Y.良質生糸をつくるためのガイド

1.なぜ生糸品質は良くなければならないのでしょうか
 製糸技術の目標は、繭や糸の無駄を少なくして良い生糸を速く作ることにあります。この無駄が少ない(歩留まり)、良い(品質)、速い(能率)の3つの成績は製糸工場の利益に直接影響する大切な要素ですが、国内での生糸需要の70%以上はきものなど生糸品質が良くなければならない和装関係の高級衣料向けで占められていますので、一般の製糸工場では最も大切な目標を品質生糸の製造に置き、そのうえで如何にして生糸の歩留まりと生産能率を向上させるかを目標としています。
 とくに、最近は中国、ブラジルなど海外諸国での生糸生産が増加し、品質も年々向上して競争が激しくなっています。そのため、国内の絹織物の業界からも国産生糸の品質向上が強く要望されており、国際的な蚕糸業の情勢からみても、日本の製糸業を維持し発展させていくためには付加価値の高い品質生糸を生産することが重要と思われます。
 このような観点から、本書のまとめとして良質生糸をつくるための繰糸作業技術について主要な問題に限定して考えてみることにします。

2.望まれる良質生糸とはどのような生糸でしょうか
 総括的にはきものやドレス、肌着など用途別の特徴に適応できる生糸が良い生糸ということになりますが、用途の最も多い高級絹織物の製造業者から生糸に求められている品質の主な内容を重要な順に上げると以下のとおりです。
 @ 製織(はたおり)の工程で糸切れ、節などによるトラブルの発生が少なく、製織能率や製品品質を高め得る生糸であること。
 A 繊度が揃っていて、たてしま、おりだん、節、汚れなどの欠点のない製品(織物)がつくれる生糸であること。
 B 伸度(糸の伸び)が高く、強力(引っ張り強さ)・抱合(繭糸の接着)が適当であること。
 C 練減り(セリシン残量)が適正で、精練による目減り(練減り)が多過ぎないこと。
 これらのことを国が定めた生糸検査規則(農林水産省令)にある生糸検査項目にあてはめること、@繊度成績(平均繊度・繊度偏差・繊度最大偏差・糸むらなど)が良いこと、A節成績が良いことが最も重要と考えられ、ついで再繰切断、伸度、抱合、練減り率等の良否が良質生糸の判断基準になっていると考えられます。

3.良質生糸をつくるための繰糸の基本技術
 製糸工程で良質生糸をつくる要因には、@原料繭性状の良否、A機械整備と性能の良否、B製糸作業技術の良否、の3つが挙げられます。この中では原料繭の性状が生糸の品質や生産能率に最も大きく影響しますが、製糸工場で良質繭だけを購入することは難しく、購入した繭はどのような性状のものであっても製糸の各工程でその繭に適した最善の処理を施し、良い生糸を無駄なくつくることが大切であり、それを実行することが技術ということになります。
 このように、生糸の品質には製糸の全工程が関係しますので、各工程の作業技術の適正化を図るとともに各工程間の連携を密にし、とくに繰糸以前の工程(繭乾燥・選繭・煮繭および索緒・抄緒)では繰糸の条件(状態)が最適になるように工夫して管理し、作業することが大切ですが、本書の目的が繰糸作業の基本マニュアルを示すことにありますから、繰糸の巡視作業(補正)を中心に、始めに述べたような製織業者の求める良質生糸、とくに繊度成績と節成績の良い生糸を作る技術について考えることとします。

1) 繊度成績(繊度偏差・繊度最大偏差など)を良くするための作業技術
 繊度の検査では、出荷された生糸1荷口より繊度糸(長さ450m)200本をとって繊度を測定し、その値の散らばり方から繊度偏差を求めることになっており、繊度の値の散らばりが大きいものは繊度偏差の値も大きく計算されます。また繊度最大偏差は200本の繊度糸の中で最も太いもの4本、細いもの4本のそれぞれの平均値を求め、平均繊度との開きの大きい方の値で表すことになっています。
 このようにして検査される繊度偏差や繊度最大偏差の値が大きい生糸では繊物にたてじま、おりだん(よこじま)などが発生し、良い製品をつくることはできません。
 したがって、繊度のむらの少ない生糸をつくることが何よりも大切ですが、そのためには、@繊度感知器が常に正常に作動していること、A繊度か細くなり接緒要求が出たときにはすばやく正緒繭が1粒接緒されるように管理されていることが繊度偏差や繊度最大偏差の成績を向上させるための大原則となります。
 繊度むらの少ない状態を保つには、前の基本作業の項で示された巡視作業者の正しい標準作業段取りを守ることが最も大切です。標準作業段取り(作業手順と責任)は、@糸故障の整理と未然防止、A粒付け点検、B繊度感知器点検、C給繭機整理、の4点から成り立っており、この作業手順の良否が繊度偏差・繊度最大偏差はもちろんその他の成績にも大きな影響を及ぼすことになります。
 以下に、標準作業段取りの中で特に注意すべき事柄を述べます。

