タンパク質の水素、水和構造


[要約]
  水素、水分子を含むタンパク質の全構造をX線解析、中性子線解析法により原子レベルで決定し、高度に制御されたタンパク質の構造構築原理、酵素反応機構、分子認識などを明らかにした。

農業生物資源研究所・生体高分子研究グループ・蛋白機能研究チーム

[連 絡 先]0298−838−7010 [分   類]知的貢献 [キーワード]X線解析、中性子線解析、水素、水分子、酵素反応機構、分子認識


[背景・ねらい]
  水素原子はタンパク質や核酸構成原子の数の約半分を占めるが、X線解析法で水素原子位置を決定するのは困難であった。水素原子やタンパク質を取り巻く水分子の配向は、タンパク質構造の形成や機能発現にとってきわめて重要である。本課題では、生物学的に興味深いタンパク質・核酸等の生体高分子を結晶化し、水素、水分子を含む全構造をX線解析、中性子線解析法により原子レベルで明らかにする。

[成果の内容・特徴]
  1. セルフリー、Pichia pastorisE.coliを利用した発現系を用いて、タンパク質の水素原子を重水素原子に置換する完全重水素置換タンパク質作製技術を確立した。
  2. 全重水素置換タンパク質の結晶化にも成功した。BGTIタンパク質の比較的大きなサイズの結晶の中性子線データを分解能2.0Åで収集した。
  3. タンパク質の高分解能X線解析を行い、差フーリエ法により一部の水素原子位置を決定した。図1のアスパラギン酸プロテアーゼの差フーリエ図からは水素結合に関与している水素原子、炭素原子に結合している水素原子などが観測された。
  4. α-アミラーゼの活性部位の水素原子及び水分子位置より、酵素反応開始ステージの機構を明らかにした。
  5. 種々のタンパク質―タンパク質複合体のX線解析により、その分子間に存在する水分子を観測した。図2にEMS16/インテグリンα-I domain複合体およびその回りに存在する水分子、Mnイオン等を示した。これらの水分子がタンパク質構造の安定化、分子認識に関わっていることを明らかにした。

図1

図2
[成果の活用上の留意点・波及効果・今後の展望等]
  1. X線解析により明らかにした酵素反応機構の解明や、タンパク質間に存在する水分子による分子認識の発見はこの分野の今後の発展に寄与するものと期待できる。


[その他]

研究課題名    :タンパク質・核酸の構造構築と制御機構の解明 予算区分     :開放融合 中期計画課題コード:A321-04 研究期間     :99〜03年度 研究担当者    :水野洋,高瀬研二,門間充,藤本瑞,若生俊行 発表論文等    :1)Mizuno H, Fujimoto Z, Atoda H, Morita T,(2001)Crystal            structure of an anticoagulant protein in complex with            the Gla domain of factor X. Proc. Natl. Acad. Sci. USA,            98 : 7230-7234           2)Fujimoto Z, Kaneko S, Momma M, Kobayashi H, Mizuno H,            (2003)Crystal structure of rice α-galactosidase complexed            with D-galactose. J. Biol. Chem., 278 : 20313-20318           3)Shikamoto Y, Morita T, Fujimoto Z, Mizuno H,(2003)Crystal            structure of Mg2+-and Ca2+-bound Gla domain of factor IX            complexed with binding protein. J. Biol. Chem., 278 :            24090-24094

目次へ戻る