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プレスリリース
平成17年8月8日
独立行政法人 農業生物資源研究所
社団法人 農林水産先端技術産業振興センター





イネゲノム塩基配列国際コンソーシアムが37,000個の遺伝子を解析
−完全解読塩基配列を基に、イネゲノムの詳細な特徴が国際共同研究で明らかに−


  平成16年12月に我が国を中心とする国際イネゲノム配列解読コンソーシアム(IRGSP,10の国と地域から構成)はイネ「日本晴」ゲノムの完全解読を達成し、島村農林水産大臣に報告しました。我が国はイネの12本の染色体の内6本を担当し、全体で3億9千万からなる塩基対の配列のうち55%の解読に貢献しました。

  解読終了後、コンソーシアムは完全解読されたゲノム配列を基にして、国際共同研究によって遺伝子の構造と機能、繰り返し配列や挿入配列と呼ばれる特殊な配列、他種生物のゲノムとの比較研究などイネゲノム構造の特徴を明らかにする解析をおこない、その結果はまもなくネーチャー誌8月11日号に発表されます。

  イネには37,544の遺伝子が検出され、その29%は同じ遺伝子がゲノム上の非常に近い位置に重複して存在しており、最大のものでは134個もの同じ遺伝子が染色体上に連続しているのが観察されました。全体の71%(26,837個)は、既に解析されたシロイヌナズナ(双子葉植物)の遺伝子と共通でしたが、8%(2,859個)は双子葉植物に似た遺伝子はなく、イネを含む単子葉植物に特徴的な遺伝子と思われます。全遺伝子の63%には機能が既知の配列が見られ、主要な機能としては、情報伝達にかかわるタンパク質リン酸化酵素やタンパク質相互作用にかかわる領域(ロイシンリッチリピート)をもつタンパク質などが挙げられます。

  今回のイネゲノム塩基配列からは、ゲノムの蛋白質の設計図としての機能以外の重要な情報も明らかになりました。

  イネゲノム中にはトランスポゾンと呼ばれるゲノム上を転移できる配列が全体の35%を占め、また細胞内小器官である、葉緑体やミトコンドリアのDNAがイネ核ゲノムのDNA中に大規模に移行している事も明らかになりました。さらに最近その機能が注目されている、タンパク質の暗号を持たない配列でありながらRNAに翻訳されると、非コーディングRNAとして何らかの機能を持つ配列の存在も確認されました。またイネゲノムでは、染色体の分配や対合に必須な領域であるセントロメアの全構造が高等真核生物では初めて、3本の染色体(第4、第5、第8)について明らかになりました。

 今回イネゲノム構造の特徴解析に用いられた正確なイネゲノム塩基配列は既に公的データベースに公開されており、有用な遺伝子の単離、新品種育成、正確な品種識別等の応用面で大いに役に立っています。まずゲノム塩基配列を利用して、目印になる配列(DNAマーカー配列)の存在箇所を正確にゲノム上に位置づけることができます。このマーカーを利用した遺伝解析によって多くの農業上有用な遺伝子の位置が同定され、さらに塩基配列を利用して遺伝子の構造まで明らかになっています。この様な遺伝子には背丈(草丈)を決める遺伝子、日長に反応する遺伝子、いもち病の抵抗性遺伝子、そして収量を増加させる遺伝子等があります。またこのようにして作成された多くの有用形質遺伝子の詳細な遺伝地図を基にしてDNAマーカーによる優良個体の選抜が可能になり、育種の効率化に役立っています。

 これらに加えてゲノム塩基配列を利用した高精度な品種の識別が可能になり、私たちの食の安心・安全を守ることに貢献しています。


【背景】

  平成10年に結成されたイネゲノム塩基配列解析プロジェクト(通称国際イネゲノム配列解読コンソーシアム)はイネゲノムの全体像を把握することを目的とし、平成14年12月に、まず重要部分の配列解読を終了し、ついで平成16年12月に完全解読を達成しました。

  わが国は平成3年に開始したイネゲノム解析研究により、イネの遺伝地図、発現遺伝子地図物理地図等の基盤を世界に先駆けて整備し、コンソーシアムの中心および議長国として全塩基配列解読を主導しました。国際コンソーシアムでは、国際共同研究の合意の下に、ゲノム塩基配列解読のための材料や情報、技術の共有化をすすめ、得られた塩基配列の公的データベースへの即時公開を行ってきました。

