RSISを用いた簡便な遺伝子発現抑制法


[要約]
RNAサイレンシングを誘導する配列(RSIS)を標的遺伝子の一部と連結して発現させることによって標的遺伝子の発現を抑制することができる。

農業生物資源研究所・遺伝子組換え作物開発センター

[連 絡 先]029-838-8373 [分   類]技術開発 [キーワード]イネ、遺伝子発現抑制、mGLP-1、siRNA


[背景・ねらい]

遺伝子発現抑制法は、遺伝子の機能解析といった基礎研究だけでなく、代謝制御による高付加価値作物の開発などの応用研究においても広く利用されている。ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は血糖値に依存してインスリン分泌を促進するし、糖尿病に有効と考えられている。このGLP-1を一部改変したmGLP-1をイネ胚乳中に蓄積させるため、胚乳のみで発現するグルテリン(GluB-1 )プロモーターとターミネーターの間にmGLP-1 遺伝子を挿入し形質転換した。ところが、mGLP-1が蓄積しないだけでなく胚乳中のGluB-1の発現が抑制された。本研究ではmGLP-1 を任意の遺伝子の一部と連結して発現させることでその遺伝子の発現が抑制されるか検証し、新規の遺伝子発現抑制法として利用できるかどうかを明らかにすることを目指した。

[成果の内容・特徴]
  1. mGLP-1をイネ胚乳中に発現させるために、胚乳のみで発現するグルテリンGluB-1 プロモーターおよびGluB-1 遺伝子の一部とGluB-1 ターミネーターの間にmGLP-1 遺伝子を連結したコンストラクト(GluB less)を作成しイネに導入したところ、形質転換体ではGluBファミリーの発現が抑制されていた(図1)。
  2. mGLP-1 遺伝子を連結する配列を様々な部位(胚乳、胚、葉、根)で発現する他の遺伝子由来の配列に置換すると、それらの遺伝子の発現を抑制することができた(図1)。mGLP-1 の塩基配列から制限酵素認識配列を除去しても遺伝子の発現抑制効果に差は無く、その配列をRSIS(RNA silencing inducible sequence)と名付けた。
  3. RSISの5’側(左)と3’側(右)に異なる遺伝子の一部を連結して発現することで(GluB Glb less:5’側にグルテリンGluB-1 、3’側にグロブリンGlb-1 )、両方の遺伝子の発現を抑制することができた(図1)。
  4. 複数のRSIS発現コンストラクトを1つのバイナリーベクターに搭載することで、1度の形質転換で複数(3個以上)の遺伝子発現を抑制することができた(図2)。
  5. 標的とした遺伝子の発現が抑制されている形質転換体では、抑制された遺伝子に由来する21-24塩基の小分子RNA(siRNA)が産生されていた。siRNAは遺伝子発現抑制を引き起こすことが知られているため、RSISを発現させたことで生じたsiRNAによって遺伝子発現の抑制が起こると考えられた(図3)。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
  1. RSISは制限酵素認識配列を含まず、RNAiコンストラクトのヘアピン構造のような複雑な立体構造を取らせる必要がないため、ベクター作成が容易である。
  2. RSISを用いることで簡便に複数遺伝子の発現抑制が可能になり、基礎研究・応用研究の両方に非常に有効である。
  3. 複数のアレルゲン遺伝子発現を抑制することで、米アレルギー患者用の遺伝子組換え米を開発することや、一連の代謝経路に関わる遺伝子群の発現を抑制し、代謝経路を改変することが可能と期待される。
  4. イネ以外の作物 にも適用できると期待される。

[具体的データ]

    図1 RSISによる種子貯蔵タンパク質の低減  (左) 形質転換で導入したコンストラクト。(右) 形質転換イネの種子タンパク質のSDS-PAGE。GluB lessではGluBファミリー(*)が、GluB Glb lessではGluBファミリーとグロブリンが、13kD Prolessでは13kDプロラミンが低減している。SP:シグナルペプチド
図1 RSISによる種子貯蔵タンパク質の低減
(左) 形質転換で導入したコンストラクト。(右) 形質転換イネの種子タンパク質のSDS-PAGE。GluB lessではGluBファミリー(*)が、GluB Glb lessではGluBファミリーとグロブリンが、13kD Prolessでは13kDプロラミンが低減している。SP:シグナルペプチド


図2 RSISによる複数種子貯蔵タンパク質の低減  (左) 形質転換で導入したコンストラクト。(右) 形質転換イネの種子タンパク質のSDS-PAGE。異なるグルテリン遺伝子の一部を組み合わせた3-glulessではほとんどのグルテリンが、グルテリン、グロブリン、プロラミン遺伝子の一部を組み合わせたssplessではグルテリン、グロブリン、13kDプロラミンが低減している。
図2 RSISによる複数種子貯蔵タンパク質の低減
(左) 形質転換で導入したコンストラクト。(右) 形質転換イネの種子タンパク質のSDS-PAGE。異なるグルテリン遺伝子の一部を組み合わせた3-glulessではほとんどのグルテリンが、グルテリン、グロブリン、プロラミン遺伝子の一部を組み合わせたssplessではグルテリン、グロブリン、13kDプロラミンが低減している。



図3 RSISの作用機構および今後の展開  標的遺伝子の一部をRSISと融合させて発現させると小分子RNAが産生され、それらがトリガーとなり標的遺伝子の発現を抑制する。
図3 RSISの作用機構および今後の展開
標的遺伝子の一部をRSISと融合させて発現させると小分子RNAが産生され、それらがトリガーとなり標的遺伝子の発現を抑制する。

[その他]

研究課題名    :新規遺伝子発現抑制制御技術の開発 予算区分     :受託(新農業展開) 中期計画課題コード:C12 研究期間     :2006〜2009年度 研究担当者    :高岩文雄、保田浩(現北農研)、若佐雄也(JSPS特別研究員)、川勝泰二 発表論文等    :1)高岩文雄、保田浩:RSISを用いた簡便な遺伝子発現抑制法 特願2007-8994

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