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Subject: [silkmail:57] ブランド(最終) <KINOSHITA > 2001/11/21

日垣隆氏による「ブランドとは何か?」について。

(9)最終(評判と夢と)

   スキャンダルと噂話とは、どう違うのか? 
 噂話は、2〜3人でそこに居ない人の悪口を
言ってストレスを発散する、きっと人間の本能み
たいなものだと思います。
 一方、スキャンダルは、それを聞く人の側が
スキャンダルだと思わなければ、成立しない。これ
は、ブランドも全く同じことです。いくら発信する
側が、これはスーパーブランドに育てるだけの価値
はあるんだと思っても、買う側がそれをブランドと
してキャッチしなければ、絶対にブランドとして成
立しない。
 スキャンダルとブランドは全く無関係のように
思われてきましたが、実は対の概念だといっていい
と思います。ブランドは、その成立以前には挫折の
連続がむしろ物語化のために必要なことなのですが、
一旦ブランドとして成立した以上は最後まで成功し
続けないと維持できません。スキャンダルは全くそ
の逆で、それまで成功していたという事を前提に、
秘密の暴露がスキャンダルになるわけです。
全然有名でない人、成功していない人たちの場合、
スキャンダルというのは起こりえません。それは、
ただの犯罪か、それとも恥じさらしです。

 「ブランド」を日本に昔からある言葉で表わせ
ば、「評判」ということでしょう。個人のお付き合い
レベルではなく、生産者としての「評判」を自覚的に
得る方法がブランド戦略です。評判を失墜させてしまう
(犯罪ではない)事件をスキャンダルというのです。
 
 そしてブランドの本質は、人に小さな夢を抱か
せるということにある。その商品を身に着けることに
よって、自分が良い気持ちになれるというのが、
ファッション系ブランドの一番大きな付加価値だろうと
思います。

 ブランドも時代によって、中身は変わっていきま
す。とにかく百貨店で売らなければブランドとして成立
しないという、日本的、戦後的な状況も確かにありまし
た。しかし、ヨーロッパではもう18世紀からブランドが
直営店を持っていた。日本でもようやく15年位前から、
ブランドショップやアンテナショップという直営店が生
まれます。もともと、百貨店に預けてしまえば、自分の
ブランドがどういう売れ方をするのか分からない。とこ
ろが、直営店ではどんなお客さんがどういう買い方をす
るかを、すべて把握できるわけです。できるならば、デ
ザイナー自身が自分で売る空間を持ち、そこでときどき
自分が接客するということが、非常に理想的な姿だと思
います。
 
  ブランドを作っていく上で、そのことを経過しない
で成功した例は1つもありません。

 いま、銀座や青山では何が起きているか? この春
にはエルメスが大きなお店を銀座に作りました。ルイ・
ヴィトンの直営店が来年にはできるし、グッチは再来年に
できる。世界的にみて、高級ブランドがもっと巨大な高級
ブランドとして、日本にも直営店をどんどんどんどん出店
してきています。そして、そこで売れ残った商品は郊外で、
例えば軽井沢や札幌で半額で売り切ってしまう。不況にな
ればなるほど、そういうブランドは独り勝ちしていく感じ
がします。しかし巨大ブランドの最大の弱点は、作り手
(デザイナー)が見えないということです。
 そんな中で、これからきっちりと良い物を作ってゆく
人は、買ってくれる人とダイレクトでやりとりができるチ
ャネルを用意しておくということが命綱なんだと言えます。

 日本でも経済が落ち込んでいますが、なぜ銀座のエル
メスに長い列ができるのか? これはもう、安売りスーパ
ーとかユニクロに飽き足らない人たちが、むしろ夢を取り
戻したいという気持ちの表れなのではないでしょうか。し
かし、それをフランス人やイタリア人に任せておく手はな
いと思います。

 日本にも高い技術や伝統というのはそれなりにあるわ
けです。でも、日本でいま世界中に通じている服飾ブランド
は、残念ながらワコールだけですよね。
 これからは日本の有能なデザイナーがたくさん、東京
とか地方にかかわらず、小さくても直営店を持ったり、
ショーをやったり、自分の個展を持って、そこで直接販売す
るということをしていってほしい。
 スキャンダルや争いごとが人々の中心的な関心事であ
るのは、日本にとっての不幸だと思います。ですから私は夢
を紡ぐ仕事に、ぜひ皆さんにも関わっていってほしいと心か
らそう願っています。工業高校を出て技術者になれない、
農業高校を出ても大半が農業を営めない、ファッションス
クールを出て服飾の仕事に就けない。それはシステムの金属
疲労ですが、しかし制度のせいにしていては自分の人生が
もったいない。夢を捨てるか捨てないかは、制度の問題では
なく、一人一人の問題です。

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独立行政法人 農業生物資源研究所
ゲノム研究グループ
木 下 晴 夫
E-mail:hkinoshi@affrc.go.jp
TEL:0298-38-6196