81.カイコ培養胚からの個体回収技術(1988)

木口憲爾、北澤敏男(1959)カイコ胚の液体培養と個体回収技術の開発.蚕糸昆虫研ニュース No.22

1.昆虫の卵は、小さい上に硬い卵殻で覆われており、異種遺伝子や発生制御物質を卵に注入するには高度の技術を要し、実験上の制約も多い。もし、卵殻を取り除いた裸の卵(胚)を培養液の中で発育させ、さらに培養胚子を液外に回収して脱皮・変態させることができれば、異種遺伝子導入の基礎技術として、あるいは発生制御物質の生物検定や発生・分化機構解明のための実験系として大きな役割を果たすものと考えられる。そこで、カイコの胚の最適培養条件を探索するとともに培養胚子の液外回収の可否について検討した。

2.実験材料には「大造×日124号」の休眠覚醒卵を用い、鋭利なメスで卵殻を除いた胚を高見ら(1966)の方法に準じて懸滴培養し、最適pHおよび浸透圧を調べた。その結果、pH 6.1前後、浸透圧300340 mOsm/kg で良好な結果が得られた。次にpH6.1、浸透圧を310 mOsm/kgに調製した培地でスプーン状胚子期の胚を培養した結果、胚子発育が良く揃い、培養開始7日目に、無培養の対照区より1日早く“漿膜飲み込み行動”が起こることが分った。

3.このように液体培地中で発育させた胚子をそのまま放置すれば溺死し、早い時期に液外に取り出すと乾燥して死亡する。そこで回収適期について検討した結果“漿膜飲み込み”完了後1224時間の、まだ皮膚等の着色が不完全な時期に液外に回収し、適度の温湿度(約25℃7080%)のもとでクチクラが硬化するのを待って給餌すると、間もなく摂食を開始し脱皮・変態することが分った。なお、この間酸素ガスの供給等の特殊な処理は不要であった。

4.実験の一例を示せば、液体培地から回収した胚子109個体のうち97個体が食桑を開始し、その80%は5齢幼虫となり、68%は羽化して交尾・産卵した。摂食開始から羽化までの経過日数は対照より約1日半長く、繭重は約9%軽かったが、脱皮・変態に特段の異常は認められなかった。

5.このような液体培養系からの個体回収は、自然休眠覚醒卵のほか、即浸、冷浸等の休眠覚醒処理を行った卵を用いた場合でも同様に可能であった。しかし、休眠胚では個体回収の成功率が低く、最適培養条件が休眠覚醒卵の場合とは異るものと思われる。


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