アグリ・ゲノム研究の総合的な推進 [(旧)食料供給力向上のためのグリーンテクノ計画] ― イネゲノム研究 ―

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イネゲノム研究で使われる主な用語

アソシエーション解析(連関解析) (association analysis)

自然集団の中に認められる形質変異と染色体上の遺伝標識(DNAマーカー)の変異との対応の程度から、形質変異に関与する染色体領域を推定する方法。集団内に高い頻度で認められる形質変異が少数の共通した遺伝子の変異による場合、原因遺伝子周辺の染色体領域にだけ、この対応関係が見られることを利用する。これまでに、ヒトの疾患に関連する候補遺伝子の探索に利用されているが、植物での利用は少ない。最近では、塩基配列多型と表現型多型を直接対応づける手法が主流となっている。

アノテーション (gene annotation)

遺伝子注釈とも呼ばれる。塩基配列の持つ機能について解釈を加えること。全ゲノムの塩基配列を解読しただけではその生物が持つ塩基配列の機能を明らかにしたことにはならない。どの領域がどのような機能を持つタンパク質をコードする領域であるかなどの「注釈」がゲノム情報を利用するうえで大変重要となる。

イネゲノム解析

イネの全遺伝情報の解明をめざす戦略的研究。具体的には、遺伝子の塩基配列の決定(cDNAの大量解析)、RFLPを用いたcDNAの染色体上への位置づけ(遺伝地図の作成)、染色体の再構築(DNA整列化)、およびそれらの情報を効率的に整理・管理するためのデータベースの作成を総合的に推進している。これらの成果が、遺伝子の構造と機能の解明、有用遺伝子の単離などの基礎となる。

一塩基多型 (single nucleotide polymorphism; SNP)

ゲノム塩基配列中の1個の塩基置換により生じる変異。出現頻度が高くゲノム上に比較的均一に分布しているため分子マーカーとして優れている。遺伝子内の一塩基多型はアミノ酸置換を誘導する可能性があり、遺伝子内のDNA断片の欠失や挿入によって誘発される機能欠失型の変異(null)に比べ弱い変異が期待できる。

遺伝子破壊系統 (knock-out lines or gene disruption lines)

Tos17 のようなトランスポゾンやT-DNAが特定の遺伝子に挿入されることで、その遺伝子の機能がなくなるかあるいは低下した系統。PCRなどを用いて、特定の遺伝子にトランスポゾンが挿入した系統を同定することができる。

遺伝地図

遺伝子やDNAマーカーの位置関係を遺伝的距離で表した地図のこと。遺伝的距離は、連鎖解析によって算出されるので、遺伝地図を連鎖地図ともいう。

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完全長cDNAライブラリ (full length cDNA library)

発現遺伝子の全長を含むcDNAから構成されるライブラリ。最近では、遺伝子でない転写RNA由来のcDNAも含まれることがわかった。完全な長さのcDNAをより多く得るためにオリゴキャップ法、キャップトラッパー法といった日本で開発された技術が利用されている。

組換え自植系統 (recombinant inbred line; RIL)

2種類の異なる系統を交配して得た雑種個体を数世代に渡って自植して作成した系統。染色体上の様々な領域に組み換えが生じることにより、交配に用いた二つの系統の染色体が複雑に混じり合っている。

シンテニー (synteny)

比較的大きな染色体領域上で遺伝子の並び方が種を超えて保存されている現象。コムギやトウモロコシやイネなどのイネ科植物、あるいはヒトとチンパンジーといった近縁な生物のゲノム研究の成果から明らかとなった。イネの遺伝子の並びからコムギやトウモロコシの遺伝子の並びを推定できる領域が存在する。コムギやトウモロコシの遺伝子単離に役立つと期待されている。

染色体断片置換系統 (chromosome segment substitution line; CSSL)

