126.桑の新品種「ゆきあさひ」(桑農林14号)(1992)

和田 實、牧 音榮、宮山健也、山田景三、堤 忠宏(1992)桑の新品種「ゆきあさひ」(桑農林14号).技術資料 第124号:1-9

1.近年、積雪地帯の養蚕は、中山間地への地域特化が進むなかで、規模拡大・多回育化を中心とした経営の効率化が図られている。その生産基盤となる桑栽培においては、養蚕計画に対応し、良質な桑葉を安定的に確保することが重要である。しかし、積雪地に栽培されている胴枯病抵抗性桑品種の多くは、収量・葉質が劣り、萎縮病や裏うどんこ病に弱いという欠点を持っている。特に萎縮病は被害が大きく、発病防止には多大な労力と経費を必要とし、桑栽培上の障害となっている。このため、胴枯病と萎縮病の抵抗性を兼備した新品種の育成に強い期待が寄せられてきた。そこで、胴枯病並びに萎縮病に強く良葉質・多収性の中・多雪地向き桑品種の育成を目的とした。

2.本品種は、ヤマグワ系「剣持」の冬芽にコルヒチン処理をして育成した良葉質で胴枯病に強い4倍体の「CL3-40 」(2n56)を母親に、ロソウ系で萎縮病に強く良葉質・多収性の大島桑(2n28)を父親として、昭和50年に蚕糸試験場栽培武桑育種第2研究室において交配し た。

3.昭和5154年の個体選抜試験に、交雑番号谷No.4928を付した386本の交雑実生苗を供試し、10個体を選抜した。これらの選抜個体は、昭和5457年の系統選抜試験に供試し、多収性で胴枯病並びに萎縮病に強い1系統(谷No.4928-1)を選抜した。

4.これに谷75-01の系統名を付し、昭和5862年の5年間、愛知県・鳥取県・徳島県の各試験地で特性検定(耐萎縮病性)試験を実施するとともに、昭和60〜平成2年の6年間、山形県(中雪地)・新潟県(多雪地)の2試験地において系統適応性検定試験に供試し、栽培試験および蚕飼育試験を行った結果、耐病性(胴枯病・萎縮病)、良葉質・多収性などの優れた特性が評価を受け、平成3年6月26日、「桑農林14号」に登録され、「ゆきあさひ」と命名された。

5.本品種の特性の概要は次のとおりである。@本品種はヤマグワ系に属する3倍体である、A低幹根刈仕立の樹型は「剣持」「ふかゆき」と同程度の「やや展開」型である、B枝条は直立性で灰褐色を呈し、枝条伸長は良好で、「剣持」「ふかゆき」に優り「長」である、枝条数は「ふかゆき」より多いが「中」である、C節間長は「剣持」「ふかゆき」より短く「やや短」である。冬芽は暗褐色の中形三角形で、枝条に密着斜立して着生する、D葉型は、春は2裂〜4裂葉に多裂葉、夏秋期は2裂〜4裂葉に全縁葉が混在し、中型で厚い。葉面は光沢があって縮皺は少いが、「剣持」に比べ「やや粗」である、E春期の発芽の早晩は、「剣持」「ふかゆき」並の「中」である。その後の新梢の発育は「剣持」と同程度であるが、葉数は「剣持」より多い、F低幹根刈仕立の夏切法による壮蚕用の年間収葉量は、「剣持」「ふかゆき」よりかなり多い、G桑胴枯病には「剣持」「ふかゆき」より強く、また、萎縮病には「剣待」よりかなり強い。裏うどんこ病罹病程度は「ふかゆき」並みの「中」でり、晩秋期の葉の硬化は「剣持」より遅い。蚕の飼料価値は「剣持」「ふかゆき」より良好である、H古条挿木の発根性は極めて良好で、桑苗の自給生産が容易である。

6.本品種は、東北・北陸・山陰および東山の積雪地帯に適し、特に平均積雪2m以上の多雪地帯への導入が可能である。春秋兼用・夏秋専用桑園における春秋の壮蚕用に適するが、低幹根刈仕立の場合、立枯性細菌病の発生に留意し、埋株は避けた方がよい。また、本品種の特性を生かすため、生育初期の株作りに重点を置き、栽植後3年目から夏切りをすることが望ましい。

※牧 音榮、堤忠宏、山田景三、宮山健也、和田 實(1991)桑新品種「ゆきあさひ」の育成.北陸農業試験場報告 第33号:9-27


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