関連報告3
細繊度繭「はくぎん」の特性

(独)農業生物資源研究所 新蚕糸技術研究チーム長 山本俊雄

 

進行(関川):次は3番目のご報告です。大変細い繊維であります「はくぎん」の特性ということで、従来の糸の太さの半分近い「はくぎん」を育成した過程、この品種の特性、工業や医療面、繊維産業面などでの新しい利用についての取り組みについて、独立行政法人農業生物資源研究所、新蚕糸技術研究チーム長の山本さんにお願いいたします。よろしくお願いいたします。

山本俊雄チーム長:農業生物資源研究所の山本と申します。よろしくお願いいたします(拍手)。プロジェクターを使ってお話ししたいと思います。この繭をつくる過程でいろいろと製品を作ってまいりました。時間の都合もありますので、話をする前に製品を回します。「はくぎん」の柔らかさ、しなやかさ、光沢もあるのですが、その感触を短時間ではありますが、見ていただきたいと思います。
 それから、これは桐生で作りました着尺です。風通織りと言われております。これは手機ですが、繭の芽スタジオの筋誡さんが、草木染めで染め上げております。もちろん、織ったのも筋誡さんです。これらは全部14デニールの糸を使っているのですが、縦横とも1本ずつで作ったスカーフです。必ずしも細い糸だから軽いものがいいということではないと、これをつくった後で椎野社長からお話もありました。なるほどと私も思ったのですが、一応温かさなどを手で触っていただきたいと思います。これは3本合糸で作ったものです。いろいろあります。崩しても構いません。回していただきたいと思います。
 これはネクタイ生地です。成和株式会社さんが一緒に作ってくださるということで、八王子工場で製作に入った段階です。今日は生地ができてきました。非常に早くてびっくりしたのですが、間に合いましたので、光沢の良さやしなやかさなどを、是非ご覧いただきたいと思います。これについては、製品評価を皆さんに試着していただいて、その調査結果で研究を完成させたいと思っております。その辺については最後に申し上げたいと思います。

 では、「はくぎん」についてお話しさせていただきます。最初に「はくぎん」の特徴をお話しします。「はくぎん」というのは、中514号と中515号の2つの品種を掛け合わせてできたものです。非常に純白な繭です。「はくぎん」という命名の元にもなっております。次お願いします。
 実際に品種が指定されたときの数字です。こちらに繊度が書いてあります。これは全国11カ所で実施されたのですが、平均値で1.65デニールという非常に細い糸です。四眠蚕品種としては、これまで2デニールを切った品種はありませんでした。生産性その他はおおよそですが、8割ぐらいとみることができます。次お願いします。
 マイクロメーターで測ると、「はくぎん」が12、普通品種が20マイクロぐらいの太さで、違いは一目瞭然です。見た目では半分くらいの細さという特徴を持っております。次お願いします。
 このように平均繊度は細いのですが、実際に繭の外層から内層にかけて繊度を調べてみますと、「はくぎん」の場合はほぼ直線となり、繊度の偏差が少ないということがわかります。また、普通品種の場合には、最も太いところと細いところの差が大きいです。「あけぼの」というのは細繊度の近代第1号品種として作られたものです。これに比べても「はくぎん」は相当偏差が小さいです。ですから、生糸にしたときには繊度むらのない糸ができるということにもなります。次お願いします。