(1) 糸故障の整理と未然防止について
 糸故障の発生は巡視上の作業を乱すばかりでなく、生糸の品質にも悪い影響を与えることになりますので、故障整理と未然防止のための正しい知識と基本技術を身に付けることが大切です。そのためにとくに注意しなければならない事柄はつぎのとおりです。
〈糸故障整理の際にとくに注意すべき事項〉
 @ 糸故障が発生した場合にはストップレバーを作動して小枠の回転が停止していることを確認し、作動していない場合には直ちにレバーを上げて連続感知による大粒付けを防止すること。
 A 糸故障整理が終了した時にはストップレバーを下げるが、その際、感知器の制限棒を上げ探り金具と直ちに係合する状態を避けてからストップレバーを下げること。
 B 糸故障整理のあとには、感知器外れによる大飛び繊度を防止するため、糸が感知器に完全に入っているかを確認してからつぎの動作に移ること。
〈糸故障の未然防止のために注意すべき事項〉
 @ 給繭機内の未正緒繭、無緒繭、汚染繭等の不良繭は見付け次第拾い出すこと。
 A 糸故障整理後の糸屑始末を徹底し、糸屑による糸故障の再発を防止すること。
 B 汚れが甚だしい集緒器・第2鼓車等は糸故障の原因となるので、絶えず清掃して清潔に保つこと。
 C 小枠の回転付けに当たっては小枠の1つ1つを少しづつ手で廻してケンネルよりの固着をなくすこと。
 D 糸道機構の汚れ、破損があると糸の切断が増加するので清掃・整備に心掛けること。
 E 接緒器の糸屑が多くなると接緒不良や糸故障を起こしやすくなるので、回転停止時にそれを除去すること。
 F 給繭機・接緒桿の作動不良は引き糸や節詰まりなどの糸故障の原因となるので、発見次第修理すること。

(2) 粒付け巡視(点検)について
 粒付け巡視は繊度関係の成績向上のために極めて重要な作業段取りの一部です。受持ち台数(緒数)が増加すると全緒をむらなく巡視することが難しくなりますので、糸故障の未然防止に心掛け、常に全体をむらなく平均に巡視できるように努力することが大切です。
 粒付け巡視は巡視時の標準作業段取りに示されているように右巡視(第1工程)によって行い、糸道上部にある感知器の巡視(第3工程)とは交互に行うことになります。粒付け数の点検は移動中常に3〜4緒先を見て行い、異常粒付け(例えば、27中繰糸の場合は±3粒以上のもの)を発見した場合には、直ちに粒付けを補正するとともに異常粒付けの原因を調べて修正します。とくに極端な細粒付け、大粒付けがあった場合には必ず小枠に巻かれた生糸のはぎ取りを行い、あるいは目印をつけておいてあとで別に扱うなど、飛び繊度をなくすよう心掛けます。

(3) 繊度感知器の巡視(点検)について
 繊度感知器は生糸の繊度を決定する指令塔ともいうべ大切な役割を持っています。不良感知器あるいは感知不良は、標準作業段取りによる感知器の点検作業と粒付け巡視時の異常粒付けとによって発見される場合が多くありますので、巡視時には感知器の動きと粒付けに十分注意し、感知異常の早期発見に努めることが大切です。
〈繊度感知器の点検事項〉
 @ 感知器ゲージガラスヘの糸の出入りの状況。
 A 感知器ゲージガラスの汚れの状況。
 B 感知器が感知器ケースに正しく入っているかどうか。
 C 感知器ゲージガラスと糸の中心関係。
 D 第3鼓車、断続鼓車の回転状況。

(4) 給繭機の点検・整備について
 給繭機の繭量、正緒繭率、繭の動き等によって接緒時の正緒繭の取出し効率、有効接緒効率等が変化し、生糸の繊度成績だけでなく糸故障の発生など繰糸成績の全般に大きな影響を及ぼします。したがって、それらが適正でかつ安定しているかどうか、給繭機の点検・整理には十分注意することが大切です。
 作業段取りの中では左巡視時(第2工程)で、次の諸点に注意して行います。
〈給繭機の点検・整理事項〉
 @ 給繭機内繭量の補正(給繭機間の繭の移動・調整)。
 A 未正緒繭・不良繭(玉繭、内部汚染繭、極薄皮繭、その他)の除去。
 B 緒搦み(おがらみ)棒の巻付き繭の除去。
 C 無緒繭(くちなし繭)の除去(作業に余裕を生じた場合)
 D 振動底板(あおり板)、取出しフオークの作動不良等、不良給繭機の発見・措置。
 以上、良質生糸の最大の要件となっている繊度成績を向上させるための技術の要点について述べました。これを実行するには標準作業段取りの内容と方法を十分に理解して基本作業を練習し、その積み重ねによって正しい技術を身につけ、習慣化することが重要です。そしてこの技術を励行することによってはじめて糸むらの少ない良質生糸を作ることができます。

