[ 人工孵化

 人工孵化法には種々あるが、実用になっているのは浸酸法だけであると云ってよいから、主としてこれについて述べる。その他にどのような方法が試験されたかについては、石森(258a)、三浦(547)、田中(1036)などを参照されたい。
 日本においては、現在、春蚕よりも夏秋蚕の比重が大きいが、この夏秋蚕を支えているのは人工孵化法−浸酸法であるから、その方法が蚕糸業の中で果している役割は非常に大きい。しかし、これだけ普及した浸酸法がとのような働きで越年性卵を不越年化させるのかは殆どわかっていない。
 三浦(553)は、塩酸のCl-イオンが卵に吸収されて効果を発揮するものと考えているが、吸収されたCl-イオンの働く機構については言及していない。三浦の考えは、人工孵化可能な時期の蚕卵をガラス管に入れ、これに一方の電極を挿入し、他方の電極は裸のままとして、共に塩酸の中に浸すと、卵を入れた方が負になって電流が流れると云う実験結果に基ずいているのであるが、四方(835)の追試によれば、この実験結果には問題がある。上原(1092)は、塩酸中に両極を入れ、その各々の付近で浸酸を行ない、また食塩水中においても同様な試験を行なったが、Clイオンの働きと浸酸の効果とを直接に結び付けるような結果は得られなかった。

1 浸酸成績に影響する一般的な条件
 A 蚕卵の条件
 上蔟後の保護温度によって浸酸有効浸漬時間の巾が相違するが(V3Bdii)、産卵後の保護温度は浸酸適期の巾に影響する(第122表)。

第122表 産卵後の保護温度と即時浸酸成績(渡辺)(1149)
  産卵後の日数   保護温度
   25℃       20℃       15℃   
     日  時間
    10
    18
  1・ 0
  1・ 8
  1・16
  2・ 0
  2・ 8
  2・16
  3・ 0
  3・ 8
  3・16
  4・ 0
  5・ 0
  6・ 0
  7・ 0
  8・ 0
  9・ 0
10・ 0
11・ 0
   %
37
96
97
97
93
95
81
63
 5
 9
 2
 3
 2
 0
 0
 0
 0
 0
 0
   %
31
93
96
97
94
97
94
97
91
82
38
10
19
 0
 0
 0
 0
 0
 0
   %
20
45
 6
89
91
95
94
97
96
96
94
92
95
95
55
39
17
 3
 1
春蚕期。日110号。各蛾区を3分して供試。湿度は70−75%。浸酸は
46℃比重1.075,液温46℃、浸漬時間5分。小数点下省略。

 渡辺(1149)は第122表の例をも含めて3回の試験を行ない、その結果から、即時浸酸の適期の中心は、産卵後の保護温度が25℃の場合には、大約1日目、20℃の場合には2日目、15℃においては4日目であり、90%以上の孵化歩合の得られる期間の巾は温度が低いほど広いと結論した。勿論これは品種によっても異なるので、この数字がそのまま他の場合にも当てはまる訳ではないが、一般的な傾向としてはこの通りである。
 冷蔵浸酸の場合の、産卵後冷蔵までの保護温度と冷蔵時期との間にも同様な関係があって、保護温度の低い場合に冷蔵適期の巾が広い(第123表)。

第123表 産卵後冷蔵までの保護温度と冷蔵浸酸成績(渡辺)(1149)
 冷蔵までの日数  保護温度
   25℃       20℃       15℃   
     日  時間
 1・ 0
 1・12
 2・ 0
 2・12
 3・ 0
 3・12
 4・ 0
 4・12
 5・ 0
 6・ 0
 7・ 0
10・ 0
15・ 0
20・ 0
     %
72
95
96
97
98
95
97
96
79
70
44
45
71
53
     %
20
89
94
98
96
96
97
98
96
97
90
90
94
79
     %
 0
57
75
95
98
97
98
98
98
98
98
98
97
97
浸酸は47.8℃比重1.10、液温47.8℃、浸漬時間5分。
その他は第122表の場合に準ずる。小数点下省略。

 産卵後の保護温度によって浸酸および冷蔵の適期の巾にこのような違いのあるのは、胚の発育および越年化の進行が温度によって相違するためである。第122表および第123表において、早い時期の浸酸および冷蔵によって孵化の悪いのは、時期が早いと越年性卵が不越年化しにくいのではなく、発育がある程度進まなければ卵が浸酸に耐え得ずに死卵になるためであって、卵をいためることの少ない常温浸酸によれば、産卵後10時間以内の卵でも不越年化する([2B)。温度が高いと胚の発育が速く、浸酸に耐え得る時期に達するのは早いが、同時に越年化の進行も速いために適期の巾が狭いのである。
 産卵後の時間が浸酸成績に影響することも、浸酸成績の向上には短時間内にまとめて産卵させ、卵令を揃える必要のあることも、これによって理解される。
 小形な卵は大形な卵に比べて浸酸刺戟に対する抵抗力が弱い。
 大村(753)によれば、4令2日目に片側の卵巣を除去すると、残りの卵巣の卵が大きくなり(T2Abi)、また上蔟のときに尾角を切って出血させた蚕の卵は小さいが、産卵後20時間目に比重1.075、46℃の塩酸で4分および7分の浸酸を行なって比較すると(日112号×支110号)、4分間浸漬においては卵の大小と孵化歩合の順位との関係は顕著でなかったが、7分間浸漬においては卵の大小(片側卵巣の卵>無処埋蚕の卵>出血蚕の卵)と孵化歩合とが明かに比例し、また、小卵ほど最多2日孵化日がおくれた。蛹が大きいと小さいものに比べて一般に卵が大きく、その卵の大小が浸酸成績に影響する(572)
 橋爪(174)によると、全令を桑で飼育した蚕と柘で飼育した蚕との卵は大きさが異なり、支11号についての実験によれば、100粒平均の長径×短径が前者1.34mm2、後者1.19mm2 、1g卵数は前者1,821粒、後者2,139粒であったが、この卵を浸酸した成績を第124表に示す。

第124表 蚕卵の大小と即時浸漬成績(橋爪)(174)
浸漬時間
(分)
区別 孵化歩合
(%)
日別孵化歩合(%) 催青死卵
(%)
不受精卵
(%)
 第1日   第2日   第3日  第4−7日
桑飼育(大卵)
柘飼育(小卵)
82
93
56
57
17
36
 9
 4
17
 1
17
 6
 3
 6
桑飼育(大卵)
柘飼育(小卵)
93
92
79
49
16
42
 3
 6
 1
 1
 6
 7
 3
 6
14−22時の産卵を25℃で保護し、翌日16時に浸酸。
塩酸液は比重1.075、液温46℃。小数点下省略。

 この成績において、3分間浸漬の場合に桑飼育の孵化歩合が劣り、孵化も不斉なのは浸酸刺戟が不足なためであり、5分間浸酸で柘飼育の孵化歩合が劣り、孵化不斉なのは浸酸刺戟の強過ぎたためであって、柘飼育の蚕の卵が桑飼育のものに比べて浸酸刺戟に敏感なことを示している。これは22時までの産卵についての成績であるが、22時以後の産卵(卵令が若く卵も小さい筈である)を上と同時に浸酸した結果では、浸酸時間4分、7分ともに桑飼育の成績が勝っていた。
 橋爪はまた、片側卵巣摘出および幼虫の出血によって作った大卵および小卵についての浸酸成績も比較しているが(明記していないが桑飼育と思われる)、14−22時の産卵を翌日16時に比重1.075、液温46℃の塩酸で浸酸した結果では、大卵区は浸酸2分間では孵化歩合が低く、孵化不斉、3分間でもなお刺戟不十分であった。対照蚕の卵は2分間でも可なりの成績を示し、3分間では更によかったが、幾分刺戟不足の気味があった。これに対して、小卵区の卵は浸酸2分間でほぼ十分であり、3分間ては強過ぎるぐらいであった。
 卵の大小によって浸酸刺戟に対する感受性の異なる理由としては、小卵は体積の割合に表面積の大きいこと、卵殻が薄く、塩酸が通り易いのであろうと云うことなとが考えられるが、その証明はない。
 塩酸に対する卵殻の透過性は蚕品種によって相違がある(916,937)
 浸酸刺戟に対する蚕卵の感受性は蚕品種によって著しく相違するが、福田・河野(127)は淘汰によって、即時浸酸で孵化し易い系統と孵化しにくい系統とを分離し、冷蔵浸酸についても、冷蔵期間15日で容易に孵化する系統と孵化不良の系統とを分離した。

 B 塩酸の条件
  a 夾雑物

 現在、日本で作られている塩酸は大部分が合成法によるものであるから、夾雑物について特に心配することはないが、夾雑物の種類および含有量によっては蚕卵に害がある。
 夾雑物としては硫酸、硝酸、亜硝酸、遊離塩素、砒素なとが挙けられているが、塩酸の製造法によって異なるので一概には云えない。新しく購入した塩酸は予備浸酸をして、蚕卵に害のないことを確めてから使うのが安全である。
 夾雑物についての大櫛・地引(730)の試験結果は次ぎの通りである。
 硫酸 普通の工業用塩酸に含まれる程度の濃度では蚕卵に害はない。比重を調整した後の浸酸用塩酸液に硫酸2.5%以上を加えて浸酸を行なうと孵化が悪かったが、これは硫酸を加えた分だけ成が濃くなっているためで、硫酸を加えた後に比重を調整した場合には被害がなかった。
 亜硫酸 比重を調整した塩酸液に0.05%以上の亜硫酸を加えて浸酸を行なうと、卵は殆と全部死卵になる。しかし、亜硫酸は温度を上げると揮発するから、開放状態で加熱、撹拌しながら行なう普通の浸酸においては、被害は殆どないものと考えられる。上記の実験は密閉状態で行なったものである。新らしい塩酸はよく加熱、撹拌した後に使うのがよい。
 硝酸 ホルマリンを加えない場合には、比重を調整した塩酸液に2.5%の硝酸を加えても蚕卵に被害がなかった。 5%加えると著しい被害があった。普通の工業用塩酸に夾雑物として含まれる硝酸の量は、硫酸よりも少ないと考えられるから実際上の心配はない。
 ただ、塩酸にホルマリンを混ぜると、これが硝酸に作用して蟻酸と亜硝酸とを生じ、亜硝酸は無水亜硝酸に変り、更に酸化窒素と二酸化窒素とになる。この反応は低温でも起こるが、温度が高いと益々促進される。反応中は泡が発生し、熱を発し、液が褐色を呈するが、反応が終了すると無色になる。
 比重を調整した、ホルマリンを含む(100cc中にホルムアルデヒド0.5g)塩酸中に硝酸を加え、上記の反応の進行中に蚕種を投入して浸酸を行なうと、硝酸が0.01%の場合には被害がなかったが、0.1%のときは全部死卵になった。しかし、反応終了後に浸酸すると、硝酸を1%添加した区においても被害はなかった。
 このように、ホルムアルデヒドは硝酸と反応して亜硝酸を生ずるが、この反応は、硝酸1gに対してホルムアルデヒド約0.5gの割合で行なわれるから、蚕卵の脱落防止のために塩酸液にホルマリンを加える場合には、まず夾雑物として存在する硝酸の約半量に相当するホルムアルデヒドを加え、加熱して反応を行なわせ、反応終了後に、脱卵防止に必要な量のホルムアルデヒドを加えればよい。蚕卵にホルマリンを塗布し、新らしい塩酸を用いて浸酸を行なう場合には、塗布したホルマリンを乾かしてから浸漬するのが安全であり、また脱卵防止の効果も確実になる。
 亜硝酸 0.01%までは塩酸液に加えても害がなかったが、0.025%加えると孵化歩合が低下し、0.05%では殆ど全部死卵になった。しかし、亜硝酸は熱に対して不安定であるから、この害のあった塩酸を用いて、1週間後に行なった浸酸においては全然被害がなかった。
 即ち、普通の浸酸を行なうのと同じ温度に塩酸液を加熱して、数分間撹拌すれば、亜硝酸含量0.15%以下の場合には無害になるものと考えられる(0.15%以上の場合は実験していない)。但し、亜硝酸は不安定で、前記のように無水亜硝酸、酸化窒素、二酸化窒素を生ずるから、直接に有害なのがどれであるかは不明である、兵頭(232)は過酸化窒素(二酸化窒素)が有害であるとしている。
 砒素 0.01%までは害がなかったが、0.025%では孵化歩合が可なり低下した。
 塩化鉄 塩化第一鉄(FeCl2)を塩酸液に5%添加しても無害であった。
 土釜を用いて浸酸液を加熱すると、土釜に含まれている塩化鉄が塩酸内に溶出して、卵殻を着色させることがある。清水ら(854-856)は土釜から溶出した塩化第二鉄(FeCl3)によって塩酸液が橙青色を呈し、これで浸酸した卵の卵殻が暗緑色に着色した例を報告しているが、孵化歩合には影響がなかった。塩酸液に塩化第二鉄、塩化コバルト、塩化第一銅、塩化マンガン、塩化亜鉛などを1%添加して浸酸しても、孵化および蟻蚕の絶食生命時数に影響がなく、飼育試験の結果からみても無害であった。これらの中で卵殻を着色させたのは、塩化第二鉄のほかは塩化第一銅(CuCl)のみであった(黄色)。塩化第二鉄および塩化第一銅による卵殻の着色性は蚕の系統および品種によって相違があると云う。
 塩化バリウム 1%以下の添加では無害であった。
 以上の結果からみると、普通の夾雑物のうち、硫酸、亜硫酸、硝酸なでにはそれぞれ対策があり、塩化鉄、塩化バリウムは無害で、何れも心配することはない。注意しなければならないのは0.01%以上の砒素だけである。
 遊離塩素 は極めて有害であるが、非常に揮発し易く、実害は殆どないと思われる。なお、普通の意味の夾雑物ではないが、浸酸中に寒暖計がこわれて、塩酸液に水銀が混ざるようなことがあっても、蚕卵には被害はない(226a,383a)

  b 濃度の調整
 純粋な塩酸であれば、その比重によって塩化水素(HCl)の濃度を知ることができる。第125表は15℃、真空空中で測った不純物を含まない塩酸の比重と塩化水素の濃度との関係を示すものであるが、実用上は、真空中と云う条件をはなれ、普通の純度の塩酸に対してこの表を適用する。

第125表 塩酸比重とHCl濃度との関係
415
     (真空中)     
HCl
   (%)   
415
     (真空中)     
HCl
   (%)   
1.000    
1.005(16)
1.010    
1.015    
1.020(21)
1.025    
1.030(24)
1.035    
1.040(27)
1.045    
1.050(30)
1.055    
1.060(33)
1.065    
1.070(36)
1.075    
1.080(39)
1.085    
1.090(42)
1.095    
1.100(45)
1.105    
1.110(48)
 0.16
 1.15
 2.14
 3.12
 4.13
 5.15
 6.15
 7.15
 8.16
 9.16
10.17
11.18
12.19
13.19
14.17
15.16
16.15
17.13
18.11
19.06
21.01
20.97
21.92
1.115    
1.120(51)
1.125    
1.130(54)
1.135    
1.140    
1.1425(57)
1.145    
1.150    
1.152(66)
1.155    
1.160    
1.163    
1.165    
1.170    
1.171    
1.175    
1.180    
1.185    
1.190    
1.195    
1.200    
22.86
23.82
24.78
25.75
26.70
27.66
28.14
28.61
29.57
29.95
30.55
31.52
32.10
32.49
33.46
33.65
34.42
35.39
36.31
37.23
38.16
39.11
括弧内の数字は10−20℃間、1℃の上昇ごとの比重の減少を示す
(単位は10-5)。日本化学会編 化学便覧 基礎編U(丸善1966)による。

