72.天敵微生物によるキボシカミキリの防除法(1986)

河上 清、島根孝典(1986)昆虫病原糸状菌Beauveria tenella を利用したキボシカミキリの微生物的防除.日本蚕糸学雑誌 55(3)227-234

1.東口本における桑の重要害虫キボシカミキリの防除に、天敵糸状菌Beauveria tenellaの利用を試みた。

2.本菌の大量培養を数種の有機物材料で行ったが、フスマが分生子生産に最も効率的であった。フスマに水を加え加熱滅菌した後、分生子懸濁波を用いて菌接種を行い、25℃15日間培養することにより、乾燥フスマ1g当り109個の分生子が生産された。さらに、本菌の大量培養を2段階培養法によって行なえば、培養期間の短縮および雑菌混入の防止に効果的であった。まず、分生子を液体培地で3日間25℃で振とう培養し、えられた菌をフスマに接種すると、25℃10日間の培養で同量の分生子が生産された。

3.大量培養されたB.tenellaを、フスマと共に培地ごと圃場の地表面に1〜3kg/アール、1回だけ散布した小規模網枠殺虫試験において、菌散布30日後の殺虫率は6090%の高率となった。

4.以上から、本菌の適切な利用は微生物殺虫剤として有効と思われる。


島根孝典、河上 清(1993)昆虫病原糸状菌Beauveria brongniartii の蚕およびマウスに対する安全性について.日本蚕糸学雑誌 62(1)30-37

1.キボシカミキリに強い病原性を示す糸状菌Beauveria brongniartii(=B. tenellaを微生物農薬として利用するため、本菌の蚕に対する安全性並びにマウスに対する経口投与時、吸入時、および腹腔内注射投与時の急性毒性についてそれぞれ試験した。

2.各地から収集した本菌21菌株の分生子を107108分生子/mlという調製限界濃度で蚕4齢起蚕に接種したが、本菌はいずれの菌株も蚕幼虫に全く病原性を示さなかった。

3.本菌を飼料または飲料水に混入してマウスに経口投与、分生子の吸入、さらには、腹腔内に注射したいずれの場合も、マウスが死亡する症例は発生しなかった。

4.また、マウス体重の増加量およびその他の外部状態においても対照区との間に差異がなく、異常は認められなかった。本菌の分生子は25℃では平板培地上で良好に発芽・発育するが、35℃では発芽せず、7日以内に死滅した。


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