  イネは世界人口の約半分の主食として最も重要な食糧です。そのため公開されたイネの正確なゲノム塩基配列とその解析結果は、イネの収量を増大し、悪環境でも育つイネを育成し、世界における食糧安定供給の基盤となる人類の生存にとって重要な情報です。

  イネの遺伝資源は世界中の多様な栽培環境に豊富に存在します。また、栽培種イネに近縁な野生種イネも亜熱帯地域に存在します。今回明らかにされたイネゲノム構造の解析結果から、これらのイネがもつ耐病性や耐虫性、あるいは耐乾燥性や耐塩性、多収性や良食味性、いまだ未知の形質、遺伝子など、今後のイネ栽培に望まれる遺伝情報が迅速に得られ、利用されていくことが期待されます。

  またイネを含むイネ科穀類には、ゲノム上の遺伝子の並び順に相同性が存在します。これにより、イネゲノムの配列を利用して、トウモロコシやコムギなどの他の主要作物から、重要な遺伝子の単離、解析、さらには育種研究などに利用して、最終的には人類全体の食糧生産を安定化していくことが期待されます。

【問い合わせ先】

研究代表者:農業生物資源研究所 理事長 石毛 光雄
研究推進責任者:農業生物資源研究所 理事 佐々木 卓治
研究担当者:農業生物資源研究所 ゲノム研究グループ 植物ゲノム研究チーム長 松本 隆
電話:029-838-7441、FAX 029-838-7468、電子メール mat@nias.affrc.go.jp
   
共同研究機関 農林水産先端技術産業振興センター 農林水産先端技術研究所 研究第一部長 江口 恭三
電話:029-838-2113、FAX 029-838-1780、電子メール eguchi@staff.or.jp
広報担当者:農業生物資源研究所 企画調整部 情報広報課長 本間 方生
電話:029-838-7004 FAX 029-838-7044、電子メール honma@nias.affrc.go.jp

【用語解説】

  1. ロイシンリッチリピート
     塩基配列から推定される 20-30のアミノ酸配列が特徴のある単位(モチーフ)となり、この単位が2-45回繰り返している構造。モチーフ中に多くのロイシン(アミノ酸の一種)が含まれるのでこの名前が付きました。ウイルスから真核生物まで幅広く分布し、他のタンパク質との相互作用部位と考えられています。ロイシンリッチリピートがあるタンパク質の機能は細胞接着、シグナル伝達、RNA分解、病害抵抗性、など多岐に亘ります。
  2. トランスポゾン(転移因子)
      ゲノム中を転移できる塩基配列。トランスポゾンがゲノムの中を転移した結果が散在性の反復配列(同一塩基配列を持つ部分がゲノム中のあちこちに散在して多数存在しているもの)ではないかと考えられています。トランスポゾンには、元あったところからDNAが切り出されてゲノム上の別の場所に飛び込むタイプと、元の配列はそのままで、RNAの中間体を作りこれがDNAに逆転写されて別の場所に組み込まれるタイプがあります。真核生物のゲノムは数多くのトランスポゾンが組み込まれており、現在それがゲノム中で果たす役割について研究が続けられています。
  3. 発現遺伝子地図
      イネゲノム研究では40,000にも及ぶ発現遺伝子を捕捉し、その配列解読を行いました。発現遺伝子地図はそれらの内6,591個について実験によって同定されたゲノム上の位置を示したものです。この地図には、各遺伝子のゲノム上の位置ばかりでなく、多くのDNAマーカーのゲノム上の位置を新たに示しました。
  4. 物理地図
      ゲノム全体を酵母や大腸菌にクローニングされたゲノム断片で置き換えたもの。まずゲノムDNAを多数の断片に裁断し、YAC,PAC,BACと呼ばれるベクターにクローニングして多くのクローンを得ます。これらを発現遺伝子地図や遺伝マーカー等を用いて、これらのクローンのゲノム上における位置を同定します。この様にしてそれぞれの断片の位置が表された地図ができます。ゲノム塩基配列の解読はこのPAC.BACという単位で行われ、得られた塩基配列を物理地図の順番でつないで行くとゲノム配列が完成するのです。

【掲載新聞】
8月 11日 茨城新聞、化学工業日報、産経新聞、東京新聞、日経産業新聞、日刊工業新聞、日本経済新聞、日本農業新聞、毎日新聞、朝日新聞(夕刊)