 比重と塩酸濃度との関係は温度によって相違するから、15℃以外の温度において測定した比重は補正しなければならない。このためには、温度1℃の上下によって比重がどれだけ変化するかと云う補正値を求めておき、これを加除する方法(233,389,580)や、塩酸の膨張係数を用いて計算、作成した表を用いる方法(603,622)などがある。
 第125表の括弧内に示した数字は温度1℃の上下による比重の補正値(×10-5)を示したもので、例えば、15℃における比重1.070の塩酸は温度が1℃上れば36/100,000=0.00036減少して1.070−0.00036=1.06964になり、1℃下れば1.070+0.00036=1.07036になることを示す。15℃比重1.075の場合の補正値は1.070の場合の36と1.080の場合の39との平均によって37.5×10-5が得られる。表の脚註に、補正値の適用範囲は10℃− 20℃であると注意されてはいるが、この補正値をそのまま31℃の差のある46℃に適用して計算すると、46℃での比重は
      1.075−37.5×10-5×(46−15)=1.063375
になる。
 小針(389)、水野(580)の補正値は1℃の上下につき
    13−19%の塩酸については 約0.0003
    20−27%   〃        約0.0004
    28−35%   〃        約0.0005
となっているから、それによって計算すると、15℃比重1.075の塩酸は46℃においては比重1.0657になる。
 室賀(622)の表によれば同じ比重が1.0642である。
 このように、それぞれの値が僅かに相違しているが、普通の比重計では読みとり難い違いであって、何れの方法によって比重を調整しても人工孵化施行の実際問題としては差支えない。
 15℃比重の1.10および1.110は48℃において、第125表の計算によれば1.08515および1.0932、小針らの補正値によれば1.0868および1.0968、室賀の表によれば、1.0853および1.0943である。
 塩酸濃度について重要なのは、これよりも比重について違った解釈があり、“塩酸の液温46℃、比重1.075”と記されている場合に、これを“15℃において比重1.075の塩酸を46℃に温める”と解釈する人々と、“46℃に温めたときの比重1.075”であるとする人々とがあって、誤解の基になっていることである。
 古くは、15℃比重て塩酸濃度を調整し、これを目的温度に温めて使用するのが普通てあったが(58,389,411,580)、その後、塩酸液を46℃に温めてから比重計を浮べて1.075に調整し、使用することが行なわれるようになり、現在、蚕種業者の約半数はこの方法によって浸酸を行なっているものと思われる。農林省蚕糸試験場の内部においてさえ、この二つの慣行があって、共通試験の規定をそれぞれに解釈していることがある。
 同じく比重1.075とは云っても、46℃での1.075の塩酸は15℃比重のものに比べて、塩化水素の濃度としては約2%高い。どちらの比重がよいかは別問題にしても、もともと15℃比重による試験の結果採用された1.075を温度の異なる場合にそのまま適用すると結果の相違するのは当然である。
 自分の処だけで一つの目安として使っている限りでは、どちらを用いても差支えないが、日本中、あるいは世界を通じて話し合う場合や、他の試験成績を参考にする場合などには、誤解や事故のもとになるおそれが多い。
 15℃比重1.10の塩酸を用いる限り、冷蔵30日間の冷蔵浸酸において卵の潰れることは殆どないが、目的温度47.8℃での比重1.10の塩酸で浸酸すると卵の潰れる危険がある。従って、発表した試験成績や講習会で話したことが思わぬ事故を招く心配がある。
 このような混乱の起こったのは、渡辺の報告(1140,1149)が、総べて、目的温度での比重によって塩酸濃度を示していることからわかるように、浸酸液調製上の便宜から、当時の蚕業試験場においてはこのような指導が行なわれていたためであろうと思われるが、渡辺自身(1149)は、第127表に示す成績その他から、“即時塩酸孵化法においては、塩酸液の濃度は液温46℃にて比重1.06又は1.065となすを有利とすべく、此濃度は略春蚕採種期の室温にて比重1.075となし後之を46℃に昇温せしめたる場合に相当する”と述べ、目的温度での比重1.075は濃度が高過ぎると注意している。中井(649)も、塩酸比重は15℃できめるのが学術的であるが、実際には夏季の天然温度できめて差支えない。しかし、このようにして調製した塩酸液を115゚F(46.1℃)に温めたときにもなお1.075を維持しなければならないと考えて塩酸を補充すると死卵を出す原因になる、と云う意味のことを記述している。これらの真意の理解されなかったことが混乱の原因になったものと考えられる。
 このような現状においては、比重には必らず調整したときの温度を付記する必要がある。本書に引用した多くの浸酸成績の中にもこの点の不明なものが少なくなかったが、わかる限りは15℃比重、46℃比重と云うように明記した。
 15℃比重を用いると次ぎのような利点がある。
 1)購入した塩酸に表記されている比重は15℃比重であるから、第125表によって濃度がわかるが、表を用いないでも、15℃比重の値から1を引き、小数点下だけに200を掛ければ概略の濃度(%)が求められる。即ち
     (15℃比重−1)×200=塩酸の概略濃度(%)
 2)このようにして原液濃度(%)がわかれば、次ぎの式を用いて、原液を目的濃度(%)に稀釈することができる。目的濃度(%)に稀釈するために原液1gに混合すべき水量()は
      {原液濃度(%)−目的濃度(%)}/目的濃度(%)=(g)
 3)比重によって原液を稀釈する場合に、目的比重の塩酸100gを作るのに要する原液の量()は
      (目的比重−1)/(原液比重−1)×100=(g)
 このような計算によって概略の稀釈をした後、比重計を浮べて細かい調整を行なうのである。

  c 浸酸による塩酸濃度の変化
 何回も浸酸に使用した塩酸でも、比重さえ調整すれば、新らしい塩酸と同様に使用できる場合もあるが(529,531)、比重の調整だけでは不十分な場合も少なくない。水が加わって、濃度と共に比重の下がったような場合には、濃度の低下が比重の減少として現われるから、塩酸を加えて比重を調整すればよいのであるが、卵の膠着物質やバラ種台紙の糊などが多量に溶解すると、塩酸濃度は下がっていても、比重はその割に減少しないことがある(944)
 新らしい塩酸は蚕卵に害があるとして、前年または前蚕期に使用した古い塩酸を、新しい塩酸に半分以上も混合して浸酸用塩酸液を調製する習慣が広く行なわれているが、このような習慣のあるのは、上に述べたような目的温度における比重調整を行なっている所が大部分である。従って、古い塩酸に特別の効果があると云うよりも(極く一部には、先きに述べた有害夾雑物の稀釈に役立っている場合があるかも知れないが)、混入物のために比重の割には濃度の低くなった塩酸を混合して、塩酸濃度の高過ぎるための被害を意識せずに軽減しているもののように考えられる。これは、これらの場所で使用している浸酸用塩酸液を調べてみると、目的温度で比重を調整しているにも拘らず、塩酸濃度(%)としては、目的温度での比重に相当する濃度と15℃比重に相当する濃度との中間ぐらいに下がっている場合の多いことが示している。
 15℃比重による浸酸の共通試験を行なった処、ある特定の場所での孵化が毎回悪く、塩酸濃度の低いためのように考えられる場合があった。原因を調査した結果、ここでは、従来、古い塩酸を混合して、目的温度で比重を調整する習慣があったので、15℃比重の場合にも古い塩酸を混ぜたため、比重は同じでも所要の塩酸濃度(%)の得られなかったことがわかった。即ち、古い塩酸を混合することは濃度の高過ぎる場合には効果があるが、もともと濃度の低い場合には効果がなく、却って浸酸効果を低下させることさえある。技術はこのように関連し合った一連の条件の上で成立するもので、その一部分だけを、前後に関係なく取り換えても効果の挙がらないことに注意しなければならない。
 古い塩酸の混合には、このように有効な面はあるが、古さの程度(比重と濃度との関係)が常に同じとは限らないため、同じ量の古塩酸を混合し、その比重を同じに調整しても、できた浸酸用塩酸の濃度(%)の一定しない点に問題がある。
 濃度を下げて蚕種の被害を防止するためだけならば、このような不安定な方法よりも、新らしい塩酸を用いて初めから低い濃度で使用すれば十分足りる訳であるが、経済的な理由もあって古い塩酸を一部使用するのであれは、比重以外の方法によって塩酸濃度を確かめる必要がある。最初の濃度をいくら正確にしておいても、使用中に変動するのであるから同じであると云う考えもあるようであるが、浸酸の現場をみると、秒時計を使い、浸漬時間には非常に神経を使っている。秒をあらそうほど正確な浸漬を行なっても、液の濃度が最初から不定では効果の安定は望めない。
 塩酸比重ぞ示す場合には、温度ばかりでなく、古い塩酸を混ぜたか否かも記す必要がある。
 比重には出ない浸酸用塩酸液の濃度変化を、現場で簡易に検定する方法の一つの試みとしては次ぎのものがある(944)
 浸酸用塩酸液濃度の変動許容範囲を15℃比重±0.002 (以下、上限を+0.002下限を−0.002と記す)に対応する濃度(%)とし、この上限および下限濃度の塩酸液1cc によってそれぞれ中和する炭酸水素カリ(KHCO3)液を作りこれにメチルオレンジ液1滴を加えたものを検定液とする。検定液はポリエチレンの袋またはアンプルに封入して準備しておく。
 濃度を調べたい塩酸液1ccをピペットで正確にとり、試薬中に入れて浸盪すると、検定液が黄色のままで変色しない場合、赤変する場合および橙色を呈する場合がある。この色によって塩酸液の濃度が上記許容範囲内であるか否かが判定できる(第126表)。

第126表 浸酸用塩酸濃度の簡易判定(高見・戸谷ら)(944)
 類別   検定液の種類   呈色  結果の判定
+0.002
−0.002

 塩酸濃度が許容範囲より低い 
+0.002
−0.002

   〃       〃   高い
+0.002
−0.002

   〃      〃  内である
呈色が橙色の場合は、塩酸濃度がその検定液の指度
(上限または下限)にほぼ等しいことを示す。

 この場合、厳格に云えば、膨張係数の関係から、被検塩酸を15℃に冷やしてからその1ccをとらなければならない訳であるが、実際問題としては、浸酸に使用中の温度のままの塩酸を用いて差支えない。なお、蛋白その他の溶解している塩酸液は、塩酸濃度は等しくても、卵に対する浸酸効果が等しいかどうかの問題もあるが、比重だけに頼るよりは浸酸成績が向上する。
 検定液調製の1例を挙げると、15℃比重1.075に対する上限(+0.002)および下限(−0.002)濃度の塩酸は規定度がそれぞれ4.596および4.346であるから、その1ccを中和する炭酸水素カリとして、上限用には46.0172g/g下限用には43.5101g/gの水溶液を作り、これらの10cc宛にメチルオレンジ液1滴を加えたものを検定液とする。

 C 塩酸液の濃度と浸漬時間との関係
 塩酸液の温度が等しい場合には、濃度の高いほど適当な浸漬時間の巾が狭い(第127表)。

第127表 塩酸の濃度と浸漬時間との関係(渡辺)(1149)
 浸漬時間  塩酸比重
 1.060   1.065   1.070   1.075 
 1分
 2 
 3 
 5 
 7 
10 
13 
15 
20 
25 
30 
94%
94 
97 
98 
97 
95 
96 
95 
96 
91 
86 
97%
97 
94 
97 
97 
90 
96 
95 
94 
86 
81 
96%
98 
96 
98 
97 
95 
95 
91 
83 
61 
54 
96%
97 
97 
98 
94 
94 
95 
92 
84 
54 
 4 
日105号。産卵後20時間で浸酸。塩酸は46℃比重。
液温46℃で浸漬。小数点下省略。

 水田・佐藤(586)によれば、90%以上の孵化歩合の得られる有効浸漬時間の巾は塩酸液の濃度の高いほと狭いが、その中心値の変化は15℃比重の1.040から1.120までの間は直線的でそれ以上濃度が高まると急に緩かになる(第128表)。

第128表 塩酸の濃度と有効浸漬時間の巾および中心値(水田・佐藤)(586)
    比重          90%以上の孵化歩合の得られた浸漬時間     
中心値
1.04
1.06
1.08
1.10
1.12
1.14
1.16
1.18
1.20
396分
132 
 42 
 12 
    3.75
    1.67
    0.92
    0.50
    0.42
120−720分
36−228
12−72
4−20
2.5−5
80−120秒
50−60
30
25
(支115号×支124号)×(日122号×日124号)。産卵後25℃、
20±2時間の卵を供試。15℃比重。液温40℃。

 水田らは、この現象を蚕卵が塩酸に反応するまでにある一定の時間が必要なためではないかと考えている。

 D 塩酸液の温度と浸漬時間との関係
 塩酸液の濃度が一定の場合には、液温の高いほど適当な浸漬時間の巾が侠い(第129表)。

第129表 塩酸の温度と浸漬時間(渡辺)(1140)
 塩酸の温度   浸漬時間   孵化歩合(%)   最多2日孵化歩合*(%) 
80゚F
(26.7℃)
 1時間
 2  
 4  
 6  
 8  
10  
33
98
99
98
97
96
55
59
59
80
73
85
90゚F
(32.2℃)
 1  
 2  
2.5 
 3  
 4  
 5  
98
97
94
97
97
88
81
87
93
86
90
91
100゚F
(37.8℃)
30分
 1時間
 2   
2.5 
98
93
95
99
90
97
97
91
110゚F
(43.3℃)
 4分
16 
32 
40 
93
94
95
90
88
97
94
97
120゚F
(48.9℃)
 1  
 2  
 4  
 5  
 6  
 8  
10  
88
92
93
71
62
23
 1
91
83
94
83
90
79
100
日107号。産卵翌日午前11時浸酸。産卵させた時間、
保護温度などの記載なし。塩酸濃度15%。
*対孵化卵数。小数点下省略。                  

 水田・苫米地(590)は、産卵時間を3時間に限った(支115号×支124号)×(日122号×日124号)の卵を、その中心時間から18−23時間目に15℃比重1.100の塩酸液に浸漬し、液温を0℃−50℃の間で変化させて試験を行なった(第130表)。
これによると、0℃−45℃の間では、液温5℃の上昇に連れて有効浸漬時間の中心値がほほ半分になっているが、45℃−50℃の間では更に急激に変化している。

第130表 塩酸の温度と有効浸漬時間の巾および中心値(水田・苫米地)(590)
   塩酸の温度   
(℃)
     90%以上の孵化歩合の得られた浸漬時間     
中心値(分) 巾(分)


10
15
20
25
30
35
40
45
47.5
50
3,240
1,680
780
390
218
115
52.5
24
12
5.75
2.5
1.00
2,160 − 4,320
  720 − 2,640
  240 − 1,320
120 − 660
 75 − 360
 40 − 260
 20 − 100
 8 − 40
 4 − 20
2.0 − 9.5
1.0 − 4.0
0.25 − 1.5 