2) 生糸の節成績を良くするための作業技術
 生糸の節は製織工程中の糸切れを起こして製織能率を低下させるだけでなく、製品(織物)表面にきずとなって現われて製品の価値を著しく損ないます。そのため、機業者は生糸に節があることを大変に嫌い、節の少ない生糸の提供を求めております。製糸の段階での節の発生は原料繭の性状の良否に大きく左右されますが、製糸工程の作業技術も大きく影響することがありますので、節に対する正しい知識を持ち、それを少なくする技術を身につけることが大切です。
 節の成績は、国が定めた生糸検査規則に従って節の種類別に数を数え、特大節1個につき1点、大節1個につき0.4点、中節1個につき0.1点の失点をつけます。また、数を数えない小節については小節標準写真と対比して失点をつけ、これに大中節の失点を加えた値(総失点)を100点から差引いて残った数値を節点としています。
 参考のため主な節の分類について簡単に述べるとつぎのとおりで、節の長さや塊の大きさによって上で述べたように失点に差がつけられています。
 @ 節の大きさ別:特大節、大節、中節、小節の4種類
 A 節の形状別:ズル節、わ節、もつれ節、つなぎ節、さけ節、ビリ節、他
 最近の国産生糸の検査成績を見ると、節成績に大きな影響を及ぼしているものは、大きさ別では大中節、形態別ではズル節、わ節、つなぎ節の順となっています。したがって節点を向上させるにはこれらの節の発生原因を調べ、製糸の全工程にわたってそれを防止するための適正な作業管理を施すことが望まれますが、ここでは繰糸段階で作業者が注意すべき事項をとりあげます。
〈節点を向上するための注意事項〉
 @ 給繭機の点検・整理を徹底して行い、節を発生しやすい繭を除去する。節を発生しやすい繭としては浮きしわ繭(ボカ繭)、玉繭、内部汚染繭、はふ抜け繭、極薄皮繭、末正緒繭等でこれらを発見したときは直ちに除去する。
 A 粒付け点検の際にも粒付け繭の中に上記不良繭が発見された場合は直ちに除去する。
 B 糸道機構を清潔に保つ。とくに汚れ易い接緒器、ビーム、集緒器、鼓車等は清掃を定期的に実施して汚れの防止に努める。
 C 手屑払いを活用して糸屑の始末を徹底し、糸屑飛込みによる特大節や糸故障の発生を防止する。
 D 糸結びをしたときは切れ端が2mm以内とする習慣をつける(生糸検査では3mm以上のつなぎ節が想像以上に多く出現している)。
 E 繰糸湯の汚れを防ぎ、セリシン、脱皮殼等の糸への付着をなくす。
 F 最内層での繭層の破れ始めに節の発生が多い。したがってそのような状態になった薄皮繭は早目に除去し、蛹襯(ようしん)の飛付きを防ぐ。
 G 節詰まりによる糸故障を整理したとき、その前後には節が多いので、良く点検してから小枠の回転を付ける。
 H 集緒器の孔径によって節点は大きく変化する。目的繊度に応じた適正な集緒器を使用し、摩耗等によって孔径が大きくなったものは交換する。
 I 繰解部等の滞留繭は後でズル節を発生し易いので排除する。繰糸機全般の繭の新陳代謝を良くすることは節、糸故障の発生防止を図る上で極めて基本的な管理技術である。
 I 繭が繰解部周辺に散乱しているような状況下では良質生糸をつくることはできない。1粒1粒の繭を大切に扱って適切に処理し、節と糸むらの少ない良質生糸の生産を心掛ける。
 以上、良質生糸の要件である節の改善技術について述べました。はじめに述べたように生糸の節には原料繭の性状や繰糸以前の繭処理技術が大きく影響しますが、繰糸の作業技術の良否が最後の決め手となることを認識して、繰糸に当たっては繊度問題と同様に節の発生防止に細心の注意を払い、標準基本技術を励行することが何よりも大切です。

4.おわりに
 なぜ生糸品質は良くなければならないのか、周囲から望まれる良質生糸とはどのような生糸か、について考察したうえで、良い生糸をつくるための繰糸の基本技術と注意事項を述べました。
 このような繰糸の基本技術の最終目標は、まず第一には生糸のユーザーであるはたおり工場の方々(機業者)に日本の生糸は良いと喜んで安心して使って貰える糸づくりを行うことです。そして第二にはその結果としてわが国の製糸業の維持発展に貢献し、さらに第三には絹による衣料文化の一層の向上と社会の発展に寄与することにあります。
 繰糸作業に携わる皆さんはこのような意義を良く理解して正しい基本技術を身につけて頂き、良質生糸を無駄なくつくる糧にして頂きたいと願っております。


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