1.生殖器による蚕児の雌雄鑑別(1904)

石渡繁胤(1904)蠶兒雌雄の判別法.大日本蠶絲會報 第145號:17-18 石渡繁胤(1904)蠶兒の雌雄撰別.蠶業新報 第134號:456-457

 従来蠶兒の外形により其雌雄を判別せんとするは甚だ難しとする所なりし是れ確乎たる雌雄の特徴の認められざりしによる然るに余は蠶兒に於ても必ず其の特殊の區別點あるべきものなるを信じ之れが研究を試みたりしに即ち明かに此區別點あるを發見せり茲に其大要を記述せん  嘗て蛹に於ける外貌は雌雄各特徴あることを研究し之れを公にしたりしが尚ほ此れと同一の関係蠶兒にもあるべしと此の點に向て研究を重ねしが解剖上雌雄生殖器の導管の附着點の異なるにも關せず蛹の如く之れを外面にあらはさず火酒漬標本の如く尾部透明となりたるものは雄に於て導管の附着點を皮膚下に透視すと雖ども生活せるものにありては全く知るを得ざりしなり是れ要するに生殖器及其附屬物は化蛹の期に於て著るしく變化するものにして蠶兒に於ける生殖器一部の存在は自ら蛹と異なるものありしを以てなり然るに今や明かに雌雄の判定をなすを得べき二點あるを確めたり
 先其驗査の方法より述べん即ち五齢蠶兒十一環節及第十二環節の腹面を檢する時は第十一環節腹面に於て其中央に一對の逆ハ字状をなせる凹處あり其ハ字の各線の頭に向ひたる處に各一點を存す此點は針を以て傷けたる跡の如きものにして其點稍白く環状をなすものなれとも或は其中央に小黒點を認むる事あり此の二點の存する處は同環節腹面後方環節の界に近く存する皺線上にあるなり第十二環節に於て脚の基部の内側に稍膨脹したる處あり其膨張部の脚に接したる處に第十一環節に存すると同様の二點あり以上の如く第十一環節及第十二環節に存する各一對の點は之れを雌蛾に存して雄に存せず之れを檢せんと欲せば五倍乃至十倍の單レンズを用ゆべしレンズを用ゆるに當ては蠶兒の体躯の中央部を背面より軽く摘み之れを裏返し充分尾脚を左右に開かしめて檢するを可とす
 此の方法による時は確かに雌雄を判別するを得べく一時間に五百頭を檢するを得べし尚熟練するときは之れより迅速に判定するを得るなり肉眼にても小點明瞭なるものは誤なく判定するを得べしと雖往々明瞭を缺くものあるを以てレンズを用ゆるを可とす此の目的に用ゆるレンズは目下考案中なり五齢の起蠶及熟蠶に於ては同一環節腹面透明となるを以て稍困難なれとも之れを注意すれば誤ることなし叉火酒標本にありては同しく透明となりてすべて他の皺は不明瞭となり却て二對の點の存する處に稍大なる白圓點を皮膚下に透視するを得るを以て容易に雌たるを判別するを得べし而して雄にありては之れを認めすして前に述へたる如く生殖器の附着點を第十二環節前部の中央に透視するを得るなり抑此の二對の點は何者なるやと云ふに解剖上此を檢するに二對の腺体は雌に存して雄に存せさるによるものにして此の腺体は後に至り生殖器の一部及附屬器となるものなり
 檢査上誤謬を來し易きは雄に於て第十一環節に於けるハ字状點の(ハ字状は斜行小筋肉の附着點なり)時として分離したるものあることこれなり然れとも其離れたる點決して後方の皺線上にあることなし尚圖解其他の詳細は後號の誌上更に報する所あらん


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