 水田・高橋(587)によれば、15℃比重1.100および1.130の塩酸液を用い、液温5℃と−5℃とで即時浸酸成績を比較すると、この濃度差は、浸酸効果において、5℃の場合には大約浸漬時間12時間、−5℃の場合には同じく65時間の違いに相当する。材料は(日122号×日124号)×(支115号×支124号)であった。また、90%以上の孵化歩合の得られる浸酸時間は、液温が−5℃から+5℃に上昇すると15℃比重1.100の場合には約1/5、1.130の場合には1/2−1/3になった。比重1.100の場合に、10℃の液温上昇によって有効浸漬時間が1/5になるものとすると、液温25℃においては36分、37℃においては約6分になるから、従来知られている常温浸酸法および比重1.100の加温浸酸法の浸漬時間にほぼ一致すると云う。
 塩酸液の濃度が1゚F下がれば浸漬時間を標準の1.2倍にし、1゚F上がれば0.83倍にするのがよいと云われているのは、液温10゚Fの上下によって有効浸漬時間が約5分の1または5倍になると考えての計算によるものである。 10゚Fは5.56℃であるから、1℃の上下に換算するには、
          5,56=5
を解いて =1.34を得るから、液温が1℃下がれば浸漬時間を約1.34倍、1℃高いときは約0.75倍に伸縮することになる。

2 即時浸酸
 即時浸酸は、蚕種に越年性の特徴が明瞭になる以前、または特徴の現われ初めた頃に浸酸を施して、越年化を中止させる方法である。浸酸後の有効冷蔵期間を25日、催青期間を10日とすれば、大約、産卵後10日以後35日までの間の掃立用蚕種を供給する入工孵化法である。加温法と常温法とに大別できる。

 A 加温即時浸酸
  a 浸酸

 加温即時浸酸は、産卵後25℃、20時間目頃に行なうのが普通である。この時期を胚の解剖によって決定することはむずかしいから、産卵後の保護温度を一定にして、その時間によって処理時期をきめるのがよい。胚をみるには、解剖よりも、3%内外のホルムアルデヒド液(ホルマリン10倍液)を80℃に温めた中に蚕種を入れて5分間固定した後、卵殻の着いたまま60%アルコールに移し、10倍ぐらいの拡大鏡で観察するのが簡単で(1182,1183)、卵殻を通し、第24図Stage4のような胚の輪廓を透視することができる。
 浸酸時期についての一般的注意は既に述べたが([1A)、胚がダルマ形(Stage5)に近付くほど、強い塩酸刺戟が必要になる(571)
 高島ら(966)は、日124号、日126号、日502号、支124号、支125号および支126号につき、産卵後、25℃で17±1、20±1および24±1時間目に15℃比重1.075、46℃、3、5、7分間の浸漬によって孵化成績を比較した。品種によって適期の巾に広狭があり、またその中心もずれていたが、総べてに共通する、浸酸適期は産卵後20時間目であった。
 浸酸と云えば、蚕種を塩酸液に浸漬する操作に異常な注意の払われるのが常であるが、これまでに述べてきたように、浸酸成績に影響する条件は非常に多いから、浸漬だけにどのように注意を払っても、それだけでは浸酸成績を向上させることはむずかしい。
 総べての条件を均一にしたつもりでも、結果は必ずしも同じにはならない。例えば、蚕糸試験場の本場および3原蚕種製造所において行なった共通試験成績をみても(第131表)各場所それぞれに、同じ掃立口ではあるが、産卵日の異なる材料によって試験を繰返えすと、浸酸時間3、5、7分の間の成績の相違よりも、同じ浸漬時間で浸酸日の違う区間の成績の違いの方の大きいことが珍らしくない。同じ3分とは云っても、毎回の浸漬時間には誤差があって、それがこの原因の一部になっていないとは云われないが、浸漬時間だけでは成績のきまらないことも明かである。

第131表 即時浸酸成績(初発3日孵化歩合)(蚕種研究室長)(798)
蚕品種 浸漬
時間(分)
新庄 本場 小淵沢 宮崎
T U V W T U V W T U T U
日124号

95
96
97
91
92
93
98
97
95
94
94
95
95
95
95
95
97
95
 
 
 
 
 
 
日126号

86
86
87
91
93
87
93
90
92
91
93
93
95
95
95
94
96
95
96
94
96
 
93
94
94
93
96
95
95
95
95
94
94
90
日502号

 
 
 
 
98
98
97
99
98
97
95
97
97
 
88
98
98
96
96
96
97
97
97
97
96
97
支124号

97
95
97
94
94
95
98
98
98
95
97
95
99
99
99
99
99
99
93
96
98
 
 
 
 
 
支125号

96
96
95
94
96
94
96
93
93
94
94
93
97
97
98
96
96
96
98
96
96
93
93
88
92
95
94
92
96
96
98
98
98
97
97
97
支126号

96
96
96
97
97
97
97
97
97
97
97
98
98
98
98
84
87
87
91
89
91
 
94
96
97
95
96
97
98
98
98
99
98
98
T、U、V、Wは日を違えての試験の繰返えし。交尾、産卵中25℃。卵令
20±1時間(小淵沢のみは20±2時間)で浸酸。塩酸は15℃比重1.075、
液温46℃。毎回、各品種の20/3蛾宛を供試。催青は温度25.0−25.3℃、
湿度81−86%、1日16時間(本場のみは14時間)照明。

 浸漬時間の一般的な標準は
     日本種または日本種に近いもの 5−6分
     支那種 〃  支那種  〃    4−5分
     欧州種 〃  欧州種  〃    6−7分
 交雑種は母体に準ずる。但し、塩酸濃度15%(15℃比重1.075、46℃比重1.064)、液温46℃の場合で、一化性は、二化性よりもやや長目の浸漬をする。液温に0.5℃以上の上下のないように注意する。
 洗落したバラ種は水気を含んでいるので、そのまま浸漬すると塩酸液が稀薄になるばかりでなく、液温も下るから、浸酸用の本液の外に、これと同じ濃度で液温40℃ぐらいの予備液を作っておき、これに数十秒間浸した後、本液に入れるのがよい。
 浸酸刺戟に対して非常に弱い品種がある。日122号が出た当時にこれが問題になって、種々な試験が行なわれた。
 二木(143,144)によれば、日122号は産卵が揃わず、若い卵が混じていて、これが浸酸によって潰れる傾向があり、特に温度が低いと産卵がおくれる。 20℃においては25℃におけるよりも産卵最盛期が5時間ぐらいおくれるから、産卵中の保護温度を25℃に保つこと、20℃保護の場合には浸酸時刻をおくらせることが必要であると云う。
 菅生(880)は、日122号の浸漬時間は、産卵後20−22時間では2分30秒−3分間、24時間では4分30秒がよいとした(15℃比重1.075、46℃)。
 田中・神保(1029)は、浸酸による日122号の潰れ卵は、割愛後0−8時間、8−17時間、および17−22時間の卵を区別して浸酸すると、この順序で産卵のおそいものほど多く、若上げ蚕の卵、小形の卵、小さい蛹の卵および浸酸前冷蔵(5℃)を行なった卵にも多かった。蛹の出血および複眼着色期から触角着色期までの変温保護(午前9時−午後9時を30℃、午後9時−午前9時を18℃)も同じく日122号の浸酸による潰れ卵を多くした。
 日122号については、また産卵後25℃に保護したものは20−25時間目に比重1.069、115゚F(46.1℃)で5−7分間浸漬するのがよいと云う報告(1126)、46℃比重1.075の塩酸液での浸酸は15℃比重のものに劣り、特に若上げ蚕の卵や卵令の若い卵にその影響の大きいこと(1071)、46℃比重と15℃比重との浸酸は胚の初期発育にも差を生ずること(934)、および卵殻の塩酸に対する透過性が大きい(916,937)、などの報告もある。
 早春採りの蚕種は浸酸のむずかしい場合があるが、日122号においてはこの傾向が特に顕著である。屋久島で3月2−5日に掃立てた蚕を用い、4−5令期を硬葉(12月−1月発芽)で飼育した区と軟葉(2月下旬−3月上旬発芽)て飼育した区とに分け、15℃比重1.075と46℃比重1.075との塩酸液による浸酸成績を比較した処、軟葉区の孵化が悪く、塩酸については、早春採りに限らず15℃比重1.075によるのが安全であった(6,12)

  b 浸酸前冷蔵
 浸漬を延期したい場合には、産卵後25℃で20時間目に5℃に冷蔵する。冷蔵可能の期間は最大限1週間で、なるべく短期間にとどめる。冷蔵車から出した後20℃−25℃ぐらいの温度の所に約2時間おいてから浸酸する。冷蔵中に卵が若干着色してくるが差支えない。
 また、産卵直後から15℃で保護しておけば、浸酸適期を産卵後5曰ぐらいまでおくらせることができるから(第122表)、2、3日分の産卵をまとめて浸酸することができると云われているが(1149)、この場合には、上記冷蔵卵とは違い、産卵の翌日の浸酸は不可で、3日以後5日までの間に浸酸する。但し、渡辺の用いた日110号は非常に浸酸し易い品種で、現在の品種に比べると適期の巾が広いから、これをそのまま現行品種に適用することはやや危険である。
 産卵後20時間目の卵には漿膜が未だ完成せず、乾燥に弱いから、冷蔵中の湿度に注意し、75%以下にならないように管理する。

  c 脱酸、乾燥
 浸酸の終った蚕種は直ちに水洗して、外部に付着している塩酸を除く。水温は20℃付近が最もよく、7 2℃以下の水で洗うと白ハゼ卵が出るが(673)、水温15℃−30℃の範囲では孵化に差がないと云う(1140)。苛性ソーダの1−2%液に浸して脱酸する方法もあるが、渡辺(1140)によれば、1%液に12分間以上、2%液に10分間以上浸したものは孵化が悪かった。9分間以下では被害がなかった。これは水温によっても影響があると考えられるが、記載されていない。
 塩酸浸漬時間の不十分な蚕種は、脱酸せずにおいた方が孵化歩合が高かったと云う成績があって(1140)、孵化に関する限りは、脱酸は必らずしも厳格に行なう必要がないようであるが、脱酸不十分なものはその後の取扱い上不都合なばかりでなく、脱酸不十分な蚕種から孵化した蚕には多角体病の発生が多かったと云う報告もあるから(]T2)、舐めてみて酸味を感じなくなるまで水洗する。
 脱水に遠心器を使用する場合の遠心力の影響は、卵令と廻転半径およひ廻転数によって相違があるが、松村ら(513,518)によれば、産卵後24時間の卵は廻転半径15cm、1分間3、000回、30分間ぐらいまでの廻転に耐えると云うから、耐えられる遠心力の限度は約1、500g、30分間と考えられる。遠心力(F)の強さは廻転半径および廻転数によって異なり、次式によって求められる。
       F=s2 r/8,9500 (g)
           rは廻転半径(cm)
           sは1分間の廻転数
 水洗後の乾燥が手間取ると孵化が悪くなる(578,580,732)。しかし、台紙着きの浸酸種を人工温度で乾かす場合に、卵面の濡れている間は28℃−29℃の高温の下でも卵に害はないが、卵面が乾いてから台紙の乾き切るまでをこのような高温下におくと、合紙の生乾きのときに25℃以下の温度に移したものよりも孵化が悪いと云う。これは、卵面の濡れている間は気化熱をとられるために、卵の温度が室温より低いが、卵面が乾くと卵が直接に高温を感じるためであろうとされている。
大櫛ら(732)が乾燥に要する時間が10時間以内ならば、その長短は孵化成績に大きな影響はないと云っているのは、台紙着きのものを1枚ずつにした場合のことで、濡れた台紙を積み重ねたり、濡れたバラ種を堆積しておくと、呼吸障害および蒸れのために被害がある。渡辺(1140)は、12時間ぐらい台紙を湿潤状態に保ち、以後8時間(計20時間)で乾かしたものは実用上差支えない孵化歩合を示したと云っているが、台紙着き蚕種を浸酸後2時間以内に乾かしたものと、6時間以内に乾かしたものとの浸酸後18時間目の胚の発育状態を比較すると後者がおくれていた(933)。胚の発育がおくれると、浸酸後の冷蔵成績に影響するおそれがある([2Cb)。
 水野(578,580)は、水洗後の蚕種(台紙着き)を乾燥室内においた場合と同温度で湿度飽和状態の室においた場合との成績の比較から、乾燥のおくれた場合に孵化が不良なのは、水の蒸発により潜熱を奪われて卵が低温になることよりも、卵面が水に覆われて呼吸障害を来たすことに原因があるものと考えている。
 水洗後、蚕種を長時間水に浸して置くと孵化か悪くなるが、この影響は水温によって相違する。滝沢・久保(1006)によると、水温20℃では1日で孵化歩合が80%ぐらいに低下し、その後4日で孵化歩合は0になったが、水温10℃の場合には9日で80%ぐらいになり、0になるのにはその後7日を要した。

  d 比重1.10の塩酸液による加温浸酸
 加温即時浸酸を15℃比重1.10の塩酸液を用いて行なうと、不受精卵がよく潰れて除去し易く、また塩酸液を冷蔵浸酸用と兼用できて無駄が言けると云う考え方がある(234,482,582-584,833)
 水田が長×光(日本種)および新玉(支那種)について産卵後18時間目、42時間目および66時間目に行なった15℃比重1.10の塩酸液による浸酸試験によれば、18時間目の液温40℃−42℃、5−7分間処理が適当で、孵化歩合は15℃比重1.075、46℃、5分間の浸酸(ただし産卵後18時間目浸酸)に劣らなかった。関(833)によれば、産卵翌日の午前11時に浸酸を行なう場合には100゚F(37 8℃)、6分間、午後4時に行なう場合には105゚F(40.6℃)6分間の浸漬がよかった(支107号)。沓掛(482)は日115号母体および支108号母体の交雑種について試験を行なったが、100゚F(37.8℃)では6−15 分間、110゚F(43.3℃)では6分間の浸漬がよかった。
 これらの方法は実用的には殆ど用いられていない。

 B 常温即時浸酸
 塩酸液の濃度を高め、浸漬時間を長くすれば、液温は低くても浸酸効果をあが得ることは第130表によって明かである。無加温浸酸または室温浸酸と呼ばれている方法はこの原理によるものであるが、温度が低く過ぎると非常に長時間の浸漬が必要であり、従って、温度が不定であると孵化成績も不定であるから、実用上は25℃付近の液温を保つ必要がある。この意味で、無加温あるいは室温と云うよりは、常温浸酸と呼ぶのが適当と考えられる。
 常温法の利点は、加温法に比べて、浸酸適期および有効浸酸時間の巾が広く液温の変動による被害が少ないことである。このため、日122号のように、加温法によって潰れ卵の生じ易い品種もよく孵化する(第132表)(125,447)。不受精卵の潰れもよい。

