91.桑の新品種「みつしげり」(桑農林10号)(1988)

東城 功、渡辺四志栄、大和田賀吉、早坂七郎(1988)桑の新品種「みつしげり」(桑農林10号).技術資料 第117号:1-12

1.近年、養蚕経営の効率化、生産性の向上を図るために密植速成機械化桑園の造成・普及が目覚ましいが、密植桑園に適合する桑品種はまだ育成されていない。今まで、少雪寒冷地および温暖地には「改良鼠返」、「一ノ瀬」、「剣持」等が広く栽培されてきたが、「改良鼠返」は東北地方では葉の硬化が早く、萎縮病・裏うどんこ病・縮葉細菌病にやや弱い。「一ノ瀬」は多収・良質ではあるが、縮葉細菌病に弱く、倒伏しやすい。「剣持」は収量がやや少ないことなどの欠点がある。「しんけんもち」、「あおばねずみ」、「しんいちのせ」等はこれらの欠点を改良した特徴のある品種であるが、密植適合性が必ずしも備わっているとはいえず、密植向き品種の育成が要望されていた。そこで、耐寒性を有し、多収・良質、耐病性に優れた密植適合性品種の育成を目標にした。

2.昭和29年に「剣持」の冬芽にコルヒチンを処理して同質4倍体(2n56)を育成し、増殖・育苗した後圃場に植え付け、昭和3035年に交配親としての諸形質を調査した。この4倍性「剣持」(系統No.71)を母本に、良質・多収の現行優良品種「改良鼠返」(2n28)を父本として昭和36年に交雑を行った。昭和3743年に個体選抜を行った。この選抜で選出された1個体が「みつしげり」である。

3.昭和4454年に系統選抜試験を、また、昭和5659年に密植系統選抜試験を蚕糸試験場東北支場で実施した結果、良好な成績を示した。そこで、昭和5861年に福井県(積雪地)で、昭和5962年に岐阜県(温暖地)でそれぞれ系統適応性(密植)検定試験に供試され、栽培試験、蚕の飼育試験が行われた。

4.一方、昭和6162年に鳥取県・徳島県・鹿児島県の各試験地で特性検定試験に供試され、萎縮病抵抗性が検討された。

5.本品種はヤマグワ系に属する3倍体で、密植で多収であることから「みつしげり」と命名された。本品種の特性の概要は次のとおりである。@根刈仕立の樹型は直立型で「しんけんもち」ほど展開しない、A枝条は直立で紫褐色を呈し、枝条数は「改良鼠返」並みに多く、伸長は良好であるが、「しんけんもち」よりやや太くなる、B節間長は「改良鼠返」より長く「しんけんもち」とほぼ同じである。冬芽は大型の膨らみのある正三角形で褐色を呈し、枝条に密着する、C葉形は、春期はほとんど全縁葉であるが、夏秋期は全縁葉から4裂葉まで着生し、全縁葉が比較的多く、やや大型で厚く濃緑色を呈し、葉面は光沢があり滑らかである。晩秋期の葉の硬化は遅い、D春期の発芽は「改良鼠返」より数日早く、その後の発育も良好である。先枯れは少ない、E密植桑園における収量は「しんいちのせ」、「一ノ瀬」よりかなり多い、F萎縮病抵抗性は「しんいちのせ」、「一ノ瀬」よりやや弱く、縮葉細菌病、クワ裏うどんこ病に対してはやや強い、G古条挿木の発根性は極めて良好で、種茎直まき法による密植桑園の造成にも適する、H再発芽性は良好である、I蚕の飼育成績は「しんいちのせ」と大差がない。

6.本品種の適応地域は、東北地方の少雪寒冷地と温暖地の一部地域であり、春秋兼用、夏秋専用の密植桑園用として春・夏秋の壮蚕に適するが、萎縮病にやや弱い欠点があるため激発地への栽植は避けた方がよい。


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