対する影響が小さい農薬開発の効率化を加速するものと期待されます。

【実施研究事業】
21世紀最大の未利用資源活用のための「昆虫テクノロジー研究」(平成15〜18)

【問い合わせ先】

研究代表者:農業生物資源研究所 理事長石毛光雄
研究推進責任者:農業生物資源研究所 生体機能研究グループ長 川崎建次郎
研究担当者:農業生物資源研究所 発生分化研究グループ 成長制御研究チーム長 塩月孝博
電話:029-838-6073、FAX 029-838-6028、電子メール shiotsuk@affrc.go.jp
  譚 安江(重点支援研究員)
農業生物資源研究所 昆虫生産工学研究グループ 遺伝子工学研究チーム長 田村俊樹
広報担当者:農業生物資源研究所 企画調整部 情報広報課長本間方生
電話:029-838-7004 FAX 029-838-7044、電子メール honma@nias.affrc.go.jp

【用語解説】

  1. 幼若ホルモン(juvenile hormone, JH)
      昆虫において、脱皮・変態、生殖成熟、休眠の導入・覚醒、翅型や体色の多型、分業、寿命など極めて多様な生理現象を支配しています。しかし、そのホルモンの分子情報を受け取る側の受容体が単離されておらず、分子作用機構については未解明の部分が多く残されています。
  2. 幼若ホルモンエステラーゼ (juvenile hormone esterase, JHE)
      昆虫の幼若ホルモンを特異的に分解する酵素です。最終齢になって体内から全ての幼若ホルモンが無くなることが幼虫から幼虫へ脱皮を繰り返す状態から蛹に変態する状態への切替えに必要で、その分解のために最終齢幼虫の血液中に多量に存在します。
  3. 早熟変
      昆虫種により、幼虫期間の齢数(脱皮の回数)は決まっていて、カイコでは最終齢が5齢です。最終齢まで脱皮生育せず、途中で蛹へ変態することを早熟変態と呼びます。幼若ホルモンの生合成器官であるアラタ体を摘出したり、ある種の成長制御剤を塗布処理したりした場合に、早熟変態が誘導されることが知られています。
  4. プロモータ
      実際にタンパク質として発現される遺伝子の前に位置し、転写反応をコントロールするための配列です。時期特異的、あるいは組織特異的に発現をコントロールするプロモータが発見されれば、そのプロモータを前に連結することで、目的とする遺伝子の発現をコントロールすることが可能となります。

参考資料

図.遺伝子組換えによりカイコの変態を制御することに成功
(画像をクリックすると拡大画像が表示されます)

【掲載新聞】
8月 2日 日本農業新聞
8月 3日 常陽新聞,日刊工業新聞,化学工業日報
8月10日 農業共済新聞
8月26日 科学新聞