X 原料繭の取り扱いと処理法 −繭を大切に−

1.生繭の輸送と保管
 繭はカイコが上蔟してから8〜10日目に収穫されて製糸工場に引き渡される。この繭は生のままで、なるべく早く乾燥するため集荷後は直ちに製糸工場の乾燥場に運ばれる。繭が季節的な産物であるために繭の出荷は短い期間に集中することが多く、そのような場合には生繭をトラックに満載して運んだり、乾燥場では乾燥されるまで袋詰めのまま積み重ねて放っておかれることが多い。繭の中の生きているサナギは呼吸しており、大量に積み重ねて放っておかれると呼吸による代謝熱が蓄積されて繭の温度が高くなり内部は蒸れた状態になる。このような状態を蒸熱といい、繭が蒸熱をもつと繭層が軟らかくなってつぶれ易くなり、病気で死んでいたカイコやサナギの体が崩れて繭層を汚したり、サナギになってから何日も経過しているものはガが出て繭に穴をあけるなど、思わぬ被害が出るようになる。したがって、輸送に際して、生繭をトラックの荷台に大量に積み重ねて長距離を走る場合にはなるべく振動や衝撃がかからないよう注意し、乾燥場などに保管する場合にもなるべく涼しくて風通しの良い場所に袋の口をあけて置くなどして蒸熱を持たないようにすることが必要である。
 繭糸は大変に繊細で、繭に振動や衝撃を与えると、となりあっている繭どおしの表面がこすれあって繭糸が切れてしまい、繰糸に際して糸口が出にくくなり、生糸量歩合や繰糸能率が低下する。そのため輸送や保管などにはなるべくていねいに取り扱い、繭に振助や衝撃を与えないようにすることが大切であり、とくにトラック輸送の場合には凹凸の多い悪路を避けてゆっくり走るなどの配慮が必要である。
 なお、この過程では乾燥場に繭が大量に保管されていて床にこぼれたり、バラ積みされたりしている場合が多く、作業者が不注意に踏みつぶしたりすることがあるが、繭は養蚕農家が大切に育てた貴重なシルク素材であるので1粒といえども傷めないように気をつかいながら作業する心配りが望まれる。

2.乾燥
 カイコはサナギになっから10日程するとガになり繭に穴をあけて外に出る。 したがって製糸原料繭はそのようになる前に冷蔵またぱ冷凍してサナギの成長を止めるか、熱をかけるなどしてサナギを殺してしまわなければならず、さらに常温で長い間貯蔵する場合には、途中でカビが出たり腐敗したりすることの無いように乾燥しておくことが必要である。
 一方、繭層のセリシンは高温で乾燥されると湯に溶けにくくなる性質があり、このような変化を熱変性といっている。後の煮繭工程で繭層の外側の煮崩れを防ぎながら内側まで均一に軟らかくするには、乾燥工程で適度の熱変性を与えておいてから時間をかけてていねいに煮る方が良いとする考え方が有力である。

 このように、常温で長期にわたって貯蔵できるようにするためと適度の熱変性を与えるという2つの目的のために、製糸原料繭には熱を使った乾燥が施されている。現在、わが国では乾燥装置として熱風式多段バンド型乾燥機(図・10)が多く用いられており、一部では低温風力乾燥機(図・11)も使用されている。熱風式多段バンド型乾燥機の場合は、生繭を金網のコンベヤーに載せて移動させる過程で、はじめ120℃前後の熱風を通し、以後だんだんに温度を下げて最後を60℃程度としてほぼ6時間で乾燥を終えており、低温風力乾燥機の場合は密閉できる大きな部屋に生繭を2〜3時間ごとに20〜30cmずつバラ積みにしながら天井から80〜85℃の温風を送り込み、床から空気を技く方法で繭の乾燥を行っている。貯蔵中にカビが生じたり腐敗したりすることの無いようにするにはすべてのサナギの水分率を16%以下にまで下げておくことが必要であり、そのように乾燥したのちの繭の重量は生繭の重量の42〜44%に相当する。このように乾繭重量に対する比率を乾燥歩合または乾繭歩合と呼んでおり、適当な乾燥歩合としてその繭の繭層量歩合に18か19を加えた値を一応の目安としている。