第132表 日122号の常温即時浸酸(福田・河野)(125)
産卵後の時間
(時間)
総孵化歩合(%) 実用孵化歩合(%)
加温浸酸 常温浸酸 加温浸酸 常温浸酸
 5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
38
55
82
93
92
94
34
 8
 0
 1
93
85
89
94
94
94
91
86
84
77
36
40
61
88
78
72
22
 3
 0
 0
88
81
88
89
78
76
54
59
56
52
加温浸酸は15℃比重1.075、液温46℃、5分。
常温浸酸は15℃比重1.110、液温24℃、80分。
小数点下および誤差省略。

 広部ら(206-208)は、常温法は、塩酸濃度を適当に選べば、産卵後3時間から80時間ぐらいまでの広範囲の卵令に亘って有効であり、日122号の浸酸にも適することを認め、河野・小川(455)は支124号×日124号を用い、産卵の不斉な場合の模型として、卵令10時間の卵10%、15時間の卵30%、20時間の卵50%、25時間の卵10%の割令の混合蚕種に常温浸酸を施し、孵化歩合98.8%、最多2日孵化歩合97.0%を得たと報告している。但し25時令を過ぎると孵化のおくれが目立ってくる(450)
 自然に産んだ卵の場合には、おそく産んだ、卵令の若いものほど卵が小さく(W1Eb)、小形の卵は浸酸刺戟に弱い([1A)。人工的に卵令を混合する場合には、注意しないと、この卵の大小の関係を無視して、卵令だけの混合卵を作り、自然の場合とは著しく異なった材料で試験をするおそれがあるが、宮沢(572)によれは、蛹に大小があって蚕卵に大小を生じた場合にも常温浸酸がよいと云う。
 常温浸酸の標準浸漬時間は第133表の通りである。

第133表 常温浸酸の標準浸漬時間(片倉工業)
  浸酸時間(時間)  
(産卵後の時間)
 液温別浸漬時間(分) 
 24℃  27℃ 29℃
10
15
20
25
  60−70  
60−80
60−100
60−100
  40−70  
60−80
60−80
60−80
  40  
  40−50  
40−50
40−50
産卵中から浸酸までの保護温度24℃。塩酸液は15℃比重1.110(約22%)。

 C 不越年種および即時浸酸種の冷蔵
  a 不越年種

 不越年蚕種を冷蔵した場合に、90%以上の孵化歩合の得られる有効冷蔵日数の限度は第134表の通りとされている。

第134表 不越年蚕種の有効冷蔵期間(水野)(580)
冷蔵時期 有効冷蔵期間(日)
胚の状態 産卵後の時間 −2.5℃   0℃   2.5℃    5℃    7.5℃ 
 丙A* (Stage14)
 丁A (Stage16)
 丁B (Stage17)
−戊A (Stage18)
−戊B (Stage18)
 戊B (Stage19)
 戊C (Stage20)
 己A (Stage21)
 己C (Stage26)
3日目  6時
 〃  12時
 〃  18時
4日目  0時
 〃  6時
 〃 12時
 〃 18時
5日目 0時
9日目 6時
10
10
 5
 5
 5
○**
 5
 5
15
20
20
20
15
10
10
 5
 5
30
30
30
20
20
15
 5
10
10
20
20
30
30
20
15
 5
10
10
 5
10
20
20
15
10
 5
15
15
*丙A類似の時期(Y2Bf)。水野の表にY2Bの発生段階を記入した。日106号。
産卵当日を第1日とし、その20時を基点としているので、3日目6時は産卵後34
時間目に当る。以下これに準ずる。冷蔵前の保護温度は75゚F(23.9℃)。**意味不明。

 但し、今日では不越年蚕種の試験が殆ど行なわれていないので、これが現行蚕品種を不越年にした場合に、そのまま適用できるか否かは不明である。荒木ら(51)も75゚F(23.9℃)、45時間目(第134表の丁Bの時期に該当)に40゚F(4.4℃)に冷蔵するのがよいとしている(期間は夏蚕期30日以内、秋蚕期20日以内)。
 水野は、第134表の発育段階別有効冷蔵期間を連結すれば、越年蚕種の場合と同様に(Z1Dc)、有効冷蔵期間を延長することができるとしている。1例を示せば、
    丙A 2.5℃30 日+丁B 5℃20日=50日
の冷蔵によっても92.6%の孵化歩合を得たと云う。但し、丙Aで2.5℃に30日間冷蔵した後、一旦出庫して75゚F(23.9℃)で12時間保護し、胚を丁Bまで進めたものを5℃に20日間再冷蔵したのである。
 不越年種の冷蔵については、なお[4参照。

  b 加湿即時浸酸種
 加湿即時浸酸種の冷蔵法として普通に用いられるのは、
  1)浸酸後 25℃、40時間目に2.5℃または5℃に冷蔵
  2)浸酸後 25℃、18時間目に2.5℃に冷蔵
する方法である。
 1)の冷蔵時期は、不越年種の冷蔵抵抗力の強い時期(丁B)にほぼ該当するが、即時浸酸種の胚の発育は浸酸の条件およびその後の取扱いによって異なるから、浸酸後の時間だけに頼ることは危険で、種々な条件を考慮する必要がある。三浦(547)は浸酸後75゚F(23.9℃)、約36時間目(6時間以内に風乾したもの)がこの時期に当ると云っている。胚を調べて冷蔵時期の参考にする場合には、付属肢が生じているか否かをみればよいから、越年種の場合よりは簡単で、生体解剖で十分間に合う。
 胚の発育が丁Bを過きている場合には、2.5℃よりも5℃に冷蔵する方がよい。
 実用上の冷蔵期間は20日以内と考えるのが安全である。
 2)の方法は普通にダルマ形期冷蔵と云われているが、真の適期はダルマ形期(Stage5 )ではない。ダルマ形期に冷蔵すると畸形が発生し易く(128)、胚を調べて冷蔵してみると、ダルマ形期を過ぎてからの冷蔵の方が成績がよい(641)
 加温即時浸酸種がダルマ形期になるのは、普通、浸酸後15時間目頃で、浸酸が適当に行なわれ、その後の管理が適正であれば、浸酸後25℃、18時間の胚はダルマ形期を過きて、Stage6 になっている(933)。胚の発育は浸酸およびその後の取扱いの条件によって異なる。冷蔵成績の良否は冷蔵法そのものよりも、冷蔵時期の蚕種の状態によってきまると云ってよい。普通には、浸酸後18時間以内よりも18−20時間で冷蔵するのが安全であろう。
 ダルマ形期直後が即時浸酸種の冷蔵適期であることは、小針・室賀(397)によって提唱されていたが、長野県蚕業試験場における試験成績によって(296,917)注目をひき、昭和32年度の地方蚕業試験場協力試験に取上げられて以来、広く用いられるようになった。
 この協力試験においては、即時浸酸後、25℃、40時間目に2.5℃ (実際には各試験場によって一定せず、2.2℃−5.5℃の間で行なわれた)に冷蔵する区、同じく18時間目(胚子がダルマ形を呈する時期)に2.5℃ (実際には2.2℃−5.5℃)に冷蔵する区、および48時間目に5℃に冷蔵する冷浸区の比較が行なわれた。試験設計に“胚子がダルマ形を呈する時期”と明記されていたために、場所によっては正しいダルマ形期(冷蔵に不適当な時期)にわざわざ冷蔵したかも知れないこと、および冷蔵温度が、場所によっては、5.5℃と云うような高い場合もあったことに問題があるが、日122号×支115号、日124号×支124号およびその他の交雑種を用いての比較の結果として、次ぎのように結論されている。
 孵化歩合 即浸種の40時間目区と18時間目区との間には、冷蔵35日までは差がなかったが、それ以後になると40時間目区が劣った。18時間目区と冷浸区との比較では、冷蔵期間30日以上になると後者が勝った。
 減蚕歩合 冷蔵期間26日以上になると40時間目区が18時間目区に劣り、冷蔵35日になると、その差が明瞭であった。18時間目区と冷浸区との間には差がなかった。
 経過日数 減蚕歩合に差の認められる頃の冷蔵日数になると、40時間目区が長くなる傾向を示したが、18時間目区と冷浸区との間には差がなかった。
 収繭量 冷蔵期間26日以上になると40時間目区が18時間目区に劣り、冷蔵35日以上では18時間目区が冷浸区に劣った。
 全繭重 冷蔵30日以上においては40時間目区が明かに劣り、18時間目区も漸次冷浸区より軽くなった。
 繭層重 冷蔵30日以上では40時間目区が明かに18時間目区に劣り、冷蔵26日以上では18時間目区が冷浸区に劣った。
 繭層歩合 冷蔵40日以上では40時間日区が18時間目区に劣ったが、18時間目区と冷浸区との間には差がなかった。
 以上の結果を通覧すると、冷蔵期間30日以上の場合においては冷蔵浸酸が勝り、20日以上30日までの冷蔵では18時間目冷蔵がよかった。しかし、冷蔵35日ぐらいまでは18時間目区と冷浸区との間に大差はなかった。
 水田ら(588,589)も加湿即時酸種の長期冷蔵試験を行なったが、浸酸後25℃、15−40時間の範囲内で冷蔵する場合には、早期の冷蔵には2.5℃よりも5℃がよく、冷蔵期間10−40日の範囲内において、浸酸が15℃比重1.075、46℃、1−7分間浸漬の場合には、浸漬時間の短かいほど長期間の冷蔵に耐えた。これは、浸酸による不越年化の不十分な卵においては、完全に活性化するまでの期間だけ耐冷蔵期間が延びたためと考えられるが、その代り、このような蚕種は短期間の冷蔵では孵化が悪い。また、この場合には、活性化を補う必要上、冷蔵温度は2.5℃よりも5℃がよく、冷蔵時期も浸酸後20−40時間の範囲内では早い方がよかった。浸酸刺戟が十分な場合には、活性化の問題には関係がなく、活力を維持するのが主体であるから、冷蔵温度は5℃よりも2.5℃がよい。これらの関係は、冷蔵期間を上記より長くしても同様であった。
 堤・清水(1088)は、現行品種(原種)について試験を行ない、即浸後18−20時間目に冷蔵(5 ℃、30日)したものの飼育成績が、40時間目冷蔵のものに比べて明かによいことを報告している。
 しかし、冷蔵成績は蚕品種により、または原種と交雑種とによって著しく相違する(第135、136表)。

第135表 日129号および支129号の即時浸酸冷蔵(蚕種・原蚕種)(801)
試験場所
(蚕期)
冷蔵 試験
番号
浸漬時間
(分)
日129号 支129号
初発蟻まで
の日数(日)
初発3日孵
化歩合(%)
初発蟻まで
の日数(日)
初発3日孵
化歩合(%)
新庄
(春)
無冷蔵



90
91
92


94
94
93




91
92
91


95
94
94
冷蔵
40日




89
88
84


90
90
90




90
90
85


77
80
87
宮崎
(春)
無冷蔵

10
10
10
91
94
91
10
10
10
89
84
86


10
10
10
94
92
92
10
10
10
89
85
86
冷蔵
40日


10
10
10
88
76
67
10
10
10
78
75
74




94
79
60
10
10
10
81
83
77
浸酸:産卵後25℃、20±1時間目、15℃比重1.075,液温46℃。
試験番号1、2は日を違えて行なった。催青日数:無冷蔵区は浸酸後、
冷蔵区は出庫後の日数。冷蔵は浸酸後25℃、20時間で2.5℃。
第136表 日129号×支129号およびその反交の即時浸酸冷蔵(蚕種・原蚕種)(801)
試験場所
(蚕期)
冷蔵 試験
番号
浸漬時間
(分)
日129号×支129号 支129号×日129号
初発蟻まで
の日数(日)
初発3日孵
化歩合(%)
初発蟻まで
の日数(日)
初発3日孵
化歩合(%)
新庄
(春)
無冷蔵



94
95
96


97
96
96




95
95
97


97
98
97
冷蔵
40日




95
95
95


97
96
96




95
95
92


92
94
95
宮崎
(春)
無冷蔵

10
10
10
97
97
94
10
10
10
92
93
93


10
10
10
97
97
97
10
10
10
92
93
94
冷蔵
40日




96
88
74
10
10
10
90
93
90




97
92
84


84
89
91
第135表の脚註参照。

 即時浸酸種の長期冷蔵によって蚕作の不良になった場合を、長野県蚕業取締所(634)の調べた実例によって示すと次ぎの通りである。
 冷蔵20−25日のものに、毛振いをしない蚕があり、眠起不斉で稚蚕期の減蚕が多かったが、不良蚕は3眠までに除去され、蚕作に大きな影響がなかった。冷蔵40日のものでは(支105号×日110号)、4農家合計222gの掃立てに対し、収繭量22貫160匁、対蟻量1g収繭量は99匁で、殆で全滅に等しかった。但し、冷蔵方法などには言及していない。

  c 常温即時浸酸種
 加温即時浸酸においては、高温で処理するため、胚の発育が一時的には無処理の越年種よりも却っておくれる。
 産卵後25℃、20時間目(Stage4 )に加温浸酸を施すと、胚がダルマ形(Stage5 )になるまでに15時間(産卵後35時間)かかるが、無浸酸の越年種は産卵後30時間余りで同じ段階に達する。
 常温浸酸を施した蚕種においては、胚の発育が本来の不越年種におけるよりはおそいが、加温浸酸種のようなおくれはなく、産卵後30時間でダルマ形期に達するから、冷蔵時期を加温法の場合よりも早める必要がある。即ち、加温法においては、産卵後20時間目に浸酸し、その後18−20時間、計38−40時間目が所謂ダルマ形期冷蔵(実際にはダルマ形を過ぎている)の適期であるのに対し、常温法においては、産卵後24℃、15時間日から15℃比重1.110、液温25℃、75分間の浸漬を行ない、その後25℃で保護した場合には、浸酸後18時間45分、産卵後通計35時間目が冷蔵適期であって、蚕品種によって程度は異なるが、産卵後40時間目に冷蔵すると、35時間目の冷蔵よりも成績が劣った(452,453)

3 冷蔵浸酸
 A 冷蔵浸酸の基本問題

 冷蔵浸酸は、蚕種を産卵後2日目前後に5℃に冷蔵し20日以上たってから出庫、浸酸するのが普通の方法であるが、この冷蔵当時の蚕種に浸酸を施こすと孵化は若干不斉であるが孵化能力は十分にある(第122表)。従って、冷蔵浸酸における冷蔵は、越年性になった卵の活性化を進める人工越冬よりも、孵化能力のある蚕卵の冷蔵であるとする考え方がある(775)。人工越冬浸酸法と呼ばずに、冷蔵浸酸法と呼ばれるようになったのはこの理由によるものと思われるが(580)、産卵後2日間も高温に保護し、越年化の進み初めた蚕種を5℃に冷蔵すると、越年化の進行は直ちに停止する訳ではなく、弱い浸酸を施して調べると、寧ろ冷蔵後20日間ぐらいは孵化歩合が次第に低下することがわかる(第137表)。

