200.植物が植食性昆虫から身を守る新たな化学メカニズム(1999)

Konno, K., C. Hirayama and H. Shinbo (1997) Glycine in digestive juice: A strategy of herbivorous insects against chemical defense of host plants. J.Insect Physiol. 43: 217-224
Konno, K., H.Yasui, C. Hirayama and H. Shinbo (1998) Glycine protects against strong protein-denaturing activity of oleuropein, a phenolic compound in privet leaves. J.Chem.Ecol. 24: 735-751
Konno, K., C. Hirayama, H. Yasui and M. Nakamura (1999) Enzymatic activation of oleuropein: A protein crosslinker used as a chemical defense in the privet tree. Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96: 9159-9164

1.イボタ(Ligustrum obtusifoliumモクセイ科)という低木は葉にオレウロペイン(oleuropein)というフェノール性のイリドイド配糖体を多量に(葉生重の3%)含んでいる。この物質自体は特に目だった活性を持たず、安定な状態で葉細胞の液胞または細胞質に蓄えられている。

2.一方イボタの葉細胞のオルガネラ内にはβ-グルコシダーゼやポリフェノールオキシダーゼなど、オレウロペインを活性化する酵素がオレウロペインとは隔離されて存在している。

3.葉の細胞が植食昆虫の食害により破壊されると、オレウロペインと活性化酵素との間の隔離がなくなり、オレウロペインは強力なタンパク質変性架橋物質に変換される。特に葉のβ-グルコシダーゼがオレウロペインのイリドイド配糖体部分のグルコースを切り落とすと、この部分がタンパク質変性架橋試薬として知られているグルタルアルデヒドと類似の構造に変化し、タンパク質中のリジンの側鎖のアミノ基と共有結合してグルタルアルデヒドより強力にタンパク質分子を変性架橋する。アウクビンなど様々なイリドイド配糖体が多くの植物中から知られているが、これらのものもβ-グルコシダーゼにより同様に活性化される。

4.結果として変性したタンパク質からは必須アミノ酸のリジンが失われ、昆虫に対する栄養価がなくなる。一般の昆虫はこの植物を食べても成長できないため、イボタの葉のオレウロペインによるタンパク質架橋変性活性はイボタにとって有効な防御となっている。一方、イボタを専門的に食べるイボタガなどの昆虫は、消化液中にグリシンを分泌しそのアミノ基で変性作用を中和・阻止して葉を食べているため、イボタの葉で十分に成長できる。


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