44.蚕の人工飼料による大量飼育(1973)

清水正徳、伊藤智夫(1973)蚕の人工飼料による大量飼育に関する研究.蚕糸試験場彙報 第96号: 1-6(表題の技会プロジェクトの報告特集)

1.組成改善:本研究においては、桑葉粉末を全乾物重の約25%ほど含む飼料の組成改善ならびに好ましい飼料組成の在り方について解明を試みた。飼料組成としては、桑葉粉末(約25%)のほかに、澱粉、糖、脱脂大豆粉末、ステロール、大豆油、無機塩、セルロース、ビタミンB群、ビタミンC、クエン酸、ソルビン酸、抗生物質、寒天からなるものであった。このような組成の人工飼料による10万頭程度の飼育では、実用的にみてもかなり良好な成績が得られた。
  人工飼料の価格に関与する要因は多いが、今回、高価な飼料添加物の一部の除去、並びに安価な他物質への置きかえも試みた。例えば、家畜用飼料に使われる穀類、ビタミンなどは蚕の飼料に使用できること、ステロールやセルロース粉末は精製度の低いものでも可能なこと、が分かった。また寒天を全く加えない飼料を作り出すこともできた。
  稚蚕用および壮蚕用と発育段階に応じ飼料組成を変えることが好ましいことが分かった。特に壮蚕用飼料につき、飼料添加物質の相対的な量と繭質との関係を調査し、組成改善に関する多くの知見を得た。5齢蚕用に、高蛋白で低カロリーの飼料を使用することが繭生産上有効であること、また5齢期間中に大豆粉末の多い飼料に切り替える適当な時期があることも明らかになった。かなり改良された飼料であっても蚕品種間で成長の良否の差がかなり認められた。
  飼料水分量と蚕体水分量との関係を明らかにすることにより、飼料の至適水分量を求めるとともに、水分の役割についての知見も得られた。
  人工飼料へ添加する桑葉粉末がいかなる肥培条件の桑葉で作られたかは飼料効果の大小と関係があることから、桑葉分析の実施とともにとくに施肥条件(とりわけ3要素肥料)との関係が明らかにされた。各種条件の桑葉と、アミノ酸、有機酸、各種形態の窒素、アスコルビン酸、クロロゲン酸などとの量的関係が明らかにされた。
堀江保宏、井口民夫、渡辺喜二郎、中曽根正一、柳川弘明.家蚕の人工飼料の組成改善に関する二、三の試験.7-20
嶋 萬治郎、矢沢盈男、山下忠明、関 留吉.家蚕人工飼料の組成改善、とくに人工飼料用桑葉の質的条件の検討および家畜用飼料原料の利用について.21-39
杉山多四郎、島貫英二、古山三夫、中村正雄、高宮邦夫、遊佐富士雄.人工飼料による蚕の飼育に関する試験

2.防腐剤の開発:蚕の人工飼料には多量の水分が含まれておりその腐敗防止はとくに大切であることから、蚕の生理にとって有害でない防腐剤の開発はきわめて重要である。
  まず人工飼料の主要な腐敗菌の検索を行い、数種の主働菌を明らかにした。各種防腐剤を人工飼料に加え、繰り返し選抜を行った結果、腐敗菌に対し有効でかつ毒性の少ない物質として、ソルビン酸、アクリル酸、サリチル酸、ベンゾイル・エタノールアミノプロピオン酸を選出できた。またこれら4物質を併用する場合の適当な混合比についても明らかにした。
  各種抗生物質の防腐効果を調べ、主な腐敗菌に対しては、ペニシリン、ロイコマイシン、テラマイシン、エリスロマイシン、ストレプトマイシン、マイトマイシン等が有効であることが判明した。
松田基一、川杉正一、樋口芳吉.蚕の人工飼料の防腐剤の選抜に関する研究.93-127

3.飼料効率増進:飼料効率の増大には多くの要因が考えられるが、当面一定量の飼料摂取による最大の繭生産をあげることを目標とした。そのために、飼料の利用効率および飼料の経済性について検討した。5齢期における蛋白質(大豆蛋白)の消化・利用を中心に飼料効率をみると、人工飼料は桑葉に比べ必ずしも劣らないこと、また消化した蛋白質が繭へ留存する割合も桑葉育に比べ劣らないことが分かった。5齢期における雌雄間の効率の違い、人工飼料に加える桑葉粉末量の多少による効率の違いも明らかにされた。また蚕が正常に成長しかつ一定量の繭がえられるためには、いかなる栄養物質がどの程度必要であるかについての知見も得られた。
  飼育密度と、飼料給与量および食下量との関係については、給餌量を多くすれば密度をかなり高くしても蚕の成長は正常であることを明らかにし、かつ適正な給餌量も求めることができた。これにより飼料コストの計算もより合理的に行ないうるようになった。人工飼料の消化率、とくにその蛋白部分の消化率を高めるために、蛋白分解酵素を飼料へ加えることが試みられた。
堀江保宏、井口民夫、渡辺喜二郎、中曽根正一、柳川弘明.家蚕人工飼料の組成と試料効率.41-55
松岡道男、須藤光正.人工飼料の消化に関する研究.T.人工飼料の組成分の消化率測定および人工消化試験.57-65

