[ 揚返し・仕上げ −製品に仕上げる−

 繰糸機で小枠に巻かれた生糸は濡れたまま繰糸張力によって強く圧迫されながら乾燥されるため、小枠の枠角などでは生糸は互いに接着している。生糸が無理に引き伸ばされている状態をひずみ(歪)といい、そのような状態が長く続くと生糸の強さや伸びが低下するので、なるべく早く小枠から外してひずみを除くとともにあとで生糸を容易に巻き返せるように接着をやわらげておくことが必要である。そのためとあとの工程で生糸を扱いやすくし運搬にも便利なようにするために、生糸は小枠から大枠に巻き返して糸が乱れないように数個所を糸でとめてから枠から外して綛(かせ)の形にする。そしてその何本かを束装して(かつと読む。重量はほぼ5kg)とし、ダンボール箱に詰めて出荷している。ダンボール箱詰めの生糸の重量は約30kgで、これをケースと呼んでいる。
 1つの綛の重量は長い間、70gを標準としてきたが、自動繰糸機の普及と繰糸の高速化にともなって生糸量は2倍、3倍と増大してきており、70gのものを細綛、2倍以上のものを大綛と呼び、現在ほとんどの工場では平均を208gとした3倍綛が作られている。
 なお、一部の工場では綛の形態にせず、小枠からほぼ700g分の生糸を直接チーズ、ボビン等に巻き取り、そのまま包装して織物工場等に流通させる管状束装が行われているが、ここでは一般の製糸工場で行われている綛仕上げを中心に解説し、最後に管状束装法について簡単に述べる。

1.揚返し
 (1)揚返機
 揚返機の構造は図・20に示すように、枠周が1.5m、木製6角形で枠手の長さ(幅)64cmの太枠(揚枠と呼ぶ工場もある)が背中合わせに2列並んでいる。太枠は生糸を巻き取ったのちに枠手をゆるめると枠周が短くなり、生糸の綛を枠から取り外すことができるような構造のものが用いられており、5本または6本の生糸をそれぞれ7.5〜8.0cmの絡交幅で巻き取ることができる。太枠の奥(裏側)と下部にはそれを包むように蒸気暖管が教本付設されており、加温して巻き取った生糸を乾燥している。揚返機は1枠ごとに区画されておりそれを1窓と呼んでいる。

 繰糸工程でできた生糸の節のうち、大きなものは繰糸機の集緒器で検知して小枠を止め人手によって除去されているが、まれには集緒器を通過してしまうものがあり、また集緒器を過ぎてから新しくできる節もある。これらはシルク製品にしたときの欠点の原因となるので、揚返しの工程で除くことが望ましく、揚返機の絡交の下部に除節装置(スラブキャッチャー)を設置して大きな節を除いている工場が増えてきている。
 (2) 揚返法
  @ 枠湿し

 生糸は小枠にきつく巻かれているため枠角等で軽く接着しており、そのままでは大枠に巻き返すことはできない。そのため、揚返しを行う前に生糸を適当に濡らしてほぐれやすくしておくことが必要である。これを枠湿しといい、水が中までよくしみ通るような性質を持つ界面活性剤(浸透剤)と固着防止剤、柔軟剤などが入っている浸透液に漬けて枠湿しを行っている。枠湿しが不十分な場合は生糸をほぐすのに力がかかって揚返し中に切断が多く発生し、一方、枠湿しの程度が過ぎると揚返しの中の生糸の乾燥がまにあわず、大枠の枠角などで固着を生じる。そのため、枠湿しには真空滲透法(低圧浸透法、減圧浸透法などとも呼ばれている)を採用しているところが多く、浸透液入りの真空浸透槽に小枠を入れて、いったん大気圧の1/4程度(大気圧は760mmHgで、それより500〜600mmHg気圧を下げる)まで減圧してから大気圧に戻して浸透液を吸わせる処理を3〜4回反復し、生糸の重量に対して130〜150%の水分を含ませるようにしている。
 小枠に巻かれている生糸は27中の場合、長さは普通70,000mに達し、1分間300mの速度で巻き返しても揚返しには4時間近くを要する。そのため揚返し途中の生糸が乾燥してしまう場合があり、そのような場合には途中(例えばほぼ30分ごとに30秒間)で水を散布(これを補水という)して生糸の表面を湿している。
 A 揚返し
 枠湿しした小枠を小枠配列台に並べて生糸の糸口を引出し、それを2本揚がり防止用ガイドと絡交うずとを通し、枠手に固定してから回転を開始する。揚返しのために小枠から高速でほぐれてくる生糸は左右に大きく振れ(これをバルーニング現象という)、隣の緒の生糸に接触して巻き込まれて隣の綛に巻き取られることがある。これを2本揚がりといい、のちの再繰工程での大きな支障となるので、絡交うずと小枠配列台の中間にガイドを設けて生糸を通し隣の緒に巻き込まれることを防止している。
 あとの再繰工程で綛から生糸をわずかな力でほぐし出すことができ、しかも、最後まで綛の形を保っているようにするためには、綛の中のあやの重なった部分で生糸が適当な強さで接着していることが必要である。この接着が強すぎると再繰工程で生糸の切断が多発し、一方弱すぎると綛の形が乱れ生糸がもつれて再繰に支障を生じるので、大枠に巻き取る際に絡交によって生糸を左右に振り、同じところに重ならないようにするとともに、大枠の周辺の温湿度を調節して接着の程度を制御している。大枠の周辺の温湿度は生糸の繊度や巻き取り速度、天候等によって変えなければならないが、一般には温度を35℃、湿度を45%程度に調節するのが適当とされている。
 生糸の巻き取りが終わったのちもしばらく大枠を空転して外層の生糸を良く乾燥してから機外に搬出し(大枠固定式のものはその場で)、枠手をゆるめて緒留めとあみそ(力糸)掛けを行う。
 B 緒留め・あみそ掛け
 あとの工程で綛の生糸の糸口を分かり易くするために綛の最初の糸口(上くち)と最後の糸口(下くち)とを一緒にして綛の中の決まった位置に留めておくことを緒留め(くちどめ)といい、綛の形がくずれないように綿糸を使って決められた場所にあみそを掛けることをあみそ掛けまたは力糸掛け・レースなどと呼んでいる。緒留めは枠手と枠手の中間の綛の右側半分に綿糸を掛けてそれと糸口とを一緒に留め、あみそ掛けはその下部を含めた3個所または4個所に3〜5つ編みとして綿糸を使って掛ける。なお、ほとんどの製糸工場では繊度や品質の異なる生糸が同時に作られており、あみその色を変えて生糸が混ざらないように区別している。
 あみそ掛け終了後は枠角の硬さ、緒留め・あみそ等を点検し、大節、切れ糸、汚れ綛等を除いて綛箱に納める。

