27.桑の新品種「かんまさり」「あさゆき」「ふかゆき」「わせみどり」「あつばみどり」(1966)

農林省蚕糸局(1966)桑の新品種.技術資料 第61号:1-27

1.かんまさり
()来歴:本品種は「銀芭蕉」と「十島」の交雑実生中から選出育成したもので山桑型である。試験供試中はNo.18またはDと称した。
()性状と特性:樹の姿勢はやや展開性。枝の数、枝の長さは在来品種「剣持」と同じくらいであるが、節間はやや長い。葉の大きさは中型(葉長20cm、葉幅17cm、葉柄長4cm)で「剣持」(葉長20cm、葉幅16cm、葉柄長4cm)とほとんど同じ。半光沢で葉面はやや粗硬である。葉形は2ないし3裂葉に全縁葉(裂れていない葉)を混入する。葉先は「剣持」(葉先長1cm)よりわずかに長く、葉底は「剣持」の湾入型に対し截形を呈する。また葉縁は「剣持」が鋭い乳頭状鋸歯であるのに対し幾分丸味のある乳頭状鋸歯を呈している。春の収葉量に影響のある椹(桑の実)は、着椹数の多い「剣持」より少なくなっている。また枝の先枯は「剣持」より少なく、萎縮病にやや強い。年間の収量は瘠地および傾斜地では「剣持」よりやや多い。本品種は積雪量が0.5m以下の少雪寒冷地、たとえば岩手、長野県などの瘠地、傾斜地向の品種で春秋兼用壮蚕用として使用するのに適している。
()栽培利用上の注意:萎縮病の多発するところは避ける。

2.あさゆき
()来歴:本品種は「紫早生」と「十島」の交雑実生中から選出育成したもので山桑型である。試験供試中はNo.14またはBと称した。
()性状と特性:樹の姿勢はやや展開性。枝の数は「剣持」より少なく、枝の長さもやや短い。葉の大きさは中型(葉長20cm、葉幅18cm、葉柄長4cm)で葉幅が「剣持」より幾分広い。葉面は半光沢でやや粗硬である。葉形は4裂、葉先および葉縁鋸歯の形態は「剣持」とほとんど変わらない。また葉底も「剣持」同様に湾入している。着椹数は「剣持」より少ない。耐胴枯病性および耐萎縮病性は、ともに「剣持」より強い。ただ年間の収葉量は「剣持」よりやや少ない。本品種は積雪量1m前後の中雪地たとえば岩手、福島、新潟、岐阜などの各県で春秋兼用壮蚕用桑として使用するのに適している。

3.ふかゆき
()来歴:本品種は「酒井早生」の自然交雑と「田沢」の自然交雑との交雑実生中から選出育成したもので山桑型である。試験供試中はMと称した。
()性状と特性:樹の姿勢はやや展開性。枝の数は「剣持」より少なく枝の長さはやや短い。葉の大きさは大型(葉長26cm、葉幅18cm、葉柄長4cm)で「剣持」より大きい。葉面は濃緑色を呈し粗硬である。葉形は2ないし3裂葉であるが全縁葉が混入している。葉先の長さは「剣持」と同じくらいであり、また葉底は深く湾入している。葉縁の鋸歯は幾分偏平な乳頭状を呈している。着椹数は「剣持」より少ない。耐胴枯病性および耐萎縮病性はともに「剣持」より強い。年間の収葉量は瘠地や傾斜地では「剣持」と同程度である。本品種は積雪量1.5m以上のいわゆる豪雪地たとえば福井、新潟、山形など各県の瘠地および傾斜地に向くもので春秋兼用壮蚕用桑として使用するのに適している。

4.わせみどり
()来歴:本品種は「紫早生」と「司桑」の交雑実生中から選出育成したもので魯桑型である。試験供試中はNo.19またはEと称した。
()性状と特性:樹の姿勢はやや展開性。枝の数および枝の長さは在来品種「一ノ瀬」と大差ないが節間は短く側枝がやや多い。葉の大きさは中型(葉長19cm、葉幅14cm、葉柄長4cm)で「一ノ瀬」(葉長20cm、葉幅16cm、葉柄長5cm)に比べやや小さい。葉面は光沢滑面で濃緑色を呈する。葉形は楕円、葉先は0.5cmで短く、葉底は湾入している。葉縁の鋸歯はやや不規則な丸味のある乳頭状を呈している。年間の収葉量は肥沃地、瘠地では「一ノ瀬」と大差ないが傾斜地ではやや多い。地域的には関東、中部、東海、山陰では「一ノ瀬」と変らないが四国、九州ではやや多い。耐萎縮病性は「一ノ瀬」と大差ない。本品種は次のような特性を持っている。
@脱苞期は「一ノ瀬」より5日ないし9日ぐらい早い。
A春の発芽がきわめて早いにもかかわらず晩秋期の葉の硬化が遅い。
B枝の倒伏が少なく、また凍霜被害後の再発芽が早い。本品種の適応する地域は福島県から関東以西の暖地で、春秋兼用稚壮蚕用桑として使用するのに適している。

()栽培利用上の注意:萎縮病の多発するところは避ける。

5.あつばみどり
()来歴:本品種は「長沼」と「蘇州1号」の交雑実生中から選出育成したもので魯桑型である。試験供試中はNo.37またはJと称した。
()性状と特性:樹の姿勢はやや展開性。枝の数は「一ノ瀬」よりもやや多く、枝の長さはやや長く節間も長い。枝は「一ノ瀬」にくらべ倒伏しにくい。
 葉の大きさは中型(葉長20cm、葉幅17cm、葉柄長6cm)で「一ノ瀬」と大体同じくらいであるが葉柄がやや長い。葉面は光沢があり濃緑色を呈する。葉形は楕円、葉先は小さく長さ0.5cm、葉底は深く湾入している。葉縁の鋸歯は乳頭状を呈している。本品種の特性は葉が厚く(「一ノ瀬」を100とした指数で116)、萎凋しにくいうえ、葉質が良好なことである。年間の収葉量は「一ノ瀬」に比べ肥沃地では多く瘠地では同程度、傾斜地では少ない。地域的には関東、中部、東海、山陰では「一ノ瀬」と大差なく、四国、九州では多い。耐萎縮病性は「一ノ瀬」と大差ない。本品種の適応する地域は福島県から関東以西の暖地で、春秋兼用壮蚕用として使用するのに適している。
()栽培利用上の注意:地域によって春の出開(新梢の伸びが停止する)が多く、また萎縮病の多発するところは避ける。


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