染色体の一部のみが片親(供与親)由来で、残りの部分が全てもう一方の親(反復親)となった系統。戻し交雑とDNAマーカー選抜を駆使することで作出できる。多数の系統を用い、異なる染色体領域が置換されるように選抜すると、全ゲノム領域が置換された系統群が作成できる。たとえば、コシヒカリにカサラス染色体の断片を導入したシリーズでは、全39系統で、カサラスのゲノムを網羅的に解析可能となる。遠縁の品種や系統を交配した場合、孫の世代でいろいろな形質が分離し、通常の遺伝学や育種の材料として扱うのは困難であるが、染色体断片置換え系統ならば通常の圃場で形質評価が可能であり、さらにメンデルの法則に従う遺伝学が利用できる。イネでは、近縁野生種由来の染色体を導入したものを特にイントログレッション(introgression)系統と呼ぶことが多い。育種の母本として非常に高いポテンシャルを持つと期待されている。

プロテオーム (Proteome)

タンパク質(Protein)と遺伝子総体(genome)を合成した造語。

ホールゲノムショットガン法 (whole genome shotgun)

全ゲノムDNAを比較的小さな断片にし、それぞれの断片の塩基配列の重なりをもとにコンピュータを用いてつなげることにより全ゲノム塩基配列決定をしようとする方法。

マイクロアレイ (microarray)

スライドグラス上に数千から数万のDNA断片を乗せ、サンプルから調整したRNAをハイブリダイズすることで、多くの遺伝子発現を一度に解析できる。最近は、スライドグラス上で、DNA断片を合成するタイプが主流になりつつある。

マップベースクローニング (map-based cloning)

ポジショナルクローニングともいう。詳細な遺伝子地図をもとにDNAマーカーで候補染色体領域を絞り込み目的遺伝子を特定する手法。

連鎖解析 (linkage analysis)

遺伝子は染色体上につながって存在しており、同じ染色体上に互いに近接して存在する遺伝子はそれらがセットとして次の世代に伝えられる傾向が強くなる。このような遺伝子間の関係のことを連鎖という。遺伝子間の距離が大きくなるほど、「染色体の組換え」によって連鎖関係が解消される。交雑後代の分離世代において、この性質を利用して遺伝子の染色体上の相対的な位置を決定する手法を連鎖解析と呼ぶ。

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cDNA

相補的DNA(complementary DNA)の略。cDNAはメッセンジャーRNAを鋳型にして、逆転写酵素によって合成した人工DNAのことであり、ゲノム中で発現し、タンパク質をつくる領域の遺伝子情報そのものである。

DNAマーカー (DNA marker)

品種や系統間に見られるDNA配列の違いを利用した遺伝標識。ゲノム中にある多数のDNAマーカーは、形質変異に関係する遺伝子の染色体上の位置を特定する遺伝解析(連鎖解析、QTL解析)に役立つ。また品種間の遺伝的な類縁関係を調べることにも利用される。

EST (expressed sequence tag)

生物の組織から抽出したmRNAを鋳型に、cDNAを合成する。ある生物組織内で、機能している遺伝子の断片情報が得られる。多数のEST配列情報をデータベース化することで、その生物が利用している遺伝子に関する貴重な情報が、多く得られる。

PCR (polymerase chain reaction)

少量のDNAを鋳型に、耐熱性DNA合成酵素(Taq DNA polymeraseなど)を用いて、DNAを数百万倍に増幅する方法。

SSR (simple sequence repeats)

ゲノム上に高頻度に散在する2〜5bp程度の特定の配列(GCやATTなど)が、繰り返す領域を指す。繰り返しの数が高頻度で変化し、品種間で多型が見られることが多い。繰り返し領域の外側の配列をもとにプライマーを設計し、PCRによって増幅されたDNA断片の長さの違いを検出して遺伝マーカー(DNAマーカー)として利用する。

YAC,BAC/PACクローン (YAC, BAC/PAC clone)

巨大なDNA断片をクローニングできるベクターに、ゲノムDNA断片を導入したクローン。YACは酵母を宿主として300〜500kb、BAC/PACは大腸菌を宿主として100〜200kbをクローニングできる。

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