50.野蚕糸を用いた複合絹織物の試織(1977)

青木 昭、高橋 保、神田千鶴子、今井恒夫(1978)野蚕糸を用いた複合絹織物の研究. 蚕糸試験場彙報 第108号:89-125

1.絹の用途拡大には、絹織物の実用性能の向上や新性能を付与する技術の開発が必要である。繊維素材にはそれぞれ得失があって、織物の性能改善には複合利用が有効な手段の一つである。そこで家蚕糸に主として柞蚕糸を配合して、比較的厚地の洋服地を試作し、実用性能を調査した。

2.複合利用の方法は、1)たて糸またはよこ糸に柞蚕糸等を使う、2)たて糸、よこ糸またはその両方に家蚕糸と柞蚕糸等を配列する、3)家蚕糸と柞蚕糸の交ねん糸を織糸とするなどの方法で、100/u、145/u、160195/u、190270/u、250270/uの先練服地、合計26種を設計試作した。織物の設計にあたっては、家蚕糸と柞蚕糸等の配合効果および製織性の検討、設計上の問題点の摘出に留意し、実用性能のうち特に嵩高性、耐摩耗性、目寄り抵抗等の付与に留意した。

3.製織性については、柞蚕生糸は家蚕生糸に比較して抱合が悪く、節、毛羽立ち等のため繰返し作業の能率が約1割低下したが、その後の工程は支障なく進行した。ソーキング、精練、染色等の湿潤工程での柞蚕糸の収縮は、フワリの径の調整を要するとともに、織物の目付の決定には練減の相違とともにあらかじめ考慮する必要がある。また、ヤング率が低いので張力管理には十分な配慮を要する。合ねん糸の給糸にはオーバーエンド方式を採用すべきである。

4.本試験の重目服地の試作に使用したもろより糸は太いため、製織能率のうえでは問題は起らなかったが、結び目が大きく織物の傷となったり、結び目が解けるなどの問題があった。この点から細糸を引き揃えて使う方が良い。また、柞蚕ファンシー糸は毛羽立ちが起り製織が困難であったので、生糸等と組み合せて使うのが有利である。

5.柞蚕糸の配合率が増加すると織物の見掛比重が低下し、嵩高性が向上する。この傾向は軽目織物に顕著であり、重目になるにつれて織物組織、糸組みの状態等素材以外の影響が大きくな る。

6.耐摩耗性は家蚕糸、柞蚕生糸等の繰製糸使いのものが良好であり、たて・よこ糸にもろより糸を使用して耐摩耗性の大きい重目服地を試作することができた。しかし、家蚕糸の太糸使いは目寄りが起りやすく、これを防止するために柞蚕ファンシー糸や特絹糸を配合したが、これらの配合率が増加すると耐摩耗性は低下する。なお、たて糸にもよこ糸にも家蚕生糸と柞蚕生糸のもろより糸を交互に配列することによって嵩高性、耐摩耗性をもたせ、ある程度の目寄り抵抗を与えることができた。目寄りの解決には、目標とする織物の風合を損わない範囲で細糸を使い、たて・よこ密度の調和をはかって、織物を構成するたて・よこ糸の曲率を大きくする工夫が必要である。

7.複合ねん糸として、家蚕生糸と柞蚕生糸を使って片2本もろより糸を作り、その性状を調査した。柞蚕糸の配合率が上昇すると練減が減少し、精練による収縮率が大きくなり、家蚕糸が収縮を制御する力をもっている。その他の力学的特性も家蚕糸と柞蚕糸の特性値を限界として、配合率にともなって並行的に変化する。また、同配合率でも、下より糸が同質になるように組み合せることが、ねん糸の工程、性状ともに望ましい。

8.26種の複合絹織物の性能を調査した結果、家蚕糸に柞蚕糸等を配合することによって、織物の特性値に特異性をもたらすことが認められた。嵩高性、耐摩耗性、目寄り抵抗等を中心として検討し、これらの性質が良好なものを使って紳士用背広を試作、一部着用試験を行った結果、着心地は極めて軽快で、野蚕糸を配合した服地には実用性も十分にあることが実証できた。


 研究成果の目次に戻る