ダイズ斑点細菌病菌の宿主特異性に関与するflagellin糖鎖修飾関連遺伝子群


[要約]
  ダイズ斑点細菌病菌Pseudomonas syringae pv. glycineaのべん毛構成タンパク質flagellinは糖タンパク質である。その糖鎖修飾関連遺伝子群の変異株では、宿主であるダイズに対する病徴発現能が低下し、非宿主であるタバコに対しては病徴様の変化を引き起こす。本細菌の宿主特異性にはflagellinの糖鎖修飾が関与する。

農業生物資源研究所・ジーンバンク・微生物資源研究チーム

[連 絡 先]029−838−7053 [分   類]知的貢献 [キーワード]ダイズ斑点細菌病菌、flagellin、糖鎖修飾、宿主特異性


[背景・ねらい]
  植物病原細菌においてべん毛構成タンパク質flagellinが植物の防御応答誘導因子として機能し、その翻訳後修飾が相互作用に関与する可能性について報告されている。本研究では農業上重要な植物病原細菌Pseudomonas syringaeの各病原型のうち、ダイズ斑点細菌病菌(P. syringae. pv. glycinea)について、flagellin糖鎖修飾関連遺伝子群と宿主特異性との関連を解析する。

[成果の内容・特徴]
  1. flagellinをコードするfliC遺伝子の上流に、グラム陰性菌の推定糖転移酵素と相同性を示す2つのORF(orf1orf2)およびアシル基転移酵素合成タンパク質と相同性を示すORF(orf3)を見い出した。これらは、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaのflagellin glycosylation islandとして報告されている領域のORFとも相同性を示した(図1)。
  2. Δorf1およびΔorf2ではflagellinの分子量が低下した(図2A)。Δorf3のflagellinは、電気泳動における分子量の変化は確認されなかった。また、糖タンパク質検出解析の結果、野生型由来のflagellinでは糖が検出されたのに対し、Δorf1由来のflagellinでは検出されず、Δorf2由来ではわずかに検出された(図2B)。
  3. これらの変異株を、非宿主であるタバコに接種した結果、Δorf1およびΔorf2は病徴様の変化を引き起こした(図3A)。一方、宿主であるダイズに対しては、これら2つの変異株において病徴発現能が低下した(図3B)。
  4. NBT還元法に基づき、野生型および変異株接種時のタバコ葉における活性酸素の生成量を測定した結果、野生型と比較してΔorf1およびΔorf2では生成量の上昇が抑えられていた(図4)。このことから、上記3のタバコ接種実験の結果は、Δorf1およびΔorf2が非宿主に対して防御応答誘導能を低下させたことによるものと考えられた。
  5. 以上の結果より、flagellin糖鎖修飾関連遺伝子は、ダイズ斑点細菌病菌の宿主特異性に関与することが明らかとなった。

図1

図2

図3

図4
[成果の活用上の留意点・波及効果・今後の展望等]
  1. flagellin修飾糖鎖を特異的に認識する植物側の受容体同定のツールとなる。
  2. 植物に抵抗性を付与する新たな活性剤の開発が可能となる。
  3. 宿主特異性を決定する糖鎖の構造を明らかにする必要がある。


[その他]

研究課題名    :微生物遺伝資源の特性評価法の高度化(植物病原細菌の植物間相互作用           に関連する形質の遺伝子解析) 予算区分     :交付金 中期計画課題コード:E12-5 研究期間     :01〜05年度 研究担当者    :竹内香純,[田口富美子,稲垣善茂,豊田和弘,白石友紀,一瀬勇規           (岡山大)] 発表論文等    :1)Takeuchi K, Taguchi F, Inagaki Y, Toyoda K, Shiraishi T,            Ichinose Y,(2003)Flagellin glycosylation island in            Pseudomonas syringae pv. glycinea and its role            in host specificity. J. Bacteriol. 185 : 6658-6665

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