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Subject: [silkmail:23] 「生活をうるおす色彩」 <Chikayoshi Kitamura > 2001/09/14

雑誌『婦人の友』10月号に、「生活をうるおす色彩」という題で座談会の記録が
掲載されていました。出席者は、洋画家の佐野ぬいさん、染織家の中川原哲治さ
ん、デザイナーの小倉ひろみさんの3人です。その中の一人、中川原哲治さんは
八王子で機織り工場を経営するかたわら、山梨県市川大門町に染織工房「山まゆ
の里」をひらいている方です。この方の発言の中に、傾聴に値すると思われるも
のがありましたので、ご紹介します。
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作る布が気持ちの中では完成しないままショーに行き、次の瞬間には古い物にな
っていく。そうした消費材作りに加担していく中で「ちょっと違う」と空しさを
感じるようになりました。さらに着物用に数キロの糸を染めれば済んだ小さな地
場の産業に、工業化されたシステムを無理に持ち込んでしまったのではないかと
いう反省がすごくありましてね、ファッション業界との取り組みをやめました。
 しかし、自分たちが思う物をと作り始めてみると、絹糸が手に入りにくい。そ
れなら布の原料も自分たちで作らなければと山梨に畑をもって、天蚕を飼い、糸
を作り始めた。当然ぼくらだけでは成り立たないので、いろいろな人の手を借り
る。その人たちの農業が成り立つように、ぼくらはどう関われるか。そうした中
で糸を作ること、布を作ること、そして染めることが楽しくて仕方ないという状
況でやっています。(中略)ぼくらの作る布は主役を引き立てるすばらしい脇役
に徹したいという思いで、色を出し、布を織っています。布が主役になるという
のは、ファッションショーのオープニングやフィナーレを飾るようなもので、ワ
ッと売りさばかれるものです。逆に一対一で手渡していくような布は、肩にかけ
たときその人がすばらしく変化して、ワーッと声が出るようなものです。よい意
味での脇役にするための色、風合いをどうするか、トレンドとか今年の流行色に
あわせるという発想は少ないのですが、家内もぼくも街によく出かけますし、そ
こで感じる流れとか空気と、自然の中で感じるものをミックスしていくような色
の出し方です。そして次の出会いのときに新しいねと言っていただけるような変
化の中で、小さいけれど工業的な発想を持ちながら色を作っています。(略)
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この方は、別のところでファッション業界とのビジネスから離れた理由について
「僕らは充分な収入を得られても、芸術性の高い作品では、使う糸の量はそんな
に多くはない。それに流行に左右されていては、養蚕農家の収入は安定しません。
身につけて心地よいものを作り続けることが、農家を、ひいては僕らの仕事を支
えることになる」と述べておられます。
 蚕糸の新しい方向を考えて行く上で、とっても参考になる発言だと思いました。

Chikayoshi Kitamura (NIAS/MAFF) kitamura@affrc.go.jp