34.蚕の麹かび病菌に関する研究(1969)

河上 清、三国辰男(1969)蚕の麹かび病菌に関する研究(T)稚蚕共同飼育所に分布する麹かび病菌の病原性とホルマリン抵抗力. 蚕糸試験場報告 第23巻3号:327-370

1.1966年から1967年にかけて、岩手、福島、群馬、埼玉、茨城、神奈川、長野、東京および熊本の1都8県下の175ヵ所稚蚕共同飼育所から681点の塵埃を採集し、これら塵埃から麹かび病菌を分離培養し(検出されたのは371点(54.4%)であった)、また同時に、各機関での分離菌株(秋田、埼玉、岐阜、長野の各県)および、各機関に継代保存されている麹かび病菌株を含め、これらの菌株のホルマリンに対する抵抗性、蚕児に対する病原力および麹酸産生力について調査し、稚蚕共同飼育所に分布している麹かび病菌の性状を明らかにした。

2.麹かび病菌の検出率は、飼育室、?桑場、貯桑場、作業場(通路、廊下、階段、土間、出入口を含む)、催青所、その他(物置、宿直室、事務室、機械室などを含む)においていずれも50が前後で、とくに検出率の高い場所はみられなかった。

3.塵埃などから分離培養した394菌株および継代保存されてきた24菌株の合計418菌株につき、ホルマリン抵抗性を調べた。
 @ホルマリン培地上での生育の有無によってホルマリン抵抗性を判断した結果、ホルマリン抵抗性の弱い(0.1%ホルマリン培地に生育しない)ものは73菌株(17.5%)で、残り82.5%は、強い抵抗性を有し、そのうち、217菌株(52%)は0.2%ホルマリン培地でも生育し、さらに、13菌株(3%)は0.3%ホルマリン培地にも生育した。
 A継代保存菌株はその81.7%がホルマリンに弱かった(0.1%ホルマリン培地に生育しない)が、塵埃からの分離菌371菌株中、341菌株(86.5%)がホルマリンに抵抗性であった。
 Bホルマリン浸漬消毒に対する麹かび病菌各菌株の抵抗性を調べた結果、0.1%ホルマリン培地に生育できなかった菌株はいずれも、2%ホルマリン浸漬で30分以内に完全に殺菌された。しかし、0.1%ホルマリン培地に生育した菌株は、浸漬消毒に対して抵抗性を示し、完全殺菌するに、2%ホルマリンでは7時間、5%ホルマリンでは4時間の浸漬を要する菌株や、5%ホルマリン7時間浸漬後も、なお生存分生胞子を残す菌株などがみられた。
 Cホルマリン散布消毒および燻蒸消毒(パラホルムアルデヒドを主剤とする蚕室蚕具用消毒剤による)に対する各菌株の抵抗性も、浸漬消毒の場合と全く同様の傾向を示した。
 Dホルマリン培地上の生育の有無とホルマリン浸漬消毒、同散布消毒、同燻蒸消毒に対する各菌株の抵抗性の強弱とは密接な関係を示した。

4.麹かび病菌各菌株の蚕児に対する病原力を調査比較した。
 @匍匐接種法により、139菌株の病原力を調査したところ、111菌株(80%)の病原力は強く、28菌株(20%)の病原力は小さかった。継代保存菌株では、30%の菌株が強い病原力を有したにすぎなかったが、塵埃からの分離菌株は、84%が強い病原力を有した。
 A匍匐種接法では、強い病原力を有する菌株を、2齢および4齢起蚕に接種した場合、いずれも、100%またはそれに近い病死率を示した。
 B匍匐接種法による場合の蚕児の病死時期は、2齢起蚕接種の場合接種後3〜4日に、4齢起蚕接種の場合接種後4〜7日に集中し、総病死蚕散の80%がこの期間に病死した。
 C病原力の強い菌株を、5齢起蚕および熟蚕に匍匐法で接種すると、いずれも高率に病死した。5齢起蚕接種の場合病死蚕の半数は上蔟前に、残り半数は上蔟後に病死した。熟蚕接種の場合はすべて繭中で病死したが、完全な結繭をせず薄皮繭を生ずるものがあった。
 D蚕児への菌液塗布接種によると、各菌株の病原力には、種々の段階的差異がみられ、その差は、菌液濃度(1mm3中の分生胞子数)で、およそ10100倍以上になった。病原力の大きい菌株は、接種菌量を増加することにより、稚蚕のみならず壮蚕をもよく感染病死させたが、病原力の弱い菌株は、接種菌量を増加しても、高い病死率を示さなかった。
 E蚕児に対する病原力の強弱とホルマリンに対する抵抗性の強弱との関係には、直接的な関係が認められ、概してホルマリン抵抗性の強い菌株は蚕児に対する病原力も強く、ホマルリンに弱い菌株は蚕児に対する病原力も弱かった。

5.77菌株の28日培養後の麹酸産生量は、0.0024.10 g/100mlであり、麹酸産生力の強弱は、ホルマリン抵抗性および蚕児に対する病原力の強弱と比較的よく対応する傾向が認められた。

6.麹かび病菌のホルマリン抵抗性、蚕児への病原力、および麹酸産生力の3種の性状を調査した結果、ホルマリン抵抗性の強弱すなわち、0.1%ホルマリン培地での生育の有無と病原力の強弱とが最も密接な関係にあった。

7.以上の調査結果に基づき、殺菌または消毒試験に供試する麹かび病菌の保持すべき必要条件をつぎのように提案した。@蚕室などの塵埃または病蚕から分離した純粋培養菌株は、Aツァペック寒天培地を基本培地とした0.1%ホルマリン培地上でよく生育すること(30℃, 10日)、Bさらに、ツァペック平板培地上に生育させた菌叢上に4齢起蚕を1〜3分放置した後とりだし、普通に5齢末期まで飼育し、70%以上の病死率を示すこと、または、菌液(1:10)を蟻蚕に塗布接種して、接種後3日以内に100%またはそれに近い病死率を示すこと。


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