4.飼育環境:飼育室内の微生物汚染は人工飼料の腐敗や蚕病発生の原因となるので、清浄な飼育環境の在り方を明らかにすることが必要である。まず容易に実施できる浮遊菌測定法を確立し、飼育室における空中浮遊菌および落下菌の分布状態をいろいろな時期別に調査した。その結果、外界における菌数増減と飼育室内における増減との関係が明らかとなった。また作業者が入室し作業を開始すると浮遊菌数が著増することが分かった。さらに人工飼料育室において大量飼育を行なう過程で、菌数の消長および汚染の程度を明らかにした。
  また人工飼育における標準的な飼育体系の確立の一資料として、飼育中の温度および光線の影響を検討した結果、この両条件とも蚕の成長と発育に強く影響することが分かった。蚕の成長が良好となる飼育温度は従来の桑葉育における標準温度よりもやや高いところにあり、1〜3齢31℃、4〜5齢26℃という条件が良好であった。温度が高いと蚕の経過は進むと同時に体重は重くなり、繭質も優れていた。また光線の有無も経過に影響し、明条件は経過時間を長くさせると同時に体重を重くし、暗条件はこの反対であった。
  一方、ある種の温度条件および光線条件によっては3眠蚕または5眠蚕が多発することも明らかになった。またこれらの環境条件を変えることにより。産下卵の化性をある程度まで的確に変えうることも判明した。人工飼料育においては特に光線、温度による成長と発育の制御が桑葉育における場合よりも的確に行えることが明白になった。
松田基一、松浦雄二、遊佐富士雄.蚕飼育室における空中浮遊微生物の調査および測定法の検討について.83-91
高宮邦夫、中村正雄.蚕の人工飼料育における温度および光線条件について.T.催青中および幼虫期における温度と光線が人工飼料育の成育、眠性および化性に及ぼす影響.129-141

5.機械化:桑葉粉末を大量に、かつその品質低下を招かないような高能率の大型乾燥機を試作した。これを用いると1時間当たり5kgの乾燥桑葉を得ることができた。また椎蚕飼育機および壮蚕飼育機を試作した。前者は蚕箔移動式であり、その一定部において給餌を行なえるようなものとしたが、除沙部分を全自動化することはできなかった。後者はすでに普通蚕用に開発された多段式のものを人工飼料育用に改良したものである。
  マイクロ波による加熱装置を応用した飼料調製装置の試作も行った。これにより従来の蒸煮方式に比べ、調製に要する時間が著しく短縮された。調製した飼料による蚕飼育において何らの悪影響も認められなかった。
松田基一、藤野 昭、遊佐富士雄.桑葉乾燥装置について.67-75
遊佐富士雄.蚕の人工飼料調製におけるマイクロ波加熱装置の利用について.77-82

6.大量飼育:昭和45年度において、東北支場の既存の一蚕室を人工飼料育蚕室に改修した。この蚕室に、飼料調製室、飼料貯蔵室、稚蚕飼育室、壮蚕飼育室、乾燥室、機械室などを設けた。46年度には大量飼育を繰り返し行った。大量飼育は稚蚕10万頭、壮蚕4万頭で行った。稚蚕人工飼料育・壮蚕桑葉育においては、収繭量はほぼ満足できる結果であったが、全齢人工飼料育では若干の経過遅延と収繭量減少とが認められた。しかし従来の人工飼料育の結果と比較すれば、かなりの進展があった。全齢飼育の結果では、桑葉育に比べ繭層歩合が若干低かったが、この程度の繭成績であれば一般飼育結果に比べ遜色があるとは言えない。全齢人工飼料育の予備試験においてえられた繭の繰糸、および生糸調査も行った。生糸調査の結果については、桑葉育でえられたものに比べてもほとんど遜色がなかった。
伊藤智夫、松田基一、杉山多四郎、横田武和.人工飼料蚕室改修について.143-147
杉山多四郎、島貫英二、古山三夫、中村正雄、高宮邦夫、遊佐富士雄.人工飼料による蚕の飼育に関する試験.149-157

7.品種の選定:現行指定蚕品種の中から、原種および交雑種について、それぞれ人工飼料に対する適合性の高いものを選出した。これは越年種、即浸種、冷浸種別に実施した。一般に稚蚕の経過は支那種のほうが早く、他方日本種はそれに比べ経過は遅れたが体重増加は勝っていた。稚蚕期の経過の良好なもののみを全齢飼育し、人工飼料への適合性を比較判定した。国産系および民間系のものにつき多数の品種の中から適合性の高いものを選出することができたが、とくに国蚕系のものについて記すと、交雑種では8・3×3・4、日124×124号、2・4×5・4が良好であった。また日本種の8・3、支那種の3・4、支124号、支134号は良好であった
中村正雄.人工飼料に適する蚕品種の適合性調査.159-165


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