106.広食性蚕品種「あさぎり」(1990)

真野保久、朝岡 潔、伊原音重、中川 浩、平林 隆、永易健一、村上正子(1990)蚕の新品種−「日601号、中601号及びその交雑種」.技術資料 第120号:5-6

1.日601号
  化性:二化性。系統:日日固定種。来歴:本種は農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所において、育成中の二化性白繭系日日固定種から系統分離して育成した、低コスト人工飼料適合性品種である。
  蟻蚕は暗褐色を呈し、蚕児の体色は赤系で斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫である。雄の姫蚕斑紋には淡い半月紋と極淡い眼状紋が痕跡的にみられるので注意を要するが、4齢起蚕より熟蚕まで斑紋による雌雄鑑別が容易である。蚕児の経過は日134号に比べ稚蚕期では11.5日短く、壮蚕期も0.51日短い。眠起はよく揃い飼育取扱いは容易である。人工飼料育の場合は、成長がきわめて早く、蚕児は蚕座内を活発に動き回る性質がある。起蚕時の絶食時間が長くなると蚕児の這出しや蚕作の低下を起こすので、餉食は早めに行い十分飽食させることが大切である。繭は白色の浅縊俵形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は藤鼠である。
  本種と中601号を交配する場合、両品種の取扱いがほぼ等しいときは、本種の催青着手を約3日早くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸では5分、冷浸では6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

2.中601号
  化性:二化性。系統:中中固定種。来歴:本種は農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所において、育成中の二化性白繭系中中固定種から系統分離して育成した、低コスト人工飼料適合性品種である。
  蟻蚕は黒褐色を呈し、蚕児の体色は青系で斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫である。雄の姫蚕斑紋には極淡い眼状紋が痕跡的にみられるので注意を要するが、4齢起蚕より熟蚕まで斑紋による雌雄鑑別が容易である。蚕児の経過は支135号と比べ稚蚕期は約0.5日短く、壮蚕期はほぼ同じである。虫質は強健で、眠起はよく揃い飼育取扱いは容易である。
  繭は白色の長楕円形であるが、楕円形または浅縊俵形の繭を混じることがある。ちぢらは普通である。越年卵の卵色は生壁である。
  本種と日601号を交配する場合、両品種の取扱いがほぼ等しいときは、本種の催青着手を約3日遅くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸では5分、冷浸では6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

3.日601号×601号(愛称:あさぎり)
  化性:二化性。系統:日中交雑種。適用蚕期:春蚕および夏秋蚕期
  本種は日中一代交雑二化性の白繭種で、低コスト人工飼料育に適合する特徴のある蚕品種である。蚕児の体色は青系であるが淡赤系を混ぜることがあり、斑紋は雌が形、雄が姫の両限性品種であるが、雄の姫には淡い半月紋と極淡い眼状紋が痕跡的にみられる。また、環節間膜部に変異がみられ、5齢盛食期には虎蚕様を呈する場合もある。蚕児の経過は日137号×支146号に比べ各齢とも短めで、1〜4齢では約1日短い。虫質は強健で、眠起はよく揃い、飼育取扱いは容易である。人工飼料育の場合は、成長がきわめて早く、蚕児は蚕座内を活発に動き回る性質がある。起蚕時の絶食時間が長くなると蚕児の這出しや蚕作の低下を起こすので、餉食は早めに行い十分飽食させることが大切である。
  繭は白色の長楕円形に浅縊俵形を混じ、ちぢらは普通である。
  本種は通常の人工飼料はもちろん低コスト人工飼料にもよく適合し、経過は桑葉育と同じかそれよりも早めであるので、眠起の取扱いさえ注意すれば、きわめて飼育し易い品種である。また、繭形はやや小振りであるが繭層はよく締まり、小節点高く繭層練減率も低めである。
  繭糸長は1000メートル内外、繭糸繊度は3.5デニール内外である。