 実際に、細繊度の蚕品種の歴史についてお話をします。第二次大戦が終わる直前の1944年、支21号×支108号という品種がつくられております。これは、パラシュートなどの材料にも使えることが期待され、航空1号という字名をいただきました。このときの繊度が2.06デニールです。
戦後、盛んに篩い絹のために三眠蚕品種が作られております。その当時の繊度を見てみますと、1つの品種は1.96と2デニールをわっておりますが、概ね2デニール内外です。こういった三眠蚕品種に比べても、「はくぎん」がいかに細いかがよくご理解いただけるのではないかと思っております。生産性その他は、時間の関係もありますので申し上げませんが、三眠蚕品種並みであると言うことができます。次お願いします。
 明日千葉県の内野さんからも三眠化した繭のお話がありますが、当時も今も細い糸をつくる場合には三眠化して、その繭を使っています。一般に使われている三眠蚕にに比べて、「はくぎん」がどのくらいかを見たものです。
 三眠化蚕の全国協定試験が当時行われておりまして、17カ所で行われた平均値です。それを見ますと、春に飼育した場合には、1.94デニールとやや太目に出ておりますが、晩秋は1.8ぐらいです。「はくぎん」も晩秋1.66ということで、通常使われている三眠化蚕よりも「はくぎん」が非常に細いということが、おわかりいただけるかと思います。
 それから、特にここで注目に値するのが、三眠化蚕よりも生産性の面、収繭量などが明らかに高いと言えることです。宣伝になりますが、細いものを使うのなら、どちらかというと三眠蚕よりも「はくぎん」が有利ではないかと考えております。次お願いします。
 これは、普通品種と比較した場合です。このあと須藤社長からお話もありますが、繰糸試験は須藤製糸さんで行いました。飼育は茨城県結城市で行いました。ポピュラーな品種としては錦秋×鐘和ですが、それと比べても収量などがそれほど劣ってはおりません。8割以上の収量が確保できております。
 もちろん工場レベルではありますが、このとき行ったデータでは、解舒率も70%を超え、生糸をつくる上では問題ありませんでした。特に、「はくぎん」は14デニールを作っておりますので、そういう面では非常に細い糸です。ポピュラー品種はこのとき27デニールだと思いますが、そういったものと比較しています。次お願いします。 
 結論から言いますと、「はくぎん」は世界一細い四眠蚕品種であります。信州の松本で私はずっと「はくぎん」を作ってきました。もちろん雪の中で蚕が生まれてくるわけがないのですが、純白さということをとってみますと、まさに信州の雪原で生まれた純白の繭であると言うことができます。名前もそういったところから「はくぎん」と命名されました。次お願いします。

 先ほどちょっと三眠蚕の話をしましたが、「はくぎん」よりもっと細くできないかという問題があります。我々のところではトリフルミゾール(triflumizole)という抗幼若ホルモン(anti-juvenile hormone)を投与して三眠化しました。投与する時期によって若干繭の大きさが違いますが、三眠蚕になると非常に小さな繭ができてまいります。次お願いします。
 これは、繊度のカーブをみたものです。3齢投与でも平均1デニールほどです。4齢に投与しますと、平均0.5〜0.6デニールの非常に細い特殊な糸ができます。こちらの1デニールの繭につきましては、高林チーム長さんを中心にいろいろな製品等も試作されておりまして、ハイブリッドシルク展等でも紹介されている繭です。元々が細いものですから、三眠化した場合に、非常に細い糸ができます。特殊な場合にはこういった使い方もできるということで、ご紹介しております。次お願いします。
 従来から細繊度は糸むらが少ない、偏差が小さいなどと言われております。強力伸度といったものについても特徴があります。またヤング率が、果たして高いものがよいのか、低いものがよいのかということについては、私は織物については素人に近いので、どちらが有利かは言えないのですが、より柔らかいものができやすいという点は理解できると思います。
 織物にしたときは、柔らかくて肌触りのよいものができます。また、こしが強くて皺の回復力がよいとか、しなやかであったり、染色性に深みが出ます。細繊度の場合には、特に光沢の面で優れた点が出るといわれております。我々は、これらの点を確かめるために、今お回ししているものをいろいろ作ってみました。この品種ができたときに、技術会議の大型別枠の研究がスタートしておりまして、群馬県の繊維工業試験場に委託しました。次お願いします。

 そして、その製品開発や織物の評価もしていただきましたが、今回っているものとは全く別な製品です。スライドで紹介します。このときは、群馬県境町にお願いしまして、大量飼育を行って繭を生産いたしました。なかなか近在の長野県でやってくださるところが見つからず、群馬県に1週間に1度はとんでいったのを、今でも覚えています。次お願いします。
 これは農家サイドの評価ですが、「繭は錦秋×鐘和に比べるとやや小粒である。しかし、飼育が非常に容易だったので、トータルとしての繭の生産性は、むしろ夏などに飼うと「はくぎん」の方がいいのではないか」というお話も当時出ておりました。これらの繭は、群馬県の繭糸技術センターにお願いしたり、須藤製糸さんにお願いして糸づくりを行いました。21中の糸もつくりましたが、中心は14デニールの生糸でした。次お願いします。
 群馬県の繊維工業試験場では、清水研究員を中心に非常にたくさんの製品が作られております。着尺もつくりました。これはほんの一部ですが、沙織りのストールです。特に細い糸はスリップしやすいので、絡み織りを行って糸のスリップを防止しました。次お願いします。