第137表 常温塩酸による短期冷蔵浸酸(広部・大井ら)(209)
冷蔵期間 浸     酸 総孵化歩合
(%)
最多2日孵化
歩合(%)
16時間 比重1.110、48℃、5分間
比重1.120、常温、1時間
〃   〃   〃  4時間
〃   〃   〃 14時間
 0
87
42
 0
 0
67
38
 0
6日間 比重1.110、48℃、5分間
比重1.120、常温、1時間
〃   〃   〃  4時間
〃   〃   〃 14時間
19
84
80
 9
14
59
66
 8
10日間 比重1.110、48℃、5分間
比重1.120、常温、1時間
〃   〃   〃  4時間
〃   〃   〃 14時間
 5
35
87
70
 4
21
61
51
15日間 比重1.110、48℃、5分間
比重1.120、常温、1時間
〃   〃   〃  4時間
〃   〃   〃 14時間
23
 3
61
76
18
 3
41
60
20日間 比重1.110、48℃、5分間
比重1.120、常温、1時間
〃   〃   〃  4時間
〃   〃   〃 14時間
16
 2
66
84
13
 2
42
60
(日122号×支115号)2。産卵開始後(終りの記載なし)48時間目に
5℃に冷蔵。塩酸比重は15℃で測定。常温の場合の液温は15−18℃。
常温1、2、4、8、14時間の浸漬を行なったうちの一部である。小数点下省略。

 この表の常温1時間浸漬をみると、冷蔵16時間後には87%も孵化したものが、冷蔵6日、10日と次第に孵化歩合の低下を示し、冷蔵20日間では2%に下がっているから、孵化歩合からみる限り、少なくとも冷蔵20日までは越年化の進行が停止していないことが明かである。同様な現象は休眠に伴なうグリコーゲンの減少(X2B)にも認められる。越年性卵を産卵後2日目に5℃に冷蔵すると、高温保護のものに比べてクリコーゲンの減少は明かに低下するが、減少は20日以後まで続き、30日ぐらいで漸く最低値に達する。
 これらのことからみると、第137表において、加温浸酸および常温14時間浸漬のような強い処理を施こすと、冷蔵16時間では殆ど0であった孵化歩合が、冷蔵6日で加温19%、常温14時間9%に上り、冷蔵20日で前者16%、後者84%になっているのは蚕種の活性化によるものではなく、抵抗力の増大によるものと考えなければならない。冷蔵中に蚕種の浸酸抵抗力の増加することは、若上げした日122号の卵が46℃比重1.075の即時浸酸によっては潰れ易いにも拘らす、冷蔵浸酸によっては潰れにくいこと(1072)からも明かである。
 冷蔵浸酸を冷蔵期間の長短によって区別し、冷蔵期間40日未満のものを短期冷蔵浸酸、40日以上のものを普通または長期冷蔵浸酸と呼んでいるのは、一見、極めて便宜的な区別のように思われる。しかし、上記のことから考えると、これは冷蔵浸酸の本質にふれた重要な区別である。
 短期冷蔵浸酸は越年化の進行中、または停止する以前の蚕種の人工孵化であり、長期冷蔵浸酸は不完全人工越冬卵の活性化を浸酸処理によって補なう方法であることを根底として問題を考えて行かなければならない。
 一般に、冷蔵期聞が短かいと活性化処理期間が不十分な訳であるから、冷蔵期間の長い場合に比べて早目(越年化の進まないうち)に冷蔵するのがよいと考えられている。水野(580)はこの点について次ぎのように述べている。
 冷蔵浸酸における冷蔵処理は最も有効な人工越冬を行なうことである。人工越冬としては、保護温度が75゚F(23.9℃)内外の場合には、産卵後3日乃至4日目(産卵当日を第1日とする)に5℃または7.5℃に冷蔵するのがよいが、冷蔵適期は日数ではなく、胚の発育程度によるのであるから、初期発育のおくれる一化性品種の冷蔵適期は4日目早朝を中心とし、二化性品種は3日目夕を中心にするのがよい。従って、冷蔵浸酸にもこの時期の冷蔵が有効な訳である。しかし、冷蔵20日以内の短期冷蔵浸酸においては、上に述べたこととは若干喰違うが、即時浸酸の有効な時期に近付ける意味で、幾分早目に冷蔵する方が成績がよい。
 このような考えに基づいて水野が実際に示している標準は、産卵後の保護温度75゚F(23.9℃)の場合に、
    短期冷蔵浸酸 3日目夕(小豆色)に40−45゚F(4.4℃−7.2℃)
    冷蔵期間40−50日の場合 3日夕乃至4日目早朝(小豆色)に40−45゚F
であって、短期の冷蔵時期を40−50日間冷蔵のものに比べて特別に早めてはおらず、40−50日間冷蔵の場合に適期の巾があと(4日目早朝)へ延びているだけである。
 産卵後の保護温度と冷蔵適期との関係についての渡辺の試験結果は既に述べたが([1A)、渡辺は冷蔵期間と冷蔵適期との関係についても試験を行ない、冷蔵期間の短かい場合ほど適期の巾の狭いことを述べている。即ち、日110号を産卵後、温度25℃、湿度75%で保護し、5℃に冷蔵した場合の適期(47.8℃比重1.10の塩酸液で5分間の浸漬により90%以上の孵化の得られた)の巾は
         冷蔵期間  10日の場合   産卵後  2日−2日半
            〃    15日 〃      〃    2日−3日
            〃    20日 〃      〃    1日半−4日
            〃    30日 〃      〃    1日半−10日
            〃    40日 〃      〃    1日−30日
であった。このように適期の巾が広ければ、冷蔵浸酸には何の苦心もいらないぐらいで、これを現在の蚕品種一般に適用することはできないが、一般的な傾向としては重要な結果であって、長期冷蔵の冷蔵適期が短期冷蔵の適期よりも巾が広いばかりでなく、長期の巾は短期の巾よりも早い方へも拡がっている点で注目される。
 足立(15)の日107号×支101号、日107号×(支4号×支101号)および日107号についての試験成績においても、40、45および50時間目の冷蔵結果を比較すると、冷蔵時期の早いものほど短期冷蔵浸酸の成績が悪い。但し、この場合の浸酸は塩酸濃度20%、液温48℃、5分間浸酸であった。
 このように、短期冷蔵浸酸の冷蔵時期は早目にするのがよいと云う考えと必らずしも一致しない結果の多い原因は何であろうか。
 この点を明かにするためには、冷蔵時期と共に塩酸刺戟の強さをも変化させた試験結果を検討する必要がある、第138表およひ第139表はこの問題に関して興味のある成績である。

第138表 冷蔵期間30日の短期冷蔵浸酸における冷蔵時期、冷蔵温度および塩酸濃度(室賀)(611)
塩酸濃度
(%)
冷蔵時期
(時間目)
 総孵化歩合平均(%)   実用的孵化斉否率(%) 
2.5℃  5℃  7.5℃ 2.5℃  5℃  7.5℃
18 30
40
50
60
66
74
89
87
83
88
87
87
78
77
74
73
89
88
86
81
81
84
86
81
68
66
64
63
20 30
40
50
60
44
61
87
91
82
95
95
94
90
89
92
90
87
88
85
82
88
88
87
86
74
70
71
68
22 30
40
50
60
34
54
84
83
86
95
95
95
93
92
93
90
89
89
88
86
90
90
91
90
82
84
83
83
5品種14例の試験結果の平均。18−20時令の蚕卵を供試。冷蔵までの
保護温度24℃、湿度75%。浸酸は液温48℃、5分間。実用的孵化
斉否率は総孵化数に対する最多2日孵化歩合。誤差省略。
第139表 冷蔵期間40日の冷蔵浸酸における冷蔵時期、冷蔵温度および塩酸濃度(室賀)(611)
塩酸濃度
(%)
冷蔵時期
(時間目)
 総孵化歩合平均(%)   実用的孵化斉否率(%) 
2.5℃  5℃  7.5℃ 2.5℃  5℃  7.5℃
16 35
40
45
50
55
60
63
70
65
50
30
21
83
87
85
84
71
65
86
84
81
72
64
53
59
51
40
33
25
17
41
36
36
39
35
24
28
26
32
34
28
24
18 35
40
45
50
55
60
67
79
86
84
78
67
89
94
93
93
88
78
94
90
87
83
76
66
78
73
69
70
50
40
62
61
66
58
46
29
48
44
49
37
32
25
20 35
40
45
50
55
60
67
85
91
92
90
90
90
95
95
95
92
92
95
92
93
94
89
88
81
82
84
85
68
72
85
77
78
75
59
61
66
63
64
52
44
47
22 35
40
45
50
55
60
76
84
92
92
93
93
91
96
95
96
94
91
96
92
94
95
94
93
83
84
90
94
79
77
90
90
91
93
91
61
79
88
74
85
74
60
2品種4例の試験結果の平均。冷蔵までの保護温度を25℃にした以外は第138表に準ずる。

 室賀(611)はこの結果から、二化性品種の冷蔵浸酸において、産卵後を24℃に保護し、冷蔵日数30日間の場合には、産卵後40−60時間目に5℃に冷蔵し、出庫後塩酸液の濃度22%、液温48℃、浸漬5分の浸酸を行なうのがよく、産卵後25℃保護、冷蔵期間40日の場合には産卵後40−55時間目に5℃に冷蔵し、上と同様の浸酸をするのがよかったと云い、2.5℃に冷蔵すると、孵化歩合は低いが孵化は5℃と同様に斉一なこと、7.5℃冷蔵においては、孵化歩合は低くないが孵化不斉の傾向のあること、また、冷蔵時期のおそいものは早いものに比べて、孵化歩合は高いが孵化比不斉の傾向のあることなどを指摘している。
 冷蔵浸漬の場合に7.5℃冷蔵が5℃冷蔵より劣る理由について、室賀(622)は活性化を促進する温度の順位が7.5℃、5℃、10℃、2.5℃であるにも拘らず(第96表)、冷蔵浸酸においては5℃冷蔵が7.5℃冷蔵に勝っているのは、低温による活性化と塩酸による活性化とが本質的に異なり、低温によって活性化し易くなった卵が必らずしも塩酸刺戟によって活性化し易い卵ではないためであるとしている。塩酸による活性化は主として卵原形質内に存在する抑制質が破壊されるためであり、低温による活性化は卵原形質並びに胚内の抑制質が消費されるためであるから、7.5℃においては5℃におけるよりも消費が多く、残存する抑制質は少ない筈であるが、7.5℃においては同時に胚の発育も進むため、胚内に移行する抑制質量が多く、体内に移行したものは塩酸によっては破壊し難くなると云うのである。
 室賀のこの仮定は現在のところ証明することができないから(X2A)、抑制質の移行その他の問題には触れ得ないが、7.5℃ばかりでなく、5℃においても冷蔵中に胚の発育が進み(15,230)、越年化の進んでいることは前述の通りである。従って、5℃に冷蔵した卵の卵内状態が、7.5℃に冷蔵した卵のものとは全然相違していると云う前提で考えることには無理がある。
 冷蔵30日間の場合(第138表)において注目されるのは、塩酸濃度の如何にかかわらず、2.5℃冷蔵は、冷蔵時期のおそいほど孵化がよいこと、および5℃ならびに7.5℃冷蔵とは違い、塩酸濃度を高めても孵化歩合が目立ってよくならず、22%の場合には却って孵化歩合の幾分低下するようにさえみえることである、これは抑制質の破壊だけによっては説明が困難で、室賀は孵化しなかった卵の状態を記載していないが、第137表の場合と同様に、浸酸に対する抵抗力と塩酸刺戟の効果との釣合ったときの孵化歩合が最も高いことを示しているものに外ならないと思われる。
 7.5℃冷蔵においては、冷蔵中の抵抗力の増加も越年化の進み方も2.5℃に比べて速いから、この釣合いは、2.5℃の場合に比べて、冷蔵時期の早い、塩酸刺戟の強い条件の下で成立する筈であるが、実際に、孵化歩合の高いのはこのような条件のときである。
 これに対して5℃冷蔵においては、これら両極端の中間に当る比較的範囲の広い条件の下で釣合いが成立するために、孵化が最もよかったと考えられるのである。
 2.5℃冷蔵において、孵比歩合は低いが孵化が斉一なのは、5℃または7.5℃に比べて抵抗力の増加はおそいが、越年化の進行が抑えられていることを示すものであろう。
 このような考え方で冷蔵40日の場合(第139表)をみると、冷蔵30日の場合とは材料が相違すること、産卵後の保護温度が1℃高かったこと、不越年化が進んでいる筈であること、浸酸抵抗力が増加して、2.5℃冷蔵のものの孵化の様相が30日間冷蔵の場合の5℃冷蔵に近付いたことなどの相違点があって、上と同一には論じ得ないか、塩酸濃度の特別に低くかった16%の場合を除けば、2.5℃冷蔵には冷蔵時期の早いものに孵化の悪い傾向が残っており、7.5℃冷蔵には冷蔵の早いものの孵化歩合が高く、5℃冷蔵はこれらの中間で、釣合いの成立する条件の範囲の広いことには変りがない。
 冷蔵期間が40日になると、2.5℃においても、塩酸度度20%以下では55時間目以後の冷蔵の孵化が悪いこと、30日冷蔵に比べて孵化の不斉なことなどをみると、2.5℃においてもまた浸酸抵抗力の増加と共に越年化の若干進むことがうかがわれ、2.5℃、5 ℃、 7.5℃の冷蔵効果の間に、室賀の考えているような本質的な違いはないもののように思われる。
 大櫛ら(734)は、産卵後27℃、40時間目に4.5℃に冷蔵すると、10−40日間の冷蔵浸酸によって90%以上の孵化歩合を得たと云っているが、10日間冷蔵のものは塩酸濃度20%、115゚F(46.1℃)、7−10分間浸漬であるから、液温を下げて釣合いをはかっていることがわかる。
 仲野(657)は冷蔵期間15、20、25、30日の冷蔵浸酸を試験したが、その結果は浸酸抵抗力と塩酸刺戟の効果との釣合いが大切で、単に冷蔵時期を早めるとか塩酸刺戟を強めるだけでは短期冷蔵浸酸の孵化成績が改善されないことをよく示している。例えば冷蔵15日の場合、産卵後の保護温度20℃のときには、冷蔵温度が2.5℃ならば産卵後48−60時間目、5℃および7.5℃ならば36時間目にそれぞれ冷蔵し、保護温度24℃のときには、2.5℃および5℃ならば48時間目、7.5℃からは24時間目に冷蔵するのが最もよかった。塩酸刺戟(比重1.10、48℃)も弱めて、出庫後5時間目に3分間浸漬するのがよかった。
 この仲野の2.5℃、15日間冷蔵の場合は即浸前冷蔵の変形とも考えるべきものである、冷蔵期間が短かく、活性化の余俗のない場合には、活性化の促進よりも越年化の進行を抑えることに重点をおく方法も考えられるのであって、前記の大和田(775)の考えはこの意味の冷蔵浸酸である。
 一般に、冷蔵浸酸の冷蔵適期は卵色が小豆色の時期であるといわれている。これは三浦の研究結果によるのてあるが、三浦(547)は無条件に小豆色の時期がよいといっているのではない。日107号を産卵後76.5゚F (24.7℃)に保護した場合の卵色および、これを40゚F(4.4℃)に冷蔵したときの耐久力は
     産卵当時             黄色    3日−2週間
     産卵後32時間内外       淡赤色  1カ月内外
       〃 40  〃         赤色   2カ月以上
       〃 48  〃         小豆色    ┐
       〃 56  〃         殆ど固有色  ├数ヶ月間
       〃 80  〃         固有色    ┘
で、これを浸酸すると、黄色および淡赤色で冷蔵したものは、方法がよければ殆ど全部一斉に孵化させることができるが(1日に約80%)、赤色期に冷蔵すると孵比がやや不斉で、出盛りが2日に亘り、小豆色冷蔵では更に不斉であった。しかし、冷蔵期間が30−40日になると小豆色冷蔵でも出盛りを2日以内に短縮することができる。従って、短期冷蔵(10日以内)のものは冷蔵を早目にするのがよいが、これに対する浸酸は、塩酸濃度は同じ15℃比重1.10でも、冷蔵20日以内のものには液温を低くし、浸漬時間を長くしている。卵色小豆色のときに40℃に冷蔵し、出庫後3時間以内に15℃比重1.10の塩酸液を用いて浸酸する場合の標準は

