186.暖地向き密植用桑品種「せんしん」(桑農林19号)(1998)

岩田 益、市橋隆壽、水本文洋、樋田仁蔵、山本 賢、内田 満、町井博明、小山朗夫、山ノ内宏昭、長沼計作(1999)桑の新品種−「せんしん」(桑農林19号).技術資料 第135号:1-10

1.近年、「先進国型養蚕業確立推進事業」が推進され、養蚕経営の規模拡大を志向する多回育、省力化技術等が現場へ普及しつつある。採桑作業の省力化をねらった密植機械収穫体系の導入を想定した場合、バインダ型条桑収穫機等の安価な小型機械では、中間伐採が困難であるため、全蚕期を通じて基部またはそれに近い部位で伐採せざるを得ない。しかし、小型条桑収穫機による基部伐採を繰り返して行った場合、樹勢低下による枝条の先枯れあるいは桑萎縮病多発等により、安定した収量の確保が困難になることが懸念される。これまで暖地向き密植栽培用桑品種として「みつみなみ」、「ひのさかり」および「みつさかり」が育成されており、いずれも枝条が細く、直立性で機械収穫に適した形態的特性を有しているが、前述した枝条の先枯れ、桑萎縮病抵抗性等については、必ずしも欠点のない桑品種とは言い難かった。
 そこで、暖地における多回育に適応し、年間を通じて安定的に良質多収で、萎縮病抵抗性を備えた優良桑品種の育成を目標とした。

2.蚕糸試験場九州支場において、桑萎縮病抵抗性育成系統「九68-52」(育成系統「No.3118×「国桑第21号」)を母本に、代表的な桑萎縮病抵抗性品種である「大島桑」を父本として、昭和53年に交雑を行った。同年に実生苗を養成し、昭和54年から58年まで個体選抜を行い、優れた特性を有すると認められた1個体に系統番号「九78-40」を付し、昭和59年に接木法により増殖した。

3.昭和60年から平成2年にかけて系統選抜試験を行ったところ、優秀な成績を収めたことから、昭和63年から平成4年まで鳥取、徳島および鹿児島の各試験地で桑萎縮病抵抗性検定試験(特性検定試験)に供試するとともに、平成6年から9年まで、岐阜および宮崎の2試験地で系統適応性密植検定試験に供試し、栽培試験並びに蚕の飼育試験を実施した。

4.その結果、「九78-40」は収量および葉質については「はやてさかり」と同等であるが、先枯れが少なく、桑萎縮病抵抗性を有するといった従来の桑品種にはない優れた特性を有することが明らかになったため、平成10年8月に桑農林19号「せんしん」として命名登録された。なお、本品種の育成については、昭和5812月に蚕糸試験場から九州農業試験場へ、平成8年10月には九州農業試験場から蚕糸・昆虫農業技術研究所へ移管されている。

5.本品種はログワ系に属し、「先進国型養蚕業」に代表される多回育を前提とした密植機械収穫桑園に適した特性を持つことから「せんしん」と命名された。その特性の概要は以下のとおりである。@樹型はやや展開であるが、耐倒伏性を有する、A枝条は「はやてさかり」よりやや長く、揃いは良好である。節間長はやや短い、B枝条数はやや多いが、「はやてさかり」と比較すれば同等かやや少ない、C葉は春〜晩秋蚕期を通じて欠刻がなく、やや大型で、緑色を呈し、葉面は平滑で光沢がある、D花性は偏雌性であるが、着椹は少ない、E春の発芽は「はやてさかり」並か若干早い、F枝条の先枯れは「はやてさかり」より少なく、前年中間伐採されていない枝条で特に少ない、G夏秋蚕期中間伐採後の再発芽性は良好で、晩秋蚕期の葉の硬化は遅い、H収量は「はやてさかり」と同等でやや多い、I桑萎縮病および桑縮葉細菌病に強い。桑裏うどんこ病にはやや弱い、J蚕飼育における飼料価値は「はやてさかり」と同等で良好である、K春秋兼用、夏秋専用のいずれの用途にも適する。小型条桑収穫機による機械収穫適性も高い。

6.「せんしん」は四国、九州地域の平坦地および中山間地並びに本州中部以西の地域において、春秋兼用または夏秋専用密植栽培による壮蚕用桑に適する。特に多回育に対応した小型条桑収穫機による基部伐採を通年行う収穫体系に好適である。

※小山朗夫、市橋隆壽、町井博明、山ノ内宏昭、水本文洋、岩田 益、樋田仁蔵、山本 賢、内田 満、長沼計作(1999)桑新品種「せんしん」の育成.蚕糸・昆虫農業技術研究所研究報告 第21号:81-117


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