9.W染色体に優性雌性因子が存在する(1933)

橋本春雄(1933)蚕のテトラプロイド雌の遺伝学的研究. 蠶業試驗場報告 8(7):359-381

1.産下直後のカイコ卵を高温にあて、d油蚕遺伝子の伴性遺伝にたいし例外雌を得た。この例外雌のうち、大形卵を産んだ7匹について、遺伝学的細胞学的研究を行って、その成り立ちを調べた。

2.黄血、虎蚕斑紋、過剰腹肢について異型接合体のこの例外雌をd油蚕雄に戻し交雑した。戻し交雑F1において、黄血、虎蚕斑紋、過剰腹肢の3遺伝子は互いに独立遺伝をし、1:1と5:1との分離比が色々に組み合わさってあらわれていることが明らかになった。

3.総数21対の常染色体形質について5:1と1:1との分離比は同数であることが確かめられた。このことから、例外雌は四倍体であり、雌親の卵の減数分裂後、その卵核と極体核とが合一して三倍性融合核ができ、これが正常の精虫核によって受精されてできたことを結論とした。
  なお、この戻し交雑F1の精母細胞において、それが三倍体であることを示す分裂像を得た。

4.次に、戻し交雑F1におけるd油蚕遺伝子の分離を調べ、d油蚕と正常型とは雌雄に関係なく、1:1の分離比を示すことを確かめた。しかし、性比は異常で、雌は雄より2〜5倍多いことがわかった。

5.以上の実験結果から次のとおり結論した。すなわち、四倍性雌のもつ2本のX染色体は減数分裂において互いに両極へ分れる。戻し雑種F1は三倍体であり、その雌も雄も等しく3組の常染色体と1本のX染色体をもつのに、はっきりした雌雄があらわれるのはY染色体に原因があり、Y染色体があれば雌となり、それを欠く時は雄となる。


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