143.桑の新品種「わせゆたか」(桑農林17号)(1994)

藤田晴彦、片瀬海司、内川長弥、矢崎利一、松島幹夫、片桐幸逸(1994)桑の新品種「わせゆたか」(桑農林17号).技術資料 第129号:1-15

1.東山地域のなかでも少雪寒冷地に栽培されている桑品種の多くは、耐寒性の面で十分とは言えず、しばしば寒害の被害を受けることがある。さらに、晩秋蚕期の葉の硬化が早く飼料価値が低くなる傾向がある。

2.近年、「しんけんもち」や「あおばねずみ」および「みつしげり」が耐寒性で多収の品種として育成・公表されたが、これらの3倍体の品種は耐干性がないため下部落葉が多く、晩秋蚕期の葉の硬化が早く、また萎縮病抵抗性や桑裏うどんこ病に弱いこと等の欠点があり、なかなか普及されることがなかった。

3.また、「はちのせ」が、平成4年に新品種として公表されたが、収量の面や、公表されて間がないことから普及していない。一方、近年土地生産性の向上と収穫・管理の機械化を目指す新しい技術として多植、密植桑園が普及しつつあり、その新しい栽培収穫体系に適合する桑品種の育成が要望されていた。そこで、少雪寒冷地に適応し、良質・多収の密植栽培および普通植え適合性品種の育成を進めた。

4.昭和50年に「五郎治早生」を雌親、「しんいちのせ」を雄親として交雑し、得られた実生を第一桑園(長野県松本市)に植え付けて昭和51年から4年間個体選抜を行い、本系統を選抜した。昭和55年〜59年までの5年間、第三桑園(松本市惣社)における系統選抜試験に供試した。次いで昭和59年〜62年までの4年間第二桑園(松本市中山高遠)における耐寒性試験に供試し た。

5.昭和63年〜平成5年に岩手県および山梨県において栽培および飼育試験(系統適応性検定試験、系統適応性検定密植試験)を実施した。その結果、耐倒伏性で枝が細く、機械収穫が容易で密植栽培に向き、良質・多収であることが認められ、平成6年8月11日「桑農林17号」として登録され、「わせゆたか」と命名された。

6.本品種の特性は次のとおりである。@葉の大きさは「しんいちのせ」と大差がない、A葉の色は「あおばねずみ」より淡いが「しんいちのせ」より濃い、B枝条長は「しんいちのせ」と同等で「あおばねずみ」より長い、C枝条数は両対照品種より多く、枝条の色も異なる、D技条の先枯れは両対照品種より少ない、E春の発芽は両対照品種より早い。また出開き芽が少なく良く伸びる、F萎縮病抵抗性は「しんいちのせ」と同等で「あおばねずみ」より高い、G晩秋期の葉の下部落葉は両対照品種より少なく、葉質も良い、H密植栽培における収量は「しんいちのせ」より多い、I両対照品種に対して、桑の飼育成績は春・晩秋蚕ともに高い。

7.本品種は、東山地域、北関東および東北地方の少雪寒冷地に適し、春秋兼用または普通植および密植桑園に適する。萎縮病抵抗性は「しんいちのせ」よりやや弱いので萎縮病激発地での栽培は避ける。条桑中の新梢・葉量割合および飼料価値が高いので、蚕飼育における給桑量の過多にならないよう注意を要する。


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