3.貯蔵
 乾燥したばかりの繭は水分率にバラツキがあり繭の性質も不安定であるので、最低1か月程度貯蔵して水分率が平均化し、性質が安定してから繰糸するのが普通である。貯蔵の期間は翌年の新しい繭が入ってくるまでの9か月近くに及ぶこともあるが、このように貯蔵が長期にわたるときは、その間の温度と湿度の変化によって繭層セリシンが結晶化するなど変性が進み繭糸のほぐれを悪くすることがあるので、なるべく温・湿度が低く安定している倉庫内に貯蔵することが望まれる。
 また、貯蔵室の管理が悪い場合には繭にカビが生じたり、害虫が繁殖して繭層を食害したりして繭の品質を損ねてしまうことがある。カビはサナギの水分率が16%より高いまま貯蔵された場合や、貯蔵室の温度が70%以上の日が長く続いた場合にまずサナギに発生し、次第に繭層に移って繭の品質を損なってしまうので、繭は良く乾燥したうえで、乾燥した部屋に貯蔵することが必要である。

 繭を食害する害虫の主なものは図・12に示したようなカツオブシムシの仲間であり、病気で死んだサナギの臭いに誘われて集まってくることが多い。 したがって病蚕繭などの選除繭は選別し、臭いを出さないように密封性のあるプラスチック袋詰めにして正常繭とは別に貯蔵することが望ましく、乾燥後は素早く害虫を駆除した倉庫に貯蔵することが必要である。なお、害虫の発生を予防したり、発生した害虫を駆除するには、ペルメトリソ(バルサン)、ジクロルボス(DDVP)等のくん煙殺虫剤、臭化メチルなどのくん蒸殺虫剤が用いられる。繭を食害するのは主として幼虫期であり、それが活動を開始する初夏に害虫駆除処理を実施するのが最も効果的である。
 最近、外国からの輸入繭が増えており、今まで日本にいなかった害虫がついていることがある。したがって輸入繭を3か月以上貯蔵する場合には害虫の有無を確認し、もし害虫と思われる昆虫が発見された場合には倉庫内で殺虫処理するか熱をかけて乾燥しなおすなどしてなるべく早目に駆除する必要がある。

4.選繭
 製糸原料繭の中に混ざっている不良繭を選除することを選繭という。養蚕農家で作られた繭のうち製糸に不適当な繭は出荷に先だって選除され、さらに製糸工場に引き渡される出荷場においても選繭が行われるが、これらの選繭の過程で見落とされた不良繭があり、さらにその後の輸送や保管の過程でつぶれたり、死んだサナギによって汚れた繭などができることがある。これらの不良繭は表2に示すように生糸の品質を損ねたり、繰糸工程を混乱させたりするので、煮繭の前に選除しなければならない。
 選除すべき不良繭とその理由はつぎのとおりである。

表2 選除繭の繰糸成績
 (茨城産春繭・春月×宝鐘)
項目 解じょ率
(%)
繭糸長
(m)
糸故障(回) 小節
(点)
大中節
(点)
飛付 箱詰
対照区 73.7 1,490 94.3 93.0
内部汚染繭
外部汚染繭
薄 皮 繭
浮 し わ 繭
破風抜け繭
潰 れ 繭
奇 形 繭
64.5
56.4
63.4
55.1
51.9
56.3
53.8
1,023
1,110
541
530
1,054
1,130
1,452
10

28.4

6.8
5.0
15


28

10
10
25

28.4
28
6.8
15
10
94.8
94.9
93.0
72.6
92.4
94.7
93.9
87.2
95.6
93.8
−85.0
74.1
94.0
95.2
(今井、1973,製糸絹より抜粋)

