114.太繊度蚕品種「ありあけ」(1991)

山本俊雄、榎島守利、深沢正博、上條伊喜男、中山賢三、丸山 誠、三村康子(1991)蚕の新品種−「特徴ある蚕品種(日509号×日510号)×(中509号×中510号)」.技術資料 第122号:5-8

1.日509号
  化性:二化性。系統:日日固定種。来歴:本種は農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所において太繊度品種として育成した二化性の日日固定種である。
  蟻蚕は暗褐色を呈し、幼虫の体色は淡赤系で、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は日137号に比べて稚蚕、壮蚕ともにやや遅く、全齢で約1日長い。虫質は強健であるが、眠起の取扱いを適切にし、稚蚕期は特に良桑を給与することが望ましい。繭は浅縊俵形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は藤鼠である。
  本種と日510号とを交配する場合、両品種の取扱いがほぼ等しいときは、催青着手を1日遅くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸、冷浸ともに6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

2.日510号
  化性:二化性。系統:日日固定種。来歴:本種は農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所において太繊度品種として育成した二化性の日日固定種である。

  蟻蚕は暗褐色を呈し、幼虫の体色は淡赤系で、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は日137号に比べて稚蚕、壮蚕ともにやや遅く、全齢で約12日長い。虫質は強健であるが、眠起の取扱いを適切にし、稚蚕期は特に良桑を給与することが望ましい。繭は浅縊俵形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は藤鼠である。
  本種と日509号とを交配する場合、両品種の取扱いがほぼ等しいときは、催青着手を1日早くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸、冷浸ともに6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

3.日509号×日510号
  化性:二化性。系統:日日交雑原種
  蟻蚕は暗褐色を呈し、幼虫の体色は淡赤系で、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は日137号に比べて稚蚕、壮蚕ともにやや遅く、全齢で約1日長い。虫質は強健であり、桑不足にならないように注意すれば春、夏秋ともに飼育は容易である。繭は浅縊俵形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は藤鼠である。
  本種と中509号と中510号との交雑原種を交配する場合、両交雑原種の取扱いがほぼ等しいときは、本種の催青着手を4日早くすればよい。
  蚕種の人工孵化は即浸、冷浸ともに6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

4.中509号
  化性:二化性。系統:中中固定種。来歴:本種は農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所において太繊度品種として育成した二化性の中中固定種である。
  蟻蚕は黒褐色を呈し、幼虫の体色は青系で、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は支146号に比べて稚蚕、壮蚕とも大差ない。虫質は強健であるが、眠起の取扱いを適切にし、稚蚕期は特に良桑を給与することが望ましい。繭は楕円形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は藤鼠である。
  本種と中510号とを交配する場合、両品種の取扱いがほぼ等しいときは、本種の催青着手を1日遅くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸では5分、冷浸では6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

5.中510号
  化性:二化性。系統:中中固定種。来歴:本種は農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所において太繊度品種として育成した二化性の中中固定種である。
  蟻蚕は黒褐色を呈し、幼虫の体色は青系で、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は支146号に比べて稚蚕、壮蚕ともにやや遅く、全齢で約1日長い。虫質は強健であるが、眠起の取扱いを適切にし、稚蚕期は特に良桑を給与することが望ましい。繭は楕円形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は生壁である。
  本種と中509号とを交配する場合、両品種の取扱いがほぼ等しいときは、本種の催青着手を1日早くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸では5分、冷浸では6分前後の塩酸浸漬時間が適当である。

6.中509号×中510号
  化性:二化性。系統:中中交雑原種。
  蟻蚕は黒褐色を呈し、幼虫の体色は青系で、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は支146号に比べて稚蚕、壮蚕とも大差ない。虫質は強健であり、桑不足にならないように注意すれば春、夏秋ともに飼育取扱いは容易である。繭は楕円形で、ちぢらは普通である。越年卵の卵色は生壁である。
  本種と日509号と日510号との交雑原種を交配する場合、両交雑原種の取扱いがほぼ等しいときは、本種の催青着手を4日遅くすればよい。蚕種の人工孵化は即浸では5分、冷浸では6分 前後の塩酸浸漬時間が適当である。

7.(日509号×日510号)×(中509号×中510号)(愛称:ありあけ)(この四元交雑種を9・0×9・0と略称する)
  化性:二化性。系統:日中交雑種。適用蚕期:春蚕期
  本種は日中四元交雑二化性種で、稚蚕人工飼料育および桑葉育に適し、繭糸繊度の太い特徴ある蚕品種として指定された。
  幼虫の体色は青系に淡赤系を混じ、斑紋は限性形質を示し、雌は形、雄は姫となり、壮蚕期には斑紋による雌雄鑑別が容易である。幼虫の経過は日137号×146号に比べて稚蚕、壮蚕とも大差ない。稚蚕人工飼料育、桑葉育ともに眠起はよく揃い、飼育取扱いは容易であるが、壮蚕期には蚕座がむれないように通風換気をよくし、5齢期はできるだけ薄飼いをして良桑を飽食させることが大切である。繭は楕円形で、ちぢらは普通である。
  本種は繭層歩合、生糸量歩合が低く、繭糸長が短い欠点はあるが、収繭量が多く、繭重重く、繭糸繊度が4デニール内外と著しく太い特徴がある。用途としては洋装用外衣等の原糸に適する。


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