TNF-α遺伝子を欠損したミクログリア細胞株の樹立


[要約]
  腫瘍壊死因子(TNF-α)遺伝子欠損マウスの新生子脳から初代培養したミクログリアにレトロウィルスベクターを用いて癌遺伝子を導入し、不死化細胞株TKMG-7を樹立した。TKMG-7は形態学的、免疫細胞化学的および生理学的に初代培養ミクログリアの性格を維持した細胞株であり、ミクログリアの機能におけるTNF-αの役割を探る上で有用と考えられる。
農業生物資源研究所・生体防御研究グループ・分子免疫研究チーム

[連 絡 先]0298−38−7801
[分   類]技術開発
[キーワード]ミクログリア、腫瘍壊死因子、レトロウィルスベクター、不死化細胞株


[背景・ねらい]
  腫瘍壊死因子(TNF-α)は主としてマクロファージ系の細胞で産生される多機能性サイトカインであり、免疫応答やアポトーシスに重要な働きをしている。一方、ミクログリアは中枢神経系を構成するグリア細胞の一種であり、脳の損傷や神経変性疾患において神経病態の発生、あるいは神経組織の修復などに関与することが明らかになりつつある。ミクログリアは脳における唯一の抗原提示細胞として脳内の免疫応答を調節し、種々の刺激に応じてTNF-αを含む種々のサイトカインを産生する。近年、これらのサイトカインが神経変性疾患の発生に果たす役割が注目されている。本研究においては、ミクログリアの機能におけるTNF-αの役割を探るための一助として、我々が先に作出したTNF-α遺伝子欠損マウスに由来するミクログリア細胞株を作出した。

[成果の内容・特徴]
  1. 生後0〜1日のマウス新生子の脳細胞を分散・初代培養し、およそ2週間後に増殖してくるミクログリアを高純度に分離することができた(図1)。
  2. ヒトc-myc遺伝子を含むレトロウィルスベクターをミクログリアへ感染させ、薬剤耐性コロニーを分離して、クローニングを行い、野生型及びTNF-α遺伝子欠損マウスから、それぞれWTMG-6およびTKMG-7と名付けたサブクローンを得た。
  3. 樹立したミクログリア細胞株の倍加時間は約34時間で、極めて安定に増殖した(図2)。細胞株の形態は初代培養ミクログリアに類似し、ラテックスビーズの貪食能、特異的マーカーであるMac-1やF4/80の発現(図3),リポポリサッカライド(LPS)とインターフェロンγで活性化されると主要組織適合遺伝子複合体(MHC Class II)抗原の発現が上昇すること、さらに神経細胞との共培養刺激系において神経細胞死を誘発する(図4)など、初代ミクログリアの持つ性質をよく保持していた。野生型ミクログリア細胞株(WTMG-6)ではLPSなどの刺激によって大量のTNF-αが放出されたが、TNF-α遺伝子欠損ミクログリア(TKMG-7)ではTNF-αは全く検出されなかった。

図1

図2

図3

図4
[成果の活用の留意点・波及効果・今後の展望等]
  1. 初代培養ミクログリアの性質を保持した細胞株が作出されたことで、均一な実験材料が安定的に供給される。また、実験の度にマウス新生子を使用しなくて済み、動物実験倫理上のメリットがある。
  2. TNF-α遺伝子欠損マウス由来のミクログリアは活性化されてもTNF-αを全く産生しない。TNF-αを産生する野生型ミクログリア細胞株と比較することで、ミクログリアの様々な機能におけるTNF-αの役割を探ることができる。
  3. 樹立されたミクログリア細胞株は脳に対する薬物や遺伝子導入のためのキャリアーとして利用できる可能性がある。

[その他]

研究課題名    :マクロファージ系細胞株の作出と培養系における機能解析
予算区分      :交付金
中期計画課題コード:A692−2
研究期間      :01年度
研究担当者    :木谷 裕、辻 典子、広狩康裕
発表論文等    :木谷 裕、松本由記子、高田益宏、山中晴道、関川賢二(2001)
            「TNF-α遺伝子欠損マウスに由来するミクログリア細胞株の樹立」
            組織培養研究:Tissue Culture Research Communications Vol.20, No.2, p93

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