97.大型絹糸昆虫タサールサン用人工飼料(1989)

赤井 弘、須藤光正(1990)タサールサンの人工飼料.特許出願:平2-3425(特許登録:21277731997年3月7日)

1.タサールサンはインドでコバテイシ、サラソウジュ、コナラ等の樹葉を飼料として室外および室内で飼育されているが、一般には壮蚕期は野外で飼育され、樹枝に営繭させ、採種も行われているが、営繭率も低く生産効率は著しくない。また、その繭糸は衣料に利用されているが、生産性が低いためインド国内需要を満たすまでには至らず、輸出は殆ど行われていない。

2.タサールサンは幼虫体重が3080gに達する超大型の鱗翅目昆虫であり、またその繭糸繊度は20デニールを超す超太繊度の繭糸を生産する。今後その供給が可能となれば超太繊度の特徴を持つこの野蚕糸は新素材としてその利用価値が急激に高まるものと推察される。このためには、このタサールサンの幼虫を人工飼料で飼育し、安定的な量産を計ることが必要である。

3.タサールサンの人工飼料は、タサールサンの食樹葉の粉末を混入して作る。食樹葉としてはコバテイシ、サラソウジュ、コカナ等が挙げられる。人工飼料の組成の1例を次に示す。
 @食樹葉の粉末5.0g、AビタミンC0.3、ろ紙粉末1.0、クロレラ粉末3.0、脱脂大豆粉末1.0、微量添加物0.9、B寒天15%、C上記3つの合計100gに対して水350400ml
 人工飼料の調製は次のように行った。先ず、コバテイシ(インド産)の新葉を乾燥し、粉砕して食樹葉の粉末を作った。次ぎに@とAを1:1で混合し、得られた混合物に対して寒天を重量比で15%添加し混合した混合飼料に水を添加、混合して人工飼料を得た。尚、混合飼料(@+A+B)100gに対する水の添加量は、稚蚕期(1〜3齢)では400mlとし、壮蚕期(4〜5齢)では350mlとした。また、微量添加吻にはビタミンB群、クエン酸(無機質)、ソルビン酸(防腐剤)を用いた。従来の蚕用人工飼料に対して行われている蒸す処理は行わなかった。

4.孵化直後の幼虫に人工飼料を与え、全幼虫期(1〜5齢)を飽食により飼育した。タサールサンの幼虫は飼料に対する忌避性もなく飼料を食下し、発育は極めて順調であった。また、熟蚕までの全齢経過日数は2838日であり、盛蚕(ここでいう盛蚕とは、熟蚕になる約2日前の体重が最大に成長した時の蚕の幼虫を示す)の平均体重(雌雄混合)は31gに違した。

5.縦、横各40cm、高さ70cmの区画のない網箱にクヌギの枝を入れ、その中に前記人工飼料で飼育されたタサールサンの熟蚕を入れ吐糸、営繭を行わせたところ、全ての熟蚕はクヌギの枝に登り枝葉間の各所で吐糸し、営繭した。網箱の代わりに恒温飼育装置を用い、プラスチック製の山形蔟(百年蔟)内にタサールサンの熟蚕を入れても、全ての熟蚕は吐糸し、営繭した。

6.得られた蛹を、縦、横、高さが夫々80cmで、内部に寒冷紗を貼り付けた箱内に移し、羽化および交尾を行わせたところ、蛹化十数日で羽化し、交尾後産卵した。産卵数は1蛾当り180220粒であった。またほとんどの卵は産卵後1018日後には孵化した。


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