53.原蚕の人工飼料育における飼育標準表の作成(1980)

滝澤寛三、新倉克己、加藤清正、吉村洋子(1980)原蚕の稚蚕人工飼料育における飼育標準表の作製について.蚕糸試験場彙報 第111号:47-61

1.用いた人工飼料の組成と混合割合は次のとおりであり、1〜3齢の期間を飼育した。
    ア.桑葉粉末         50
    イ.以下の材料の半量 = 50

        大豆油       1.7   脱脂大豆粉末  39.
        β−シトステロール 0.2   クエン酸     4.
        アスコルビン酸   2.2   ソルビン酸    0.
        寒 天       8.3   無機塩混合物   3.
        サッカロース    8.8   馬鈴薯澱粉    8.
        セルローズ粉末  22.9              
    合 計            100
    ビタミンB群、防腐剤添加   水は3ml/g

 2.掃立時刻、給餌方法、給餌量、給餌回数、除沙の有無、飼育密度、飼育口数、防乾紙被覆の有無などについての試験および既報の飼育環境に関する試験結果とを組み合わせて、原蚕の稚蚕人工飼料育における飼育標準表を作成した。

稚蚕飼育標準表T (日本種 10,000頭当り)


 齢別 


温湿度


日順

給 餌
時 刻


作業

蚕 座面 積

  給 餌 量


飼料形態
 (切削)


  備  考

1 回

齢 中



 1齢




 


28℃
85%


 

 1
 

1015
 

掃立
 

  cm2
40×50

 

   g
  400

  g
 

     mm

2,幅3, 50



 


防乾紙をかける

 2

 

 

 

 

 

 3

  9

給餌

  200

 

 

 4

  9

給餌

  100

 700 

催眠期に防乾紙をとる

26℃
70%

 5 

(2022) 

 

 

 

(餉食適期) 


 2齢

 


28℃
85%
 

 6

  9

餉食

60×60


 

  300

 

24, 50


 

 

 7

  9

給餌

  500

 

 

 8

  9

給餌

  500

 

 

 9

  9

給餌

  300

1,600

 



 3齢
      


27℃
80%

 

 10

 15

餉食

60×60
 2箔


 

400×2

 

2.54.5, 50



 

 

 11

  9

給餌

700×2

 

 

 12

  9

給餌

700×2

 

 

 13

  9

給餌

700×2

 

 

 14

  9

給餌

250×2

5,500

 

     光線は作業時以外暗とする

合 計   7,800

 

 

稚蚕飼育標準表U (支那種 10,000頭当り)


 齢別


温湿度


日順

給 餌
時 刻


作 業

蚕 座
面 積

  給 餌 量


飼料形態
 (切削)


  備  考

1 回

齢 中



 1齢




 


28℃
85%


 

 1

1015

掃 立

  cm2
40×50





 

   g
   400

  g
 

     mm
2,幅3, 50





 

防乾紙をかける

 2

 

 

 

 

 

 3

  9

給 餌

   200

 

 

 4
 

  9
 

給 餌
 

   100
 

 700
 

催眠期に防乾紙
をとる

26℃
70%

 5

(2224) 

(餉食適期) 



 2齢



 



28℃
85%

 

 6
 

  9
 

餉 食
 

60×60





 

  300
 


 

24, 50





 

必要があれば網入れ

 7
 

  9

給 餌 

  500
 


 

網下の遅蚕は別箔飼育

 8

  9

給 餌

  500

 

 

 9

  9

給 餌

  300

 

 

 10

  9

給 餌

   100

1,700

 



 3齢
   
 


27℃
80%

 

 11

 16

餉 食

60×60
 2箔


 

 250×2

 

2.54.5, 50



 

 

 12

  9

給 餌

 750×2

 

 

 13

  9

給 餌

1,000×2

 

 

 14

  9

給 餌

 750×2

 

 

 15

  9

給 餌

 250×2

6,000

 

        光線は作業時以外暗とする

合 計   8,400

 

 

3.以下飼育上特に留意すべき具体的事項について述べる。
 1)気流は飼育湿度との関連で蚕座(飼料の水分保持状態)へ影響するので、飼育環境面から飼育室内の気流の強弱は特に留意しなければならない。なお著者らの行った試験では蚕座上2.5cm/sec の気流では特に問題がなかった。

 2)光条件については掃立当時1日位の明飼育は蚕の飼料摂食性を良くするという報告があるので、掃立当日を明にし、蚕寄りの起らないよう光線むらに注意する必要がある。

 3)蚕座面積は1齢40×50cm、2齢60×60cm、3齢60×60cm×2箔/10,000頭としたが、3齢期の飼育密度が若干厚飼いになるようにも考えられるので、蚕品種によっては3齢期をも  う少し拡座し、65×65cm×2箔にした方が良いかも知れない。

 4)給餌量は支那種では2齢以降飼育経過が日本種に比べ遅延する傾向にあるので、その分を少し増量給餌することも必要である。

 5)眠蚕、起蚕の取り扱いは原蚕人工飼料育において最も重要である。早期起蚕があっても不眠蚕がある程度いれば給餌をし、遅就眠蚕に飽食させる。早期起蚕が少なければそれらを別の容器に拾い取り、発育の斉一化をはかる。その後除湿を始め、遅れ蚕の大部分が眠蚕になった時、酸性白土を霜降り状に散布し蚕座を乾かす。餉食の時期は各齢とも起蚕が約90%出現した時点で行う。なお2齢の餉食適期は著者らの試験結果からは日本種が5日目の2022時、支那種が2224時頃になったが、実際にはこの時間における餉食は飼育現場の作業実態からみて無理であるから、翌朝まで飼育温度を下げて起蚕の疲労を防ぐことが肝要である。また原蚕の場合は蚕品種によっては2眠および3眠就眠時の経過がだらつき易いので、眠中でも特に温湿度は下げないで、酸性白土等により蚕座の乾燥をはかることが必要である。


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