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Subject: [silkmail:41] 上毛新聞「繭の記憶」( 12 ) <Chikayoshi Kitamura > 2001/11/04

第3部「希望」−5−グループ
 兵藤修一さん(73)は、国の伝統的工芸品「桐生織」の技を引き継ぐ伝統工芸士の一人
だ。戦後、父と二人で創業、妻の兄が経営する機屋で技術を磨いた。主に帯地を生産、
つくればつくるだけ売れる時代を体験した。状況はオイルショックで一変、「売れない
から種類を増やす、さらに在庫が増える」。そんな悪循環の中、和装から洋装に転換し
て、乗り切ってきた。……昨年、仲間とクループ「シルクα(アルファ)」をつくり、絹
を中心にした新商品の開発に取り組んでいる。「絹は手仕事によって、その良さが引き
出せる。それには、われわれのような職人集団がいまひと踏ん張りしなくちゃと思って
いるんだよ」
 今、桐生市で兵藤さんらのように「絹」をテーマに新商品づくりに取り組むグルーブ
が7つある。その仕掛人は高橋和夫さん(64)。桐生にある国の出先機関に勤め、桐生織
にかかわった。そして、集まった仲間で小さなグルーブをつくり、活動を始めた。ちょ
うどバブル経済が崩壊したころだった。桐生の最大の特徴は多種類の織物を少量生産す
る高い技術力。それは「サンプルの産地」とも呼ばれ、長い間、桐生を支えた。そんな
伝統産地でも、長引く業績の低迷とバブル崩壊に、焦燥感が漂っていた。高橋さんは「
ピンチの時こそ、いい知恵が生まれる」と言い続けた。……力を最大限に生かす。それ
が、グルーブ化の大きな狙いだった。高橋さんの呼びかけに、若手の経営者や二代目ら
が集まり、次々と同業者による開発グルーブが生まれた。それは、組合を中心に業界全
体の底上げを目指す従来型とは異なる形態だった。その意義を高橋さんはこう説明する。
「時代の流れをとらえるには結束力の強さ、決断の速さ、それには『やってやろうじゃ
ないか』という少人数のまとまりでないとうまくいかない。そうしたまとまりこそが、
個にない、パワーを生み出すんですよ」。…活動が始まって10年近くが経過した。まだ
「桐生再生」に直結するようなビッグヒットは生まれていない。しかし、閉そくした織
物業界に投げ込まれた一石は、確実に波紋を広げている。若手中心のグループに触発さ
れるように昨年から活動を開始した兵藤さんら年長者グループがその証左だ。…グルー
プづくりを呼びかけた「シルクα」代表の小松偕介さん(66)は「トップの技を持った職
人が集まり、知恵を出す。どうずれば売れるか。われわれのこれまでの経験と実績がも
のをいう。桐生再生の旗振り役になりたいと思ったんだ」と説明する。「シルクα」は
先月中旬、展示会を開いた。「能率を追う大量生産ではなく、これからは個性を追求す
る時代。人が持っていないモノ、着ていないモノが選ばれるはずなんだ」。会場に詰め
かけた大勢の女性を見ながら、小松さんは確かな手ごたえをつかんだようだ。
 高橋さんは言う。「群馬にしかない生糸を使い、桐生にしかない技術を集結して新商
品を生む。そんな夢をみて、『今にみておれ』と、みんなやっているんですよ」
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第3部「希望」−6−若い力
 下山智弘さん(45)は機屋の二代目。絹を使った新しい商品開発に取り組む若手機屋グ
ループ「布の鼓動」の代表を務める。下山さんがこの世界に入ったのは25歳の時。大学
を卒業して東京のアパレルメーカーに丸2年勤めた後、父に呼び戻された。婦人服地を
生産していた会社は、はた目には順風と映っていたが、業績悪化の兆しが忍び寄ってい
た。「同じことをやっているのに…」。もがいても、もがいてもいっこうに光明が見え
てこない。「なぜ」と眠れない日もあった。そんな時、桐生にある国の出先機関で織物
にかかわっていた高橋和夫さん(64)から、グルーブづくりを持ちかけられた。若い機屋
仲間4人が集まり、「布の鼓動」を結成、絹を使ったた新しい織物づくりが始まった。
オランダ国立テキスタイル・ミュージアムでの展覧会、商品のダイレクト販売の拠点と
なるアンテナショップづくりなど、活発な活動を展開した。すぐに営業に直結するもの
ではなかったが、「自分の感性を生かしたオリジナルの作品づくりができた」。仕事が
楽しいと初めて実感できた。そして、“じり貧”が続いていた会社を思い切って休業、
すべての取引先に事情を説明して関係を一度解消した。4年前のことだ。
 そんな下山さんの周辺で新しいグループづくりが進んでいる。「綺羅倶楽部(きらく
らぶ)」。これまでの同業者グループによる商品開発を、今度は異業種のメンバーと取
り組もうという試みだ。メンバーの最年少は30代の岡野優さん。横浜市出身で、米国の
総合美術大で3年間学び、帰国後、東京の専門学校講師などを務めた。桐生へは大勢の
芸術家の活発な活動に共鳴して、3年前にやってきた。仕事が思うように進まず、東京
へ帰ろうと思ったこともあった。それでも、踏みとどまった。「街並みに伝統産地の歴
史を感じ、高い技術を持った人がたくさんいる。この街で力を試してみよう」。そう決
めた。企画デサイン、染めから織りまで担当する。「絹の良さを生かし、提案したい。
そうすれば絹はもっと評価される」。いろいろなニーズを探り、開発、販売していきた
いという。「綺羅」には絹の美しい着物という意味がある。その復活に若い力が結集し
ようとしている。
 こうした活動を桐生広域インターネット協議会が注目、ボランティアでホームページ
を制作、紹介している。事務局長の塩崎泰雄さん(49)には子供のころ、機の音を聞き、
布の切れ端で遊んだ記憶が残っている。「桐生と言えば織物。今残しておくべきモノを
きちんと記録し、同時に再生に向けた活動を支援したかった」。そんな願いを込めて発
信された情報から「桐生の良さを認め、人が集まりだしている」と塩崎さん。新たな展
開を予感させる。
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Chikayoshi Kitamura (NIAS/MAFF) kitamura@affrc.go.jp