205.温暖地向き密植機械収穫用品種「なつのぼり」桑農林20号(2000)

町井博明、小山朗夫、山ノ内宏昭、尾暮正義、長沼計作、片桐幸逸、松島幹夫、木内美江子、横山忠治、原島典雄(2000)桑の新品種「なつのぼり」(桑農林20号).技術資料 第137号:1-10

1.近年、先進国型養蚕の推進などにともない、養蚕経営規模拡大をねらって、蚕の年間飼育回数を増す方向で技術開発が進められている。さらに、桑栽培についても省力化、低コスト化を図るため、密植機械収穫桑園が推奨されている。これらに対応する桑品種の具備すべき条件としては、直立性で条径が細く、条桑刈取機による基部伐採を繰り返しても再生長が旺盛で、萎縮病の発生が少ないことなどがあげられる。

2.しかし、温暖地向き品種として既に育成され、普及も進んでいる「しんいちのせ」は、枝条の伸長は良好であるが、春先の枝条の先枯れにより春蚕期の収量が不安定であったり、条径が太いため、密植栽培やバインダ型などの小型条桑刈取機による収穫には必ずしも適当ではなかった。また、「ときゆたか」および「たちみどり」は樹勢強健で、萎縮病抵抗性を有しているが、枝条の伸長が劣り、夏秋期の再発芽性に問題があるなど、桑の生育期間が四国、九州地方などと比較して短い関東地方をはじめとする温暖地では、年2回の基部伐採を前提とした機械収穫に高い適性を有するとは言えなかった。このため、温暖地における多回育に適応し、年間を通じて安定的に良質多収で、より優れた機械収穫適性を備えた優良桑品種の育成を目標とした。

3.昭和61年(1986年)に蚕糸試験場において、葉質良好で、多収性の「一ノ瀬」を母本に、耐倒伏性で枝条の揃いが良好な育成系統である「No.3001」を父本として交雑を行った。昭和62年から平成2年にかけて個体選抜を行い、優れた特性を有すると認められた1個体に系統番号「本8660」を付し、平成3年に接木法により増殖した。

4.平成4年から育成地では系統選抜試験に、愛知、徳島および鹿児島の各試験地で特性検定試験(萎縮病抵抗性)に並行して供試し、優秀な成績を収めたことから、平成8年から11年まで千葉および山梨の2試験地で系統適応性密植検定試験に供試し、栽培試験および蚕の飼育試験を実施した。

5.その結果、「本8660」は収量および葉質については「しんいちのせ」と同等であるが、先枯れが少なく、直立性で枝条伸長が良好であり、条径も細めであるといった従来の桑品種にはない優れた特性を有することが明らかになったため、平成12年8月に桑農林20号「なつのぼり」として命名登録された。

6.本品種はカラヤマグワ系に属し、特に夏季の枝条伸長が良好で、温暖地における密植機械収穫桑園に適した特性を持つことから、「なつのぼり」と命名された。その特性の概要は以下のとおりである。@樹型は直立であり、耐倒伏性を有する、A枝条は「しんいちのせ」よりやや長く、揃いは良好で、条径はやや細い。節間長はやや短い、B枝条数は「しんいちのせ」よりやや多い、Cやや大型の4裂葉を着生し、葉色は「しんいちのせ」よりやや濃く、葉面は平滑で光沢がある、D花性は両性であるが、着椹は少ない、E春の発芽は「しんいちのせ」より1〜2日程度遅く、中生である、F枝条の先枯れは「しんいちのせ」より少ない、G夏秋蚕期中間伐採後の再発芽性は良好で、晩秋蚕期の葉の硬化は遅い、H収量は「しんいちのせ」と同等でやや多い、I桑縮葉細菌病に強く、桑裏うどんこ病にもやや強い。桑萎縮病には中程度の抵抗性を示す、J蚕飼育における飼料価値は「しんいちのせ」と同等で良好である、K古条挿木発根性は「しんいちのせ」より劣る、L春秋兼用、夏秋専用のいずれの用途にも適する。小型条桑収穫機による機械収穫適性も高い。

7.関東地方の平坦地および中山間地を中心とした広い地域において、春秋兼用または夏秋専用密植栽培による壮蚕用桑に適する。春蚕期の新梢中の正葉割合がやや低いことから、蚕飼育にあたっては、給桑量不足にならないよう留意する。また、生育が旺盛であり、過剰に繁茂した場合、株元の日照通風などの環境の悪化によって枝条基部の落葉が多くなるため、収穫は適期に行うよう心がける。さらに、挿木発根性が劣るため、接木法による増殖が推奨される。


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