2.束装・仕上げ
 揚返した直後の生糸の水分率は8〜9%と低く、バラツキも大きいので温度20〜30℃、湿度70〜80%に調整された水分安定室に収容して水分率を調整したのちに束装する。束装は、綛を2つ折りにして結束するちまき造り、鐘桜(しょうおう)造りなどのねじ造が行われてきたが、大綛が普及した現在は2つ折りとせず真っ直ぐ伸ばしたまま結束する長手造り(ながてづくり)が行われている。長手造りでは綛を伸ばして2〜3回ねじり、その4本の綛の両端(上下)に櫛(くし)を通して括造り機に6段重ねとし、圧縮して括糸で5個所をしばって所定の重さの括にする。できた括はポリエチレン袋に包んでからダンボール箱に包装して出荷する。

3.揚返し・仕上げの管理
 揚返し技術の良否は綛糸の固着、撚糸工場などでの再繰切断等に影響する。また、束装した姿は形や色(生糸検査では色相という)などの外観が良く整っていることが必要である。そのため、生糸の揚返しと仕上げにあたってはとくにつぎの事項に注意して固着が少なくきれいな束装形態の綛・括を作ることが大切である。
@ 小枠湿しにむらはないか
  小枠湿しが不適当で、とくに浸透が不十分な場合には小枠の枠角などの生糸が白く接着したままで、揚返し切断を多くするだけでなく揚返し張力が高くなって綛の仕上がり状態を損なうので、そのような小枠には補水して湿潤状態を調整する。
A 生糸は2本揚がり防止ガイドを通っているか(2本揚がりはないか)
  揚返し中の生糸が何らかの理由でガイドから外れてしまうことがある。そのような場合は直ちにガイドを通すとともに、2本揚がりがないかどうか点検する。
B あやは乱れていないか
  絡交桿の動きが異常であったり、絡交うずが絡交桿に固定されずぐらついている場合などには巻き上げられた生糸にあや乱れを生じるので、糸つなぎなどのため大枠の回転を停止したときに念のためあやの状態を点検する。
C 綛の重量に不同ぱないか
  綛の重量は、例えば24綛で5kgの括を作るにはすべての綛が208g に仕上げられているというように綛の重量が揃っていることが望ましいが、実際には、繰糸工程での糸故障などのために1つの小枠に巻かれている生糸の重量に差を生じることは避けられず、できた綛の間に生じる重量のバラツキが大きいものを綛不同と呼んでいる。綛不同は、あとの合糸・撚糸等の作業の支障となるのでなるべく差を生じないように注意することが望ましい。

4.管状束装
 現在行われている管状束装には、繰糸中に生糸にオイリングを行いながら小枠に巻き取り、枠湿しをせずにチーズに巻き上げる乾式と、綛造りの場合と同様にオイリングをせず、枠湿しをして乾燥しながら巻き上げる湿式とがある。乾式は繰糸機の絡交下にオイリング装置を設けて生糸の重量の1〜3%に相当する油剤をつけて固着防止をはかるとともに柔軟性を与えておき、温度が25〜30℃、湿度が70〜80%の環境の中においてチーズやボビンに巻き上げてからポリエチレン袋に入れ、ダンボール箱に包装して出荷している。


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