無冷蔵(小豆色) 110゚F(43.2℃)、10−12分、または
115゚F(46.1℃)、6分
冷蔵10日(出庫当時の卵色は小豆色よりやや濃色) 115゚F、10分、または
117゚F(47.2℃)、5分
冷蔵20日(固有色に近い) 115゚F、8分、または117゚F、4−5分
冷蔵30日(固有色や、色素やや点集するものあり) 118゚F(47.8℃)、4−5分
冷蔵40日 118゚F、5分
冷蔵50−60日(固有色、色素の点集漸次大となる) 118゚F、6分

であって、極く短期の冷蔵浸酸の場合に、仲野が、液温を変えずに、出庫後の時間を長くし、浸漬時間を短かくして釣合いを求めたのに対し、三浦は液温を下げ、浸酸時間を長くして、一見相反するようではあるが、矢張り釣合いの条件を求めているのである。三浦の考え方は、常温浸酸によって即時浸酸の潰れ卵を少なくすると同じ発想である。
 短期冷蔵については、孵化しにくい卵であるから十分強い浸酸処理が必要であるという意見と、ゆるく柔かに処理するのがよいという意見とがあって、相反する考え方のように思われがちであるが、これは釣合いの条件を何処に求めるかという方法の違いに過ぎないのであるから、形だけにとらわれることなく、その根本に共通する考え方を理解する必要がある。なお、室賀が第138、139表の試験に用いた22%の塩酸液は、47.8℃比重1.10の塩酸液と殆ど等しいか、むしろ低目の濃度であって、特別に強い塩酸刺戟を与えている訳ではない。
 このように考えてくると、冷蔵後、なお越年化の進行している期間内における冷蔵浸酸(短期冷蔵浸酸)は、現在の処、積極的に不越年化を図る手段がないために、越年化を進めず、卵を潰さないという消極的な枠の中で釣合いを求めているのに過ぎないから、その成績は蚕種の生理状態によって殆ど決定されてしまう。冷蔵適期、冷蔵適温、有効浸漬時間なとの巾の狭いのはこのためである。
 鎌倉(303)は、産卵後36−40時間目に−10℃〜−17℃に48時間接触(第一次冷蔵)させた後、7℃に冷蔵(第二次冷蔵)すると、第一次、第二次合計20日以内の冷蔵の場合においても、従来の冷蔵浸酸法に比べて孵化がよいと報告しているが、従来の方法として用いたのは、産卵後48時間より早い時期に5℃に冷蔵し、比重1.100、液温48℃、5分間の浸酸であり、新らしい方法では、同じ時期から冷蔵したものに比重1.126、液温28℃、90分間の浸酸を施こしているのであって、後者は常温浸酸に近い処理であるから、従来の方法に潰れ卵が多く、新らしい方法より劣るのは当然で、これまで述べてきた釣合いの考え方からみれば、対照の取り方が適当でないように思われる。
 しかし、この方法による成績には注目される点が一つある。第二次冷蔵を7℃にすると5℃よりも孵化成績のよいのは、発育が進んで抵抗力が増大するためと考えられないこともないが、総孵化歩合ばかりでなく、最多2日孵化歩合も7℃冷蔵において高いのをみると、第138表の成績と比べて、あるいは第一次冷蔵には越年化を不越年化の方向に転換させるか、または越年化の進行を停止させる作用があり、このために第二次冷蔵を7℃にしても孵化が不斉にならないのではないかということである。この点を論議する証拠は示されていないが、後に述べること([5A)とも関連して興味がある。なお鎌倉は、第二次冷蔵を長くすれば、短期冷蔵をそのまま、長期冷蔵に切り換えることができるといい、第二次冷蔵を7℃のまま63日間続けた例を示しているが、これを一般の品種にも適用し得るか否かについては検討の余地があるように思われる。
 室賀(619)は、先きに述べた仮定から出発して、抑制質の胚子体内への移行を妨げれば冷蔵浸酸種の孵化成績がよくなるであろうと考え、産卵後25℃、48時間目に、水のしたたらない程度に濡らした蚕種をシャーレに満たし、その中央に試験用の蚕種を入れて蓋をした(濡卵)区、乾いた卵をシャーレに満たし、その中央に試験用蚕種を入れて蓋をした(乾卵)区、およびシャーレに入れたのみで蓋をしなかった対照区とを5℃に冷蔵し、20−40日間冷蔵した後に濃度22%、液温48℃、5分間の浸酸を施こし、孵化を比較した。それによると、濡卵区の孵化が最もよく、乾卵区がこれに次ぎ、対照区の成績はこれらに比べて明かに劣っていた。室賀はこの結果を、冷蔵中の呼吸障害によって、抑制質の胚子体内への移行が妨けられた結果、濡卵区の成績がよくなったものと考えている。但し、冷蔵中の湿度の影響でなかったか否かの吟味がないのて、未だ確実な結果とは云われない。
 短期冷蔵浸酸種を、出庫、浸酸後25℃ に保護し、6−36時間目の間に35℃(湿度60−70%)に12−30時間接触させると孵化が斉一になると云われているが(476)、実用的な効果は得られなかったと云う報告もある(770,771)。但し、浸酸によって被害を受けた卵が高温接触によって回復する訳ではないから、効果の有無はこの点を考慮して判定しなければならない。この高温接触は蚕作に悪影響があると云われている。
 冷蔵中の蚕種が浸酸によって十分孵化し得るようになったか否かを判定する方法として、足立(15)は漿膜に現われる黒点を目標にし、これが明瞭になったときに浸酸すれば孵化成績がよいと云っている。安喰(24)は漿膜色素粒の状態によって
  1)色素粒発現期 微細色素粒が均一に現われた時期
  2)色素粒成長期 色素粒が1)より成長し、2〜3粒宛集合して大きさを増す時期(色素粒に大小の生じたときを前期、色素粒に大小が相半ばするときを中期、色素粒に大が多く、小が少ないときを後期とする)
  3)色素粒凝集期 色素粒が2)よりも集合し、肉眼で観察される時期(前、中、後期に分ける)
の3時期を区別し、浸酸成績は成長期中期以後がよいとした。昭白、新光および昭白×新光を産卵後75゚F(23.9℃)、48時間目に5℃に冷蔵した場合には、冷蔵20−22日で発現期、28−29日で成長期、35−37日で凝集期になったと云う。
 これらの方法が取上げている形態変化は、上に述べた蚕卵の浸酸抵抗力の指標であるのか、越年化の停止または不越年化への転換を意味するのかが不明であり、また形態的特徴そのものの発現条件も十分明かにされていないので、低温下における卵の発育に件なう平行現象であるのか、原因に結び付いた意味があるのかは不明であって、その普遍性も明かでない。
 冷蔵した蚕種において、何日ぐらいで越年化の停止または不越年化への転換が起るかは、短期冷蔵浸酸と長期冷蔵浸酸との取扱い上重要な問題である。人工越冬の成績によると、産卵後48時間目に5℃に冷蔵した蚕種を、出庫後そのまま催青すると、品種にもよるが、冷蔵20日では殆ど孵化機能が認められず、30日では明かに孵化機能が現われている([6)。
 グリコーゲンの減少の停止時期については先に述べたが、核分裂の消長も注目される。日124号6蛾、および支124号8蛾、の卵を産卵後25℃、40−50時間目に5℃に冷蔵して調べた結果によると(386)、25℃において前休眠期の細胞核分裂の終息するまでには3日かかるから、冷蔵当時には未だ分裂が行なわれている。冷蔵5日後からときどき出庫して、毎回1蛾につき10粒宛の卵を調べてみると、初めの間は、出庫後2時間では核分裂が認められるが、24時間後には認められなくなる状態が続いた。これは、冷蔵によって抑えられていた前休眠期核分裂の残りが出庫後1日以内に終了して、卵が休眠に入ることを示している。処が、支124号においては冷蔵15日、日124号においては冷蔵30日以後になると、この状態が変って、出庫後1日以上たっても核分裂が認められるようになる。これは、これらの卵が既に完全な越年性卵ではなくなり、後休眠期核分裂を開始したことを示している。但し、後休眠期核分裂が始まったとは云っても、完全な孵化機能を得た意味でないことは越年卵の活性化初期と同様である(Y2Bb)。
 冷蔵中の蚕種の炭酸ガス排出量(25℃に24時間おいてから測定)を測定すると、最低値に達するのは冷蔵後20−30日目頃で、その後増加の傾向を現わす(872)
 これらの結果は越年性の転換が冷蔵後20−30日目頃に起こることを示しているが、冷蔵浸酸成績の安定し初めるのもこの頃である。
 冷蔵浸酸の予定を中止して、蚕種を越年用に転用し得るのは冷蔵20日頃までであると云われているのも(523,580)、転換期が普通には20日以後であることを物語っているが、支124号のような品種ではこれより早いと考えられるから、注意しなければならない。

 B 冷蔵浸酸の施行標準
  a 冷蔵期間40日以上の場合

 蚕種を、産卵後25℃に保護し、48−50時間目に5℃に冷蔵する。但し、産卵後の時間を20時を基点に数え、それ以前の産卵を用いる場合にはこれより、3時間ぐらい早目に冷蔵するのがよい。冷蔵期間50日以上を予定している場合には20時基点のままで差支えない。産卵中および産卵後の保護温度が違うと産卵後の時間だけでは冷蔵時期がきめられないから、積算温度によって取扱いをするのがよいと云う考えもあるが、保護温度が違えば冷蔵適期までの積算値も相違するので、その値だけに頼る訳には行かない。保護温度を一定にすることが総ての場合に大切である。積算温度は蚕品種によっても幾分異なる(1038a)。日欧固定種母体の蚕種を45日以上冷蔵する場合に、冷蔵時期が早過ぎると孵化はよいが蚕は弱いと云う報告があるが(360)、一般の品種においても、冷蔵期間60日以上の予定のものは、冷蔵時期を産卵後50−60時間におくらせる。冷蔵温度も、期間が40日以上になる場合には40日で2.5℃に下げる。
 保護温度が30℃以上になっているような場合には、中間温度(15℃)に約2時間おいてから冷蔵するのが安全であるが、25℃に保護中のものは直接5℃に冷蔵しても、実用上、害はない。
 冷蔵車の湿度は75−80%を目標とし、これ以下に下らないようにする。湿度の高い方が孵化がよい。
 浸酸は、出庫後20−25℃の中間温度に2時間ぐらいおいてから行なう。塩酸は15℃比重1.10(約20%)、液温48℃ とし、もし48℃で比重を調整する場合には1.085とする。但し古い塩酸を混ぜない場合である([1Bc)。48℃比重1.10で浸酸を行なうことも多いが、この場合にもし潰れ卵が出るようであれば、濃度が高過ぎるのである。
 浸漬時間は品種や冷蔵期間によっても異なるが、一般的に云えば
    1化性品種   6−8分
    2化性品種   5−7分
で、交雑種の浸漬時間は両親の中間でよいが、産卵後の時間がたっているために、即時浸酸種の場合よりは父の影響のかなり強く出ることがある。
 現行品種についての実例を第140、141表に示す。冷蔵30日と40日との間で急に孵化歩合の上昇していることが認められる。

第140表 日129号および支129号の冷蔵浸酸成績(蚕種・原蚕種)(801)
試験場所
(蚕期)
冷蔵
日数
(日)
試験
番号
浸漬
時間
(分)
日129号 支129号
初発蟻ま
での日数
(日)
初発3日
孵化歩合
(%)
初発5日
孵化歩合
(%)
初発蟻ま
での日数
(日)
初発3日
孵化歩合
(%)
初発5日
孵化歩合
(%)
新庄
(春)
30

10
10
10
93
92
94
94
93
95
11
11
11
88
92
92
93
93
93


10
10
10
97
98
95
97
98
95
11
11
11
87
86
80
89
88
83
40

10
10
10
93
93
95
94
94
95
10
10
10
78
85
96
95
94
97


10
10
10
96
95
96
96
96
96
11
11
11
91
94
89
92
95
90
宮崎
(春)
30

11
11
11
95
96
96
97
97
97
12
12
12
65
73
71
79
83
80


11
11
11
95
96
97
98
98
98
12
12
12
57
63
69
70
74
78
40

11
11
11
94
97
97
97
98
97
12
12
12
86
88
87
91
92
91


11
11
11
95
97
97
97
98
98
12
12
12
88
90
90
93
94
93
産卵後25℃、48±1時間で5℃に冷蔵。浸酸は15℃比重1.10、液温48℃。
試験番号1、2は日を違えて行なった。
第141表 日129号×支129号およびその反交の冷蔵浸酸成績(蚕種・原蚕種)(801)
試験場所
(蚕期)
冷蔵
日数
(日)
試験
番号
浸漬
時間
(分)
日129号×支129号 支129号×日129号
初発蟻ま
での日数
(日)
初発3日
孵化歩合
(%)
初発5日
孵化歩合
(%)
初発蟻ま
での日数
(日)
初発3日
孵化歩合
(%)
初発5日
孵化歩合
(%)
新庄
(春)
30

