U.製糸業と製糸工程のあらまし

 カイコの作った繭を購入してきて生糸に加工して販売する産業を製糸業といいます。製糸業は日本・中国などの東アジアをはじめ、東南アジア、中近東、南アメリカ、アフリカその他世界各地の30数か国で営まれており、毎年、ほぼ90万トンの繭から、140万俵近くの生糸が作られています。この生糸は繭から引き出した繊維(以下、これを繭糸といいます)を何本か引き揃えて接着させただけのもので、私たちが使っているドレスやきものなどの衣料製品にするには、さらに何本か合わせてから撚りを掛けたり、精練・染色を施すなどいろいろと手を掛けることが必要です。したがって生糸はそのままでは一般の消費者にとっては利用価値のない中間製品ですが、世界中の人々に美しいシルク製品を提供する蚕糸・絹業の中央にあって、製糸業はフォーマルからカジュアルまで様々な用途に適する生糸を製造するという極めて重要な役割を果たしております。

 製糸業者が年間を通じて生糸製造の作業を続けるには、養蚕農家から購入した繭の品質を損なわないように乾燥して貯蔵しておき、毎日必要な分を取り出し悪い繭を除いて品質の揃った良い繭だけを使います。繭の中で繭糸は硬く接着していますので繭糸をほぐれやすくするために湯や蒸気で煮て(煮繭)軟らかくしてから繭糸を引き出し、その何本かを合わせて生糸にします。濡れたままの繭糸は粘着力がありますので何本かを合わせると簡単に接着して1本の糸にすることができます。このようにして生糸が作られますが、品質の良い生糸にするには1つの繭から1本だけの繭糸を秩序正しく引き出すことが必要であり、しかも目的とする太さになるように注意深く繭糸の本数を調整してむらの少ない生糸を作り枠に巻き取ります。巻き取られた枠の中で生糸は接着していますので大きな枠に巻き返したのち枠から外して綛(かせ)の状態にし、包装して機業者に売却されます。
 このように繭から生糸を作る手順を製糸工程といいます。この工程の中心になるのは、繭から引き出した繭糸を合わせ、生糸にして巻き取る繰糸作業です。


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