トビイロウンカの吸汁を阻害する栽培イネの遺伝子(BPH26)を特定
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[要約]
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インド型のイネ品種から、イネの重要害虫であるトビイロウンカに対して抵抗性を示す遺伝子BPH26(ビーピーエイチ26)を単離した。BPH26遺伝子を導入したイネでは、トビイロウンカは口針をイネの師管まで挿入するものの、師管液を吸汁できずに餓死することを明らかにした。
[キーワード] | 栽培イネ、トビイロウンカ抵抗性遺伝子、吸汁阻害、BPH26、NBS-LRR |
[担当] | 生物研 昆虫科学研究領域 加害・耐虫機構研究ユニット |
| 遺伝子組換え研究センター 耐病性作物研究開発ユニット |
| 農業生物先端ゲノム研究センター 先端ゲノム解析室 |
| 植物科学研究領域 植物生産生理機能研究ユニット |
[連絡先] | 029-838-6085 |
[背景・ねらい]
- トビイロウンカはイネの最も重要な害虫の1つで、イネの師管液を吸汁して枯死させることで(図1)、深刻な被害(2013年の国内の被害額は約100億円)をもたらしている。近年、殺虫剤抵抗性を持つトビイロウンカが出現したため、その被害はより深刻になっている。これまでに、インドの栽培イネが持つBPH25とBPH26と名付けられた2つの遺伝子が同時に存在すると、現在日本に飛来するトビイロウンカにも抵抗性を示すことが明らかにされていたが、遺伝子は単離されていなかった。これらの遺伝子を利用し、トビイロウンカに対して抵抗性を示すイネ品種を開発・利用することで、殺虫剤の使用量を低減した、環境保全型の低コスト農業が推進できると期待されている。
[成果の内容・特徴]
- トビイロウンカ抵抗性遺伝子BPH26の染色体上の正確な位置を特定して、育種に有効なDNAマーカーを開発し、さらに遺伝子の塩基配列と機能を調べた。
- BPH26遺伝子を日本型イネに導入し、トビイロウンカ抵抗性をもつことを証明した。トビイロウンカは針状の口(口針)をイネの師管まで挿入するものの、そこから栄養豊富な師管液を十分吸汁できなくなり餓死した(図2)。BPH26遺伝子を持たない品種と持つ系統にトビイロウンカを放飼すると、BPH26遺伝子を持たない品種のみトビイロウンカに加害されて枯死した(図3、図4)。
- BPH26遺伝子がつくるBPH26タンパク質は、イネがカビなどの病原菌を認識するために働くNBS-LRRと呼ばれる構造を保有するタンパク質と似ていた。そのため、BPH26タンパク質はトビイロウンカの加害を認識する働きをしている可能性が示唆された。
[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]
- 2つのトビイロウンカ抵抗性遺伝子(BPH25とBPH26)が共存すると、それぞれの遺伝子が単独では効かないようなタイプのトビイロウンカに対しても、抵抗性を示すことが分かっている。
- 現在、BPH25遺伝子の育種に利用できるDNAマーカーも作製されつつあり、これら2つの遺伝子のDNAマーカーを用いることで、日本に飛来するトビイロウンカに対して幅広い抵抗性を示すイネの開発が可能となる。
[具体的データ]
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図1 イネから師管液を吸汁するトビイロウンカ
針状の口(口針)をイネに突き刺し、栄養分に富む師管液を吸汁してイネを枯死させる。
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図2 10時間測定した間にトビイロウンカが師管液を吸汁した時間の合計 |
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図3 トビイロウンカを放飼して一週間後の幼苗の様子
日本型イネ品種(左)は枯れているが、BPH26遺伝子導入系統(右)は枯れていない。 |
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図4 BPH26遺伝子が抵抗性を発揮する仕組み
BPH26遺伝子があるとウンカは栄養分のある師管液を十分吸うことができず、やがて餓死する。 |
[その他]
研究課題名 | : | ウンカ・ヨコバイ類に対するイネの抵抗性遺伝子群の単離・機能解明と利用 |
中期計画課題コード | : | 2-24 |
研究期間 | : | 2007〜2014 年度 |
研究担当者 | : | 田村泰盛、服部誠、吉岡博文(名古屋大)、吉岡美樹(名古屋大)、煖エ章、
呉健忠、千徳直樹、安井秀(九州大) |
発表論文等 | : |
1)Tamura Y, Hattori M, Yoshioka H, Yoshioka M, Takahashi A, Wu J, Sentoku N, Yasui H (2014) Map-based cloning and characterization of a brown planthopper resistance gene BPH26 from Oryza sativa L. ssp. indica cultivar ADR52 Scientific Reports 4:5872 |
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