10
10
10
98
97
96
98
98
96
10
10
10
97
98
97
98
98
98


10
10
10
98
99
98
98
99
98
10
10
10
96
93
81
98
94
83
40

10
10
10
96
97
97
97
97
98
10
10
10
98
98
98
99
98
99


10
10
10
98
98
98
98
98
98
10
10
10
97
92
79
97
93
79
宮崎
(春)
30

11
11
11
94
95
95
96
95
95
12
12
12
87
88
89
94
94
94


11
11
11
96
97
97
98
98
98
12
12
12
75
79
79
89
89
88
40

11
11
11
96
95
96
97
96
96
12
12
12
97
95
95
97
98
97


11
11
11
96
98
97
97
98
97
12
12
12
94
95
93
96
96
95
第140表の脚註参照。

 鎌倉(302)は、冷蔵期間45日以上の場合には、比重1.126または1.128の常温浸酸も実用性があると云っている。
 上蔟後、産卵中および産卵後の温度に注意すること、集中産卵を図って卵令の巾を小さくすることなどは即時浸酸の場合以上に大切である。

  b 冷蔵期間40日未満の場合
 短期冷蔵浸酸の基本的な問題については既に詳述したが、それによってみても、また即時浸酸種の冷蔵成績から考えても、蚕種そのものだけを考えれば、冷蔵20日以内は即時浸酸冷蔵種を用いるのがよい。更に、第140、141表と第135、136表とを比較すれば、少なくとも冷蔵25日、品種によっては冷蔵30日でも即時浸酸冷蔵種の用いられることがわかる。しかし、即浸冷蔵種は、使用期限を25日から30日まで延長できたとしても、その先きがないのであるから、30日以後に孵化歩合が急に向上する冷蔵浸酸種との何れに比重をおくかは、技術面からばかりではなく、経営上の問題として考えなければならない。ここでは冷蔵25日以上の場合を対象にして述べる。
 冷蔵期間30−40日の場合には、産卵後25℃、48時間目(20時を基点としてそれ以前の産卵を用いる場合には約3時間早める)を目標にして、蚕種を5℃に冷蔵する。冷蔵中の温度管理に注意する。適当な塩酸濃度の巾も狭いから、古い塩酸を混ぜない方が成績にむらがない。その他は冷蔵期間40日以上の場合に準ずる。
 冷蔵期間25日以上30日未満の場合には、液温を47℃、浸漬時間8−9分とし、その他の条件は上に準じ、孵化の斉否および卵の潰れ具合によって浸漬時間を加減するのが安全であろう。
 大西(762)は、冷蔵期間30日で支115号×日122号を塩酸濃度20%(15℃比重1.10)、液温45℃で浸酸する場合には、産卵後24℃、35−50時間目または22℃、45−60時間目に5℃に冷蔵し、浸漬時間11分が最もよく、これ以下の浸漬時間では孵化歩合が低下し、また産卵後の保護温度が26℃の場合には、上記に比べて常に成績が悪かったと云っている。保護温度が高いと冷蔵適期の巾が狭いためであろう。冷蔵期間の極端に短かい場合には、出庫後浸酸までの時間を長くする方がよいと云う成績もあるが、冷蔵30日では寧ろ早く浸酸する方がよかった(761)
 短期冷蔵浸酸においては、蚕品種による浸漬成績の相違が長期冷蔵浸酸の場合よりも明瞭である(第140、141表)。
 短期冷蔵浸酸がむずかしいと云われている豊年×研白についての、蚕糸試験場新庄原蚕種製造所と山形県蚕業試験場との協力試験成績があるが、それによると、産卵後25℃、36時間目および48時間目(18時基点)に5℃に冷蔵し、30日で出庫、2時間後に15℃比重1.10、液温48℃の浸酸を行なった処、新庄と山形とで反対の傾向を示すような結果が得られている(第142表)。

第142表 豊年×研白の短期冷蔵浸酸成績(大宮)(742)
母体別 冷蔵時期
(時間目)
浸漬時間
(分)
新庄 山形
初発3日
孵化歩合
(%)
初発5日
孵化歩合
(%)
初発3日
孵化歩合
(%)
初発5日
孵化歩合
(%)
日 母 36

55
79
78
93
95
92
96
95
83
97
95
84
48

65
75
74
96
93
92
94
92
88
98
95
89
支 母 36

31
53
55
95
98
95
81
95
94
99
98
96
48

28
36
34
97
96
95
87
83
88
96
98
99
本文参照

 即ち、新庄の初発3日孵化歩合をみると、浸漬時間9分ではやや落ちるようであるが、浸漬5分の孵化歩合が最も低い。冷蔵時期36時間と48時間とを比較すると48時間が劣る。これらの傾向は支母体に特に顕著である。また初発5日孵化歩合は何れも90%以上を示しているのであるから、初発3日孵化歩合の悪いのは蚕種の越年化が進んでいたか、浸酸刺戟が不足であったかのように思われる。
 これに対して山形においては、初発3日孵化歩合の傾向が日母体と支母体とで相違し、日母体では浸漬5分の孵化が最もよく、浸酸時間の長いほど孵化歩合が低下している。冷蔵時期36時間と48時間との間にも、初発3日と5日との間にも孵化歩合の差が少ないから、新庄におけるような、越年化の進行や浸酸刺戟の不足を思わせるような傾向はない。支母体の初発3日孵化歩合はやや劣っているが、浸漬時間の長短による差も、初発3日と5日との差も共に新庄に比べて著しく小さい。
 新庄と山形とにおけるこれらの違いは冷蔵浸酸の成績を検討する上で重要な問題を含んでいるが、その分析は行なわれていない。
 新庄および山形の成績を通じ、36時間目冷蔵のものの浸酸抵抗性が48時間目冷蔵のものに劣らないことも注目される。これからみると、初発3日孵化歩合の悪かったのは、あるいは浸酸感受性の低いためではないかとも考えられるが、この点も究明されていない。

 C 冷蔵浸酸種の再冷蔵
 冷蔵浸酸種を冷蔵する必要のある場合には。浸酸後25℃で12時間頃か、または48時間以上たったものを中間温度(15℃)に6時間ぐらいおいてから行なう。浸酸後12時間以後48時間まで、特に24−48時間の間に冷蔵すると白ハゼ卵が発生し易い(473,673,729,1150)。他所で浸酸して送られてきた冷蔵浸酸種は、浸酸日を確かめた上で、危険時期を避け、中間温度を径て冷蔵する注意が必要である。
 この白ハゼ卵は温度の激変の影響で起こるものであるから、上記危険時期の蚕種でも、15℃に18時間ぐらいおいてから冷蔵すると被害が軽減する。冷蔵温度としては、2.5℃の方が蚕種は長持ちするが(胚の時期によって異なる)、白ハゼ卵の出る危険は多い。冷蔵浸酸種は、普通には、長期冷蔵の必要はないのであるから、5℃に冷蔵する方が安全である。白ハゼ卵の発生を防ぐためには、冷蔵前後の温度差を12.5℃以内にする必要があると云われているから、15℃の中間温度を通したものでも、2.5℃に冷蔵するとこの温度差の限度になる。
 白ハゼ卵は短期冷蔵浸酸種まりも長期冷蔵浸酸種の再冷蔵によって発生し易い。沓掛・黒岩(478)は、冷蔵によって白ハゼ卵の出易いのは、漿膜細胞のカタラーゼ作用が盛んになりつつあるか、または盛んな時期に当ると云っており、生理的なある転換期の卵に起り易いものと思われる。
 白ハゼ卵(白死卵)と云うのは、漿膜が破れて一部に集合してしまい、卵の内容が外部から白くみえる卵の総称であるから、原因の異なるものが多く含まれている。冷蔵浸酸においては、浸酸そのものによっても白死卵の生ずることがあり(657,658)、これは出庫後、中間温度(20−25℃)を経過せずに、直ちに浸酸した場合に多い。冷蔵浸酸種の再冷蔵による白ハゼ卵については、上記のほかにも多くの研究がある(680,1061,1062,1093,1094,1098,1099,1105,1120,1121)
 冷蔵浸酸種の再冷蔵は、実用上、長期間の必要はないのであるが、10日間の冷蔵によっても、5日間に比べて孵化歩合が悪かったと云う報告がある(690)。しかし、これは浸酸後再冷蔵までの時間が長いほと差が顕著になるのであって、12時間以内の冷蔵では差がない。
 功刀(458)は、産卵後25℃、48時間目に5℃に冷蔵し、35日で出庫、浸酸(比重.10、液温47.8℃、5分)した後、なるべく早く乾かし、乾き次第5℃に再冷蔵(中間温度を通さず)しておけば、その後35日間に亘り、必要に応じて出庫、催青することができ、この間に孵化歩合が低下することはないと報告した。
 これは地方蚕業試験場協力試験(73)、その他(797)で取上げられ、催青時に出庫、浸酸した冷蔵浸酸種に比べて孵化歩合に大差なく、稚蚕減蚕の僅かに多いことはあったが、壮蚕の減蚕歩合および繭質には差のないことが認められた。角田・西垣(882)も類似の試験を行なっている。

 D 浸酸奏効の判定
 浸酸後1日たつと、浸酸の効いた蚕種は無浸酸のものに比べて水引きが深く、即時浸酸種では卵色も幾分淡くみえる。水引きの強過ぎるのは浸酸刺戟の強過ぎた卵で、孵化がおくれたり、死卵になったりする。
 三浦(547)は即時浸酸種について次ぎのように述べている。但し、浸酸後の保護温度75゚F(23.9℃)内外の場合である。
  刺戟弱く、浸酸の効かなかった卵
     12時間後 卵色 黄、卵面膨隆す
     24 〃    〃  褐、  〃
  刺戟適度で、浸酸の効いた卵
     12時間後 卵色 黄、卵面水平に近い
     24 〃    〃  淡褐、卵面水平または中央僅かに低い
  刺戟過度の卵
     12時間後 卵色 黄、卵面僅かに水引きを生ず(殆どが死卵になる)
     24 〃   卵面に水引きを生ず(殆どが死卵になる)
 卵黄細胞の脂肪性顆粒の分散状態によってもわかるが(839,926)、実用的で確実なのは、浸酸後25℃に保護し、即浸種はまる2日後、冷浸種はまる3日後に解剖して、胚に付属肢が発生しているか否かを調べる方法である。付属肢の有無をみるだけであるから、生体解剖で十分である(第155、156表)。
 盛次(593,594)は、卵汁のpHの変化によって浸酸の奏効が早期に判定できると発表した。無浸酸の蚕種のpHは6.4−6.6であるが、浸酸を施すとこれが一旦6.2ぐらいまで下かった後、再びもとの値に回復する。早く低下して早く回復する蚕種ほど孵化歩合がよいと云う。例えば、日7号×支106号を用い、産卵後80゚F(26.7℃)、20時間目に、塩酸液の比重を違えて、液温115゚F(46.1℃)、5分間の浸酸を施した場合のpHと孵化歩合とは第143表の通りである。

第143表 即時浸酸卵におけるpHの変化と孵化歩合(盛次)(594)
塩酸比重 浸酸後のpH 孵化歩合(%)
3時間後 12時間後 22時間後 42時間後 総孵化歩合 最多2日孵化歩合
無浸酸
1.060
1.070
1.075
1.085
1.100
1.115
1.130
6.4
6.4
6.2
6.2
6.2
6.0
5.4
4.6
6.4
6.2
6.2
6.2
6.2
6.0
5.2
4.2
6.4
6.2
6.4
6.4
6.3
6.2
5.6
4.2
6.4
6.4
6.4
6.4
6.4
6.2
5.2
4.0
 0
91
97
99
96
60
 0
 0
 0
74
92
97
89
54
 0
 0
本文参照。歩合の小数点下省略。

 方法は卵0.5gに対し0.5ccの蒸溜水を添加し、乳鉢で磨砕し、直ちに試験紙を浸してpHを測定する。脱酸を完全にしておかなければならない。冷蔵浸酸の場合にも適用できると云う。永井(625)、浜(148)も浸酸後のpHの変化を報告している。
 河合(348)は即時浸酸後の酸化還元電位の変化をみているが、浸酸奏効の判定には結び付けていない。
 戸谷・早坂(1070)はニンヒドリン、ミロン試薬、ネスラー試薬、デラフィールド・ヘマトキシリンなどによる卵殻の呈色が浸酸卵と無浸酸卵とで相違することを認めたが、現在の処では、浸酸の強弱までは判別できず、浸酸奏効の判定にも用いられない。

4 浸酸および浸酸後の冷蔵による蚕種の障害
 蚕種の浸酸および冷蔵によって畸形蚕の生ずることは古くから知られており、これには遺伝的な性質に基ずくものと、高温、低温または塩酸刺戟の影響による単なる発生の異常とがある。福田・河野は後者について多くの研究を発表している(119,121,122,124,126,128,448-450)。それによると、胚発生上、異常温度によって畸形の生じ易い四つの時期がある。不越年性卵を0℃に5日または20日間冷蔵し、幼虫および卵内幼虫(青み卵になって孵化し得ないでいる胚)の畸形率を調べた結果について云えば、これらの4期は次ぎの通りである(産卵後の保護温度24℃)。
    第1期  7時令を中心とする時期
    第2期  20時令    〃
    第3期  50時令    〃
    第4期 100時令    〃
 第1期は分裂核の分裂期(Stage2に当る)、第2期は小判形期(Stage4)からダルマ形期(Stage5)に至る間、第3期は胸肢突起が明かに認められ、腹肢突起の生じ初める頃(Stage17)、第4期は反転直前から反転後半に至る背面形成中の時期(Stage21)であるが、生じる畸形の種類が各々の時期によって異なっている。
 第1期の冷蔵によって生じるのは、体節の不整、捻転、背面または腹面の融合、胸肢または腹肢の位置あるいは数の異常、尾角の数や位置の異常、瘤状突起の形成、体の1部の欠損など、不規則な畸形である。第2期に生ずるものは体節の前後融合による体節数の減少が特徴で、これに第1期の処理でみられるような畸形が混じている。第3期のものは左右の胸肢や腹肢が服面中央で各節ごとに接近あるいは合体する。第4期の畸形は背面の融合が特徴である。
 41℃の高温に5時間接触させても上と同じ4期に畸形率が高い。
 越年性卵を冷蔵した後、高温に戻して休眠させ、翌春孵化したものを調べ、あるいは冷蔵後に浸酸を施して孵化させてみると、第2期が30時令、第3期が60時令にずれている。また20時令で加温浸酸あるいは常温浸酸を施した卵においては、加温浸酸区は30−36時令、常温浸酸区は30時令が第2期に当り、胚を調べてみても、加温区では30時令が小判形、36時令がダルマ形てあり、常温区では30時令がダルマ形であった。
 即ち、即時浸酸種の冷蔵適期は、畸形発生の面だけからみても、単なる卵令や浸酸後の時間だけによっては決定できないことがわかる。適期は胚の発生段階によってきまるのであるから、加温浸酸と常温浸酸との違いばかりではなく、浸酸の強さ、時期、浸酸後の取扱いによって冷蔵結果の相違することは当然であろう。
 大村(754)の報告した畸形蚕は無処理の越年種を掃立てても発現する遺伝性畸形であるが、即時浸酸によって特に発現率が増大すると云うから、福田らの第2期頃の感受性が高いものと思われる。
 梅谷(1108,1110)も浸酸によって畸形の発現する系統について報告しているが、産卵後20時間目(ダルマ形直前)の浸酸によって最も多く発現し、35時間(ダルマ形期)までが発現期である。浸酸後直ちに25℃で催青したものに比べ、15℃に1日または30℃−35℃に1日おいてから25℃に移したものには発現が少ないと云う。
 その他、浸酸による畸形の発現については多くの報告があり(26,251,252,392,393)、胚盤形成期(Y2Ba)を一つの危険期としている。
 中国における混精交雑の試験の中で(Y1脚註)、蚕種の孵化が悪く畸形の多かった場合が余剰精子の影響であると論ぜられている。この場合の材料蚕が即時浸酸種であること、および畸形の形態から考えると、われわれの普通にみている浸酸畸形と同じもののように思われるが、その論議においては浸酸畸形には言及されていない。
 框製にすると越年種も浸酸種も孵化が良好であるのに、バラ種の浸酸種に限って異常死卵が発現し、孵化歩合の低下する系統がある(480)。非常に特異なことは、バラ種台紙に付着したままホルムアルデヒド2%液に2分間浸し、約30分後に洗落し、少量ずつ寒冷紗に包んで浸酸すれば死卵の発現を防止できるが、ホルマリンで処理したものも、大量を一度に浸酸すると矢張り死卵がでる。卵細胞質に異常のあるために起こり、母親遺伝をする性質であると云うが(481)、浸酸の方法によって死卵の出方の相違する機構は明かにされていない。
 仲野(657)は、浸酸成績の向上のためには、孵化歩合ばかりでなく、不孵化卵の検討の必要なことを述べている。これは非常に大切なことであるが、不孵化卵をただタト見的に早期死卵、催青死卵、白ハゼ卵、浸酸無効卵などに区分して、その多少を調べるだけでは不十分である。催青死卵は浸酸が弱過きても、強過ぎても出るのであるから、その発現の機構に触れた検討が必要である。白ハゼ卵、早期死卵、浸酸無効卵などについても同様で、その死因、原因の分析に進まなければ意味がない。この点に関して興味のあるのは福田・河野(120,123,137)の研究である。
 浸酸の時期が適期を過ぎていた場合、浸漬時間の不足な場合などに生ずる浸酸無効卵を解剖してみると、胚のある程度発育しているものが多いが、その中に、頭部は殆ど休眠胚のままでありながら、尾端の発育の進んでいるもの、頭部は臨界期またはそれ以前の形にとどまっていながら体の後半部または尾端の数節が器官形成期に入っているもの、または反転を終えても頭部の発育の著しくおくれているものなどが縷々発見される。越年卵性蛹または不越年卵性蛹を除脳したり、不越年卵性蛹に食道下神経節を移植した場合に、化蛹してから産む越年性卵様の卵において、休眠要因(休眠ホルモン)の不足のために異常な発育をする胚が認められるが、上記の異常胚はこれとよく似ているから、休眠要因またはこれに関係のある物質が不十分な量で存在するために起こる発育異常と考えられる。浸酸刺戟の不十分な卵をある期間冷蔵するとこれらの異常胚の出方が減少するが、これは冷蔵によって活性化が補われるためと考えられる。異常胚において体の後半部の発育が進むのは、休眠要因または休眠解除後の代謝系に対する胚の反応に頭尾勾配があるためであろうと云う。
 冷蔵浸酸の場合、出庫後、中間温度を経ずに直ちに高温の塩酸に浸酸すると蚕種に被害があるが、河野(451)は40日間冷蔵した蚕種に、25℃で出庫直後、10、30および60分後に15℃比重1.110、 液漫48℃の浸酸を施こし、その被害を調べた。これによると、浸酸時間がある程度以上長くなるに連れて、どの時期の浸漬においても孵化歩合が低下したが、出庫後浸漬までの時間の短かいほどこの低下が顕著であって、孵化歩合95%以上を示した浸漬時間は、出庫後10分の浸漬では4分、30分後の浸漬で5分、60分後の浸漬では7分がそれぞれ限度で、浸漬時間がこれより長くなると孵化歩合は著しく低下した。処が、出庫直後の浸漬は却って被害が少なく、95%以上の孵化の得られた浸漬時間の限度は6分間てあった。出庫直後の浸漬がよかったと云うことは、普通には考えられないことで、何か特別の条件があったものと思われるから、その原因の究明が望まれる。なお、この場合の被害卵は、浸酸後間もなく漿膜と卵殻との間に間隙が生じ(XI1 E)、大部分のものが反転後から青み卵までの間に死卵になった。
 冷蔵浸鼓種の再冷蔵による白ハゼ卵についてはZ3Cにおいて述べた。

