基調報告

(蚕糸・昆虫農業技術研究所 企画連絡室長 北村實彬

 蚕糸・昆虫農業技術研究所の企画連絡室長をしております北村と言います。どうぞよろしくお願いします。僭越ながら今回のサミットの呼び掛けをさせていただいた側としまして、なぜこんなものを考えたのかというその経過と目的について簡単に述べさせて頂きたいと思います。
 私どもの蚕糸・昆虫農業技術研究所では、インターネット上に所の研究成果あるいは所の活動を紹介するページを開いておりますが、そのページを見られた方から色々な問い合わせなり、要望なりが届きます。ここにいくつかのものを紹介致しますが、大きく分けて3点あるいは4点程のものがあります。もちろんその他にも人づてを頼って、色々な質問なり要望されてこられる方もあります。今日はそれらを少しまとめてご紹介したいと思います。
 問い合わせは大きく、蚕を飼ってみたい、あるいは飼わせたいということに関する問い合わせ、特に都市のご婦人の方から繭を手に入れたい、というような問い合わせがあり、あるいは学校の先生方から色々な質問があり、あるいはその他があります。

 代表的な例を紹介させて頂きますと、例えば、子供が蚕を飼って見たいと言うのですが何処に行ったら蚕が手に入るのでしょうか、という質問とか、これは特殊な例ですが、農文協の蚕の絵本を読んでいたら自分も飼ってみたくなったのだけど卵分けてくれますか、という手紙が来たり、もちろん子供ですがファックスで来たり、小学校で生徒に蚕を飼わせたいのですが蚕と餌をくれませんか、という少し虫のいい話とか、このたぐいの質問は結構来るのです。身近な所に入手先があればいいのですが、そうでない時には、ちょっとなかなか難しいですねと言いながら、これだけの関心があるのにどこかで誰かが窓口になれないのかなと思ったこともあります。
 それから都市部のご婦人の方からは、例えば友達と趣味で糸を紡いで草木染めをしているが最近屑繭が手に入らなくなり何処へ行ったらもらえるか、あるいは買えるかということで情報がほしいとか、あるいは工房を始めてみて色々な種類の繭を使ってみたいが少量ずつ色々な繭を手に入れる方策がないとか、あるいは農家の人に生産を委託しようと思っているが農家が経営としてペイする量の繭は自分達にはあまりに多過ぎる、少しずつでいいから色々な繭が手に入る方法があるといいのだがとか、天蚕も少しやってみたいがどこで卵が手に入るのかもわからないとか、飼育法もわからないという問い合わせが来ます。
 これは私は比較的深刻だと思っているのですが、高等学校の生物教育研究会の先生方からご相談を受けているのがありまして、東京都の生物教育研究会の参加では約100校の参加校を中心に教材用の蚕の幼虫の配布を毎年やっていた。特に、都立高校では約60校、私立高校15校やってきたけれども、斡旋仲介の労をとっていただいた東京都の農業試験場の組織再編で、来年以降困難になるかもしれない、ということとか、あるいはもっと高度な教育をやりたいがそれを指導できる体制がないということで断念したとか。最近特に理科教育の低下が著しいわけですが、それに追い討ちをかけるようにこういう現状があるということに少し危機感を持っています。
 その他に、非常に特殊な例かもしれませんが、例えば民間の方から、冬虫夏草の研究をしていて無菌の蚕が欲しいがどこで取り扱っているかの情報が欲しいとか、あるいは地元のお寺にこういう絵が見つかった、絹の上に書かれているがいったい何年前に書かれたものなのか判定方法を教えて欲しいとか、色々な面白い問い合わせもあります。

 一方、私どもの蚕糸・昆虫農業技術研究所としましては、この4月から独立行政法人農業生物資源研究所というように名前が変わりますが、この新しい独立行政法人の中で“豊かなヒューマンライフを支える新蚕糸技術研究”というものをこれまで以上に強化していくことにしています。その中では、松本を中心に、特徴ある繭品種の育成と飼育技術を開発するというグループと、この岡谷にありますチームが、暮らしにゆとりと潤いをもたらす絹を用いた多様な生活資材の開発をやるということになっています。そういうことになりますと、これまで以上に、先ほど所長も申しましたが、生活者とのインタラクション、的確なニーズの把握ということが私達の方からは希望としてあるわけです。
 こうした色々な人が持っている色々な要望や悩みのようなものを、どうしたら解決できるだろうかということを考えてみますと、例えばこういう生活者とか生産者あるいは研究者・企業者の中のネットワークというか、つながりがあちらこちらにできて、それが地域単位のそういうような情報交換の場が全国的につながったようなネットワークができたらいいなと今思うようになってきたわけです。

 そこでふっと周りを見渡して見ますと、あちらこちらに蚕糸関係の資料館もしくは博物館、そうは言わなくても主たる展示物のかなりの部分が蚕糸関係を扱っているというような博物館・資料館がたくさんあるということに気がついたわけです。

 もしそうなら、そういう所が1つの核になって、こうした資料館等は動きませんので、そこが中心になって地域でそういうような輪が当然できているのではないかと思うのです。それが全国的にネットワークが作れたら、非常に今のような望みがかなうのではないかと思ったわけです。

 それで一度そういうのをやってみて、輪を作ってみたらどうか、というのがそもそもの発端になっています。それで明日のまとめの所でも少し議論してみたいと思っているのですが、この“ネットワーク”というのは、既存のものを繋ぐという性質しか持っていないわけです。ですから、明日もう一度きちんと議論したいと思いますが、本当はこのネットワークの外側に、そういう想いが伝わっていくということが大事なのではないかと、それで勝手にシルクウェーブと呼んでいますが、そういうようなものができたらいいなと思っています。
 最後になりましたけれども、確かこれはJR東日本が水戸の博物館を紹介した時の宣伝のキャッチコピーだと思うのですが、見る・知る・それから体験してみる、そこへ行けば色々な夢が実現する、そういう意味でこれはミュージアムと呼んでいると思いますけど、そういう機能がこのサミットの中から生まれてきたらいいなと思っているわけです。ぜひ各地の経験を聞かしていただきながら、そういう輪が広がっていくことができればいいと思っています。それが今回の目的ですので、肩肘張らずに思う存分意見交換ができたらと思っています。よろしくお願い致します。