74.桑の新品種「おおゆたか」(桑農林9号)(1986)

尾暮正義、長沼計作、原島典雄、藤原茂正、松島幹夫(1986)桑の新品種「おおゆたか」(桑農林9号).技術資料 第112号:1-11

1.温暖地に広く栽培されている「一ノ瀬」は収量も多く良質であるが、倒伏しやすく縮葉細菌病に弱いなどの欠点がある。「しんいちのせ」、「ときゆたか」、「はやてさかり」などはこれらの欠点を改良した特徴のある品種であるが、近年桑品種に対する要望は多様化し、特に低コスト・高生産養蚕の基盤となる強健多収品種の育成が強く要望されている。そこで、「しんいちのせ」に劣らない葉質を備え、かつ「しんいちのせ」を凌ぐ多収性と強健性を備えた温暖地向優良品種の育成を目的とした。

2.多収・良質の「一ノ瀬」を雌親に、枝条伸長が良好で直立型の「国桑第21号」(長沼×司桑)を雄親に用いて、昭和40年に交雑し、4144年に個体選抜を、4552年に系統選抜試験を蚕糸試験場で行った結果、本品種は著しく多収であることが判明した。

3.そこで、昭和5256年に愛知ほか2試験地で萎縮病抵抗性の検定試験を実施するとともに、5560年に群馬ほか4試験地における系統適応性検定試験に供試して栽培および飼育試験を行った。その結果、いずれも優秀な成績を収めたので「おおゆたか」(桑農林9号)と命名登録された。

4.本品種はカラヤマグワ系に属し、強健多収であることから「おおゆたか」と命名された。本品種の特性の概要は次のとおりである。@根刈仕立の樹型は直立型であるが、日照不足や台風などによる枝条の倒伏率は「しんいちのせ」より若干高い、A枝条は直立で灰白色を呈し、「しんいちのせ」と比較すると枝条長はやや短いが、枝条数はやや多い、B節間長は「しんいちのせ」よりやや短く、冬芽は中型の正三角型で灰褐色を呈し、枝条に密着する、C葉形は、春には2裂葉主体で裂刻葉と全縁葉とが混じる。夏秋季には全縁葉が多くなり、やや大型になる。葉面は光沢を有し、滑らかで縮皺が見られる、D春季の発芽は「しんいちのせ」と大差なく、その後の発育も良好で、旱魃時における枝条下部の黄化落葉は少ない。秋季の葉の硬化は遅く、先枯れは少ない、E春秋兼用壮蚕用としての年間収葉量は「一ノ瀬」および「しんいちのせ」よりかなり多い、F萎縮病および縮葉細菌病抵抗性は「しんいちのせ」と大差ないが、生育不良株および枯れ株の発生は極めて少なく至って強健である、G古条挿木の発根性は極めて良好である、H蚕の飼育成績は「しんいちのせ」と大差ない。

5.本品種の適応地域は北関東から山陰地方までの温暖地であり、春秋兼用、夏秋専用桑園用として春・夏秋の壮蚕に適するが、枝条数がやや少ないため株間をやや狭く栽植する方がよい。また、挿木発根性が良好で、枯障株が少ないので、密植速成桑園用としても用いられる。しかし、萎縮病抵抗性は「しんいちのせ」と同程度であり、また強い風雨にあうと展開することがあるので、萎縮病激発地および台風常磐地帯での栽培は注意を要する。


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