イネいもち病ほ場抵抗性遺伝子pi21 の単離同定
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[要約]
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いもち病ほ場抵抗性遺伝子pi21 を単離し、既知の抵抗性遺伝子とは異なる構造と機能を持つこと、この遺伝子は我が国の陸稲など、ごく一部のイネのみが持つことを明らかにした。また、pi21 は食味の低下に関係する遺伝子のごく近い位置にあることを明らかにし、DNAマーカー選抜によるpi21 をもつ極良食味の新品種「ともほなみ(中部125号)」の育成に貢献した。
農業生物資源研究所・QTLゲノム育種研究センター
[連 絡 先]029-838-7006
[分 類]知的貢献、技術開発、農業生産
[キーワード]日本陸稲、いもち病抵抗性、ほ場抵抗性、DNAマーカー選抜
[背景・ねらい]
- イネに大被害を与えるいもち病に対し、陸稲はいもち病ほ場抵抗性の有用な遺伝子供給源として注目されてきた。これまでに陸稲から作出された系統は、収量性や食味の低さによって、実用的ないもち病抵抗性品種にならなかった。本研究では、陸稲の主要なほ場抵抗性遺伝子pi21 の特性を調べるとともに、その構造と機能を明らかにする。また、遺伝子の位置情報を利用して、pi21 遺伝子と食味を低下させる遺伝子との連鎖関係を明らかにする。
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[成果の内容・特徴]
- pi21 遺伝子による抵抗性はいもち病菌に対するレースの系統特異性が認められず、pi21 遺伝子を持つイネはいもち病に感染するが病斑面積は小さい(図1)。
- pi21 遺伝子(遺伝子番号Os04g0401000)は、既知の抵抗性遺伝子とは全く異なる構造をもち、金属結合部位とプロリンに富むタンパク質を生産する(図2)。
- pi21 遺伝子は、水稲の対立遺伝子(Pi21 )が生産するタンパク質に機能があり、抵抗性反応を抑制する。陸稲の対立遺伝子(pi21 )では、プロリンに富む配列の一部の欠失による機能の低下によって抵抗性反応の抑制が少なく、いもち病抵抗性が高まる。
- アジア栽培イネには、pi21 遺伝子のDNA変異型が11種類認められるが、いもち病抵抗性を付与するのは1種類だけであった。そのDNA変異型(pi21 型)は、我が国の陸稲など、ごく一部のイネにのみ存在した。
- pi21 遺伝子をその下流2〜37kbの染色体領域に存在する食味を低下させる遺伝子との連鎖から切り離すDNAマーカーを作成した。これらのマーカーを目印として、食味を損なう遺伝子を伴わずにほ場抵抗性を導入することができ、pi21 遺伝子をもつ系統を選びだし、極良食味の品種「ともほなみ(中部125号)」が育成された(図3)。
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[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
- 本研究で得られた情報から、DNAマーカーによってpi21 遺伝子を直接選抜できるようになった。また、pi21 遺伝子近傍のマーカーは不良形質の除去に役立ち、良食味でいもち病に強い品種の育成に利用できる。
- 陸稲のpi21 遺伝子は、罹病性対立遺伝子を持ついもち病に弱い世界中の多くのイネ品種のいもち病抵抗性の改良に役立つ。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名 :多様性研究によるイネ遺伝資源の高度化と利用
予算区分 :受託(イネゲノム、グリーンテクノ、新農業展開)
中期計画課題コード:A01
研究期間 :2000〜2009年度
研究担当者 :福岡修一、坂紀邦(愛知農総試)、古賀博則(石川県立大)、小野和子、
清水武彦(STAFF研)、江花薫子、林長生、高橋章、廣近洋彦、
奥野員敏(筑波大)、矢野昌裕
発表論文等 :1)Fukuoka S, Saka N, Koga H, Ono K, Shimizu T, Ebana K, Hayashi N,
Takahashi A, Hirochika H, Okuno K, Yano M (2009) Science 325(5943):
998-1001
2)奥野 員敏 河瀨 眞琴 福岡 修一(2007) イネいもち病罹病性遺伝子Pi21
および抵抗性遺伝子pi21ならびにそれらの利用 特開2007-6711
3)稲 第24013号 ともほなみ(系統名:中部125号)
出願年月日 2009年8月24日 育成者 坂紀邦、寺島武彦、加藤博美、
工藤悟、城田雅毅、遠藤征馬、杉浦和彦、井上正勝、福岡修一、安東郁男、
佐藤宏之、前田英郎
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