 内部汚染繭:病気のため繭を作った後に死んだカイコやサナギの体液によって繭層の内側が汚れている繭で、ズル節(後述)の原因を作り、生糸の色相(後述)を悪くするなど生糸の品質を損なうとともに繰糸能率も低下させる。
 外部汚染繭:死んだカイコやサナギの体液が繭層の外側までにしみ出たため表面が汚れている繭やその繭によって汚された他の繭で、汚染の程度の著しいものは内部汚染繭と同様に生糸品質や繰糸能率を損なう。
 ボカ繭:繭検定では「浮しわ繭」と呼ばれる繭層が軟らかい繭で、煮繭したときに煮崩れを生じ易くズル節やわ節を多発して生糸品質を著しく損ない繰糸能率を低下させる。
 薄皮繭:繭層が薄い繭で、ボカ繭と同様に煮繭したとき煮え過ぎてズル節を多発する。
 玉繭:カイコが2匹で作った繭で同功繭ともいう。これを繰糸すると各種の節を多発して生糸品質を損なうとともに、落緒・糸故障を繰り返して能率を低下させる。
 はふ抜け繭:繭は俵型もしくは卵型をしているのが普通で、その両端をはふ(破風)といい、はふの部分の繭層が薄くなったり穴があいているものをはふ抜け繭という。この繭ははふの部分で煮崩れを生じたり、煮えむらとなって各種の節を発生し生糸品質を損ねるものが多い。
 板付き繭:カイコがまぶしに直接接触して繭を作ったためまぶしのかたが付いている繭のことで、この繭は生糸品質を損なうことは少ないが、その程度の大きいものは節の発生や落緒が多い。
 奇形繭:はふの部分がとがっているとか、扁平になっているなど繭の形が異常な繭で、その程度の著しいものはふしや落緒を多発する。
 極小繭:形が異常に小さい繭で、煮繭で煮崩れを生じ易く、節を多発したり、2粒接緒などによって生糸品質を損なう。
 穴あき繭:害虫に食害されて小さな穴があいている繭で繰糸は不能である。
 これらの選除繭のうち、内部汚染繭には外見では判別し難いものが多い。そのため下から光を当てたときの透過光の明暗によって内部汚染繭を判別する方法が採用されており、選繭台の下部に蛍光灯を設置し、その上を半透明のコンベヤーベルトに繭を載せて移勤させながら繭を観察して選繭を行っている工揚が多い。あとでも述べるように、内部汚染繭は煮繭した後には繭層が黒くなって判別し易くなるので、選繭で見落とされた繭は繰糸機の新繭補充部や給繭機でも選除される。

5.合併
 生糸の取引き先からの注文に合致した品質の生糸を製造するとともに、ある期間安定した条件下で生糸の製造が続けられるようにするには、蚕期や上蔟時期、蚕品種、生産地等のほかに繭糸の解じょ、繭糸繊度、煮繭抵抗(繭の煮えかた)などの性質と、節、糸故障などの発生状態を検討して、性状の揃った大量の原料荷口とするよう合併することが必要となる。あとの煮繭、繰糸工程からみれば蚕期や品種が同じで品質・性状の揃った繭を合併することが最も望ましいが、製糸工場には多種多様な原料繭が入ってきており、それらをすべて生糸にするためには品質・性状の異なる繭も合併しなければならない場合が多い。品質が大幅に違う繭を合併したときの繰糸成績はそれぞれの繭を単独に繰糸したときの平均成績より劣る場合が多く、とくに解じょが著しく異なる繭を混ぜた場合は、繰糸中に解じょの良い繭と悪い繭などがかたよってしまい生糸品質にむらを生じることがあるので、例えば極端に解じょの悪い繭を合併するときはその繭の割合が7%を越えないようにし、良く混合して均斉化するとともに、あとの繰糸工程で索・抄緒部や給繭機内の繭の新陳代謝には十分注意する必要がある。


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