真野保久、朝岡 潔、伊原音重、中川 浩、平林 隆、村上正子、永易健一(1991)広食性多糸量蚕品種「あさぎり」の育成.蚕糸・昆虫農業技術研究所研究報告 第3号:31-56

1.蚕は桑葉を餌とする狭食性の昆虫である。現在一般に普及している人工飼料にも多量の桑葉粉末が含まれており、これが飼料原価の相当部分を占めている。そこで家畜用飼料素材などを原料とした低コスト人工飼料にも良好な摂食性を示す、いわゆる広食性蚕品種の育成を行った。
  本研究は蚕の自然突然変異に由来する食性遺伝子の変異の中から食性異常蚕を見つけだす方法によったものである。

2.家畜用飼料素材を用い、線形計画法によって設計された人工飼料LP-1によって広食性蚕の検索を行った。この検索によって見出された育成系統についてさらにLP-1飼料に対する摂 食性の優良な個体及び蛾区の選抜を行った。

3.人工飼料研究室と共同で蚕品種および飼料組成の両面から改良を進め、低コスト人工飼料と広食性蚕品種とを組合せて、1〜4齢期を人工飼料で、5齢期を桑葉で飼育することを当面の目標とした。なお、LPY-141シリーズの飼料は1〜3齢用飼料には4%の桑葉粉末が含まれており、4齢用飼料には桑葉粉末が全く含まれていない。

4.農林水産省委託蚕品種性状調査の結果、育成系統のうち、LP-1飼料に対する摂食性が良好となった日本種のANS82Aと中国種のMCS26Aの交雑種が、低コスト人工飼料LPY-141に対し良好な摂食性を示すとともに、幼虫並びに繭の実用形質も良好であったので、“特徴ある蚕品種”「日601号×中601号」として農林水産大臣の指定を受け、普及に移されることになった。そこで蚕糸・昆虫農業技術研究所は、この蚕品種に「あさぎり」の愛称を付けた。

5.日601号×601号は低コスト人工飼料を良く摂食し、幼虫の発育経過も順調で、揃いも良く強健である。また、繭の解舒率、生糸量歩合、小ぶし点、繭層練減率の成績も良好であるが対3眠起蚕一万頭収繭量がやや低く、繭糸繊度が太めである。

6.桑葉粉末を全く含まず主に家畜用飼料素材を原料に用いた人工飼料でも、LP-1飼料に比較して4齢用LPY-141飼料は蚕が摂食し易いので、特にLP-1飼料に対して摂食性の劣る中国種では、育成の初期世代をLPY-141の4齢用飼料で数世代選抜した後、LP-1飼料による強度な食性選抜を加える方法が今後の広食性蚕品種の育成にも有効であることが分かった。


朝岡 潔、真野保久(1992)蚕におけるLP-1人工飼料による広食性の初期選抜.日本蚕糸学雑誌 61(1)1-5

1.低コスト人工飼料に適合する広食性蚕品種を育成するため、育成中の蚕系統の中からLP-1飼料に対する摂食性の高い系統を蟻蚕の毛振るい率を指標にして選抜し、その初期選抜過程における系統の性状を調べることによる選抜方法について検討を行った。

2.1齢と4齢のLP-1飼料に対する摂食性の相関関係は高く、毛振るい率の高い系統は4齢期においても摂食性が高いことが分かった。またLP-1飼料により選抜した系統は、準合成飼料に対する摂食性は向上したが、LPY-5飼料に対しては摂食性が低下する場合があった。

3.中国種はLP-1飼料に対する摂食性は低く、選抜により摂食性の向上する系統は少なかったが、MCS26ALP-1飼料だけでなく他の人工飼料に対しても著しく摂食性が向上した。

4.選抜系統のLP-1飼料摂食性は劣性の遺伝子に主に支配され、選抜系統間のF1は両親の中間の摂食性を示すことが分かった。以上の結果から広食性蚕品種の育成が可能であることが示唆された。


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