5 随時孵化および冬掃き蚕種の浸酸
 A 随時浸酸
 随時孵化は、蚕種の増殖のための急な必要に応じて、休眠中の蚕種を孵化させたいときに非常手段として行なわれるが、成績が不定で、蚕品種、産卵後の保護環境および日数によって結果が著しく相違する。浸酸を主とし、これに低温処理その他の方法が併用される。
 水田・佐藤(585)は、1)浸酸の反覆、2)冷蔵浸酸、3)浸酸冷蔵、4)冷蔵浸酸冷蔵、5)浸酸冷蔵浸酸、6)冷蔵浸酸の反覆、7)浸酸冷蔵の反覆などの方法によって、現行蚕品種における随時孵化成績を比較したが、従来から云われているように(547)、浸酸冷蔵浸酸法が最もよかった。
 日122号、日124号、豊年、支122号、支122号(太)、支124号および研白についての試験結果を綜合すると、この処理に必要な最小限の冷蔵日数は第144表の通りであった。

第144表 浸酸冷蔵浸酸処理に必要な最小限の冷蔵日数(水田・佐藤)(585)
希望条件 産卵後処理までの25℃保護日数
10日間 30日間 50日間
初発3日孵化歩合50%以上を得るための冷蔵日数
初発5日孵化歩合50%以上を得るための冷蔵日数
初発5日孵化歩合90%以上を得るための冷蔵日数
20−30
20
20−30
20−40
20
20−*
20−*
20−*
30−*
*上限は40日以上(20日以内および40日以上の冷蔵は試験していない)。
浸酸は15℃比重1.110、液温48℃、15分。冷蔵は第1次浸酸後25℃、
24時間目に行なう(5℃)。第2次浸酸は出庫後約1時間で行なう。

 浸酸冷蔵浸酸法は浸酸後ある期間冷蔵し、再浸酸を施す方法であるが、期日が切迫して冷蔵処理を行なう余裕のない場合には、浸酸反復法がよいと云う。これは15℃比重1.10、液温48℃で原種は15分、交雑種は20分間の浸酸を行ない、25℃に1日保護した後、同じ浸酸を繰返えした。産卵後25℃、35日の支122号、支122号(太)および支122号×日122号にこの方法を施した場合の初発5日孵化歩合は34−51%であった。
 星沢(227)は卵令30日前後の交雑種を60゚F(15.6℃)に1日おいた後、40゚F(4.4℃)に20−30日間冷蔵し、比重1.10、117゚F(47.2℃)、17分の浸酸を行なって良好な孵化歩合を得ている。
 東畑・功力(1055)は、産卵後25℃に保護中の蚕種に液温47.8℃、比重1.10、10分間の浸酸を施した後、これに酸素接触を行ない、酸素接触の有効なことを報告している(第145表)。酸素接触は酸素90%の瓶内に蚕卵を密封するのである(141)

第145表 浸酸および酸素接触による随時孵化(東畑・功刀)(1055)
蚕品種 産卵後処理までの
25℃日数(日)
浸酸のみによる
孵化歩合(%)
酸素接触併用による孵化歩合(%)
接触3日間 接触4日間 接触5日間
日9号  20
 40
 70
 80
120
35
12
46
14
23
69


21
43
52
40
58

52




50
日111号  40
 20
 40
18
67
48
54
67
39
66


60
支17号  40
 20
 40
 70
 80
120
 20
 40
71
84
73
65
74
29
59
82
84
84


81
54
80
93
81
86
81
84

55






55

支106号  20
 40
31
21
45
66

61
欧19号  70
 80
120
21
16
10

26
18
41

18


22
酸素は台紙が乾いてから接触させた。小数点下省略。

 石川ら(256,257)は、15℃比重1.100、液温48℃の高温浸酸、40℃付近の高温接触、−10℃以下の低温接触および比重1.126、液温28℃の低温浸酸を組合わせる方法によって、随時人工孵化の成績を向上させることができると云っているが、他の研究者によって確認されるに至っていない。コオロギにおいては、越年性卵を−16.5℃に20分間接触させると、5℃に十数日間接触させたのと同じ程度に活性化したと云う実験(オーストラリアにおける)がある。このコオロギの卵は非常に活性化し易く、また0℃以下の温度において目立って活性化の進む性質があるので、蚕卵とは著しく趣きを異にしてはいるが、[3Aにおいて述べたこととも考え合わせると、暫く実用の問題をはなれて、違う角度からこの方法を検討する必要があるように思われる

 B 冬掃き蚕種の浸酸
 未だ活性化の十分でない越年種を、増殖用として冬または早春に掃立てるためには、浸酸を施して活性化を補う必要があるが、その成績は蚕品種および蚕種の経歴によって相違する(第146表)。

第146表 冬掃き蚕種の浸酸例
研究者 採種時期
(場所)
浸酸時期 蚕品種 浸酸 孵化
歩合
(%)
備考
塩酸比重 液温 浸漬時間
星沢(227) 6月   (東京)
記載なし(福島)
〃   〃
〃   〃
  〃  (松本)
  〃  (福島)
〃   〃
〃   〃
 〃  (松本)
2月5日
11月30日
  〃  
  〃  
  〃  
2月3日
  〃  
  〃  
2月7日
支5号
欧17号
支14号
支15号
支105号
欧17号
支14号
支15号
支105号
1.10
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
1.08
 〃 
 〃 
 〃 
115゚F
118゚F
 〃 
 〃 
 〃 
115゚F
 〃 
 〃 
114゚F








5.5
86
60
60
80
95
82
85
90
95

31/X-30/XI 40゚Fに冷蔵


4/XI-30/XI 40゚F
8/I-3/II    〃
 〃 〃     〃 
 〃 〃     〃 
8/I-7/II    〃
前田(502) 6月   (三重)
〃   〃
8月    〃  
〃   〃
1月17日
  〃  
  〃  
  〃  
支14号
欧16号
日110号
支106号
1.10
 〃 
 〃 
 〃 
46℃
 〃 
 〃 
 〃 
16
16
16
 8
75
63
94
77
孵化歩合は最多2日
塚越(1085) 7月   (山形)
〃   〃
〃   〃
〃   〃
〃   〃
〃   〃
〃   〃
〃   〃
〃   〃
9月    〃  
〃   〃
〃   〃
12月8日
  〃  
  〃  
  〃  
  〃  
  〃  
  〃  
12月23日
  〃  
  〃  
  〃  
  〃  
日7号
日110号
分離白1号
支106号
支15号
支16号
欧18号
日7号
支106号
日7号
日110号
支106号
1.10
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
117゚F
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
115゚F
 〃 
 〃 
 〃 
 〃 
 5
 7
12
 6
10
 6
10
 8
 5
 8
 8
 4
51
41
46
43
46
35
42
44
48
60
58
58
孵化歩合は初発5日。
蚕種の保護温度(平均)
は12月上旬4.4℃、
同中旬4.6℃
前田、塚越の歩合小数点下省略

 佐藤ら(824)は、新庄の自然温度で保護中の最近の蚕品種について、比重1.10、液温47℃の浸酸成績を比較した。浸漬時間は3、5および7分であったが、最も孵化歩合の高かった場合は第147表の通りであった。

第147表 最近の品種の冬期浸酸(佐藤・中島ら)(824)
 蚕品種  1月21日  2月1日  2月15日  3月1日  3月15日
日122号  0−29%
3−56
 0−52%
5−76
 0−66%
3−81
 0−73%
3−79
 0−64%
3−66
日124号  0−13 
7−44
 0−31 
7−41
 0−55 
0−59
 0−50 
3−62
 0−45 
5−75
豊 白  0−45 
3−58
 0−53 
5−77
 0−61 
3−83
 0−77 
7−87
 0−86 
5−90
研 光  0−49 
3−60
 0−38 
7−76
 0−63 
7−82
 0−64 
5−81
 0−60 
5−86
支122号(太)  0−57 
3−78
 0−81 
5−86
 0−92 
5−93
 0−85 
3−87
 0−95 
3−92
支124号  0−77 
3−86
 0−80 
5−87
 0−89 
3−92
 0−91 
5−93
 0−94 
3−93
銀 白  0−42 
5−76
 0−60 
7−81
 0−60 
7−90
 0−72 
7−87
 0−70 
5−92
春 白  0−44 
3−58
 0−61 
7−80
 0−53 
7−86
 0−71 
5−86
 0−73 
5−88
0−29は無浸酸での孵化歩合29%、3−56は浸酸3分で孵化歩合56%で
あったことを示す。以下これに準ずる。孵化歩合は初発3日間。浸酸は
比重1.10、液温47℃。小数点下省略。

 2月下旬−3月上旬の催青用には、比重1.10で支那種には100゚F(37.8℃)8−20分、または105゚F(40.6℃)、4−8分、日本種には100゚F、10−30分、または105゚F、15−25分の浸酸がよかったと云う成績もある(215)

6 人工越冬
 人工越冬法の実用的な価値は少ないが、冷蔵浸酸法の冷蔵時期および冷蔵期間、越年種の活性化の遅速などの問題を考える上に重要な関係がある。
 越年化の進んだ卵(第51、115表)および産卵後1日以内の卵(第95表)の人工越冬については先に述べたが、その中間の時期の卵については藤原(102,103)の報告がある(第148表)。

第148表 前休眠期蚕卵の人工越冬(藤原)(102)
項目  低温 
処理
日数
(日)
蚕品種
支115号 支122号
処理開始時期*
 24   36   48   60   72   84   24   36   48   60   72   84 
孵化歩合
(%)
30
45
60
75
 0
84
92
95
17
92
94
94
 0
50
94
96
 0
21
93
95
 0
16
 9
92
 0
 6
89
93
71
84
82
88
91
94
91
95
79
93
93
96
74
92
92
95
54
92
92
93
51
93
96
97
最多発蟻
までの
催青日数
(日)
30
45
60
75

27
16
15
41
27
18
17

32
20
20

32
22
20

34
22
20

35
22
20
27
16
15
15
24
15
15
15
27
18
16
15
31
20
16
15
31
21
18
15
35
27
18
17
*産卵後25℃での時間。処理低温は5℃。

 この結果において片目されるのは、36時間目に低温処理を始めたものの孵化が最も早いことである。藤原は、48時間以後に処理を始めたものの孵化がおくれるのは越年化が進んているためであり、24時間目のものも亦おくれるのは、活性化し得る程度にまで発育が進んでいないことと共に、低温に対する抵抗力の弱いためであろうと考えている。最多3日孵化歩合も36時間目から処理したものが最も高かった。
 野口(689)は、産卵後20時間目、48時間目および10日目からO℃、2.5℃および5℃で処理した結果を比較したが、2.5℃においては、20時間目よりも48時間目に処理を始めたものの催青日数が短かいのに対し、5℃においては20時間目のものの催青日数が短かかった(第149表)。

第149表 産卵後10日以内の人工越冬(野ロ)(689)
 処理 
温度
(℃)
 低温 
処理
日数
(日)
処理開始時期
産卵後20時間目 産卵後48時間目 産卵後10日目
調査項目
催青日数(日) 孵化歩合(%) 催青日数(日) 孵化歩合(%) 催青日数(日) 孵化歩合(%)
20
40
60




61
50
31
 0
 0
 1




 0
2.5 20
40
60

43
19

19
62
50
33
17
 0
52
83

43
33

 1
 8
20
40
60
46
28
15
 0
51
76
48
30
18
 2
74
84
64
49
30
 0
 3
14
支17号。処理中の湿度80−95%。その他の時期は23.9℃、75%。小数点下省略。

 この結果は、冷蔵浸酸の基本問題について述べたのと同様に、卵の抵抗力と越年化の進行との釣合いがこの場合にも関係していることを示すもので、若い卵が活性化し難いか否かを孵化の遅速や孵化歩合の高低だけによって簡単に推定することはできない。
 交雑種を産卵後36時間目から5℃で処理した場合の活性化の速さは、両親の平均よりは母体に近いが、父親の影響も明かに認められる(104)
 なお258頁参照。


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