 シルクジョーゼットの写真です。特に、強撚糸を行いスリップを防止しました。このような形で、細い糸でもごく普通に織物ができるというお話もありました。ところで、実は生糸を一部、長野県内で使ってみたいというところにお配りしました。しかし、そこではなかなかスリップ防止や撚りの問題もあったのでしょうが、なかなかよい製品はできませんでした。新潟県十日町などにも委託したことがありました。次お願いします。
 これが、群馬県で実施した評価です。この場合、14中は特殊でして、21中の普通糸と比べるとよくわかりますが、2段目と4段目が精練糸です。どちらの糸も強度は「はくぎん」の方が高くなっております。伸度が本当に高いのかというのは、私も疑問に思って、この後我々のところでも調査を行いました。伸度の場合には大きな差が出ておりません。ヤング率もそう大きな差ではありません。精練糸で練減率が20%ということで、「はくぎん」の特性が非常によく出ております。強度は高かったということになります。次お願いします。
 それから、風合いの試験を行いました。こしや張り、しゃり(さらさらした感じ)、きしみ(握ったときに絹特有のぎしぎしした感じ)などは、柔らかければ幾らか低く出ます。新雪、粉雪を踏みつけたような感覚をきしみといいます。これで見ますと、こし、張りは「はくぎん」が低くなっております。すなわち、柔らかい、しなやかだということが、風合いの値で出てきます。他はそんなに大差ありませんが、しなやかさを見てみますと、非常に高い値が出ております。これは羽二重の場合です。
 強撚糸織物は、このとき10種類ぐらいの織りをやってもらいました。強撚糸のものは、羽二重とほぼ同じような形に出ていると思います。柔らかさ、しなやかさといった点で、よく特徴が出ております。剛軟度も同じですが、縦横とも「はくぎん」糸の方が値が小さいです。ここでは余り差はありませんが、他に全体としては小さい値で、柔らかいということが数字の上でも証明できました。次お願いします。
 光沢の問題です。普通糸に比べて、上側の赤が「はくぎん」ですが、いろいろな波長で測っても、反射率が非常に高いということがわかりました。つまり、光沢性に富んでおり純白であるということを証明する一つのデータであります。次お願いします。
 これは、今お回ししておりますが、その後我々のところでもいろいろ材料ができましたので、関係するところにお願いして製品試作を行いました。羽二重のスカーフです。特に、こちらの紫色っぽいものは、14中縦横1本で作ってありますので、風合いをぜひ、皆さんに触っていただきたいと思います。これが本当に「はくぎん」の特徴を生かした製品なのかどうかは分かりませんが、糸なり織物の特性は非常にわかりやすいです。
 こちらは紋縮緬で、丹後で作ったものです。草木染めをしたものは、たまたまある展示会で貸してくださいという話がありまして、貸し出しておりますので、今日は持ってきておりません。今日持ってきたのは化学染料で染めたものだけです。余りたくさんはありませんので、試着で皆さんにお願いするというわけにはいきません。次お願いします。
 着尺も作っております。この手織りショールは筋誡さんが製作したものです。次お願いします。
 同じように風合いの試験を行いました。これは今日お見えかもしれませんが、蚕糸科学研究所の青木先生にお願いして測定したものです。ほぼ先ほどと同じような数字の傾向がみられ、膨らみには差がありますが、全体として、しゃりやこし、張りなどは値が小さく、柔らかみがあり、しなやかであるということが証明されております。
 細い糸は密ですから、空気抵抗が高くなっております。それから、明るさを見てみますと、「はくぎん」の明度が高く、赤みがかかったものにくらべるとやや緑っぽく、黄色も値が小さくなっております。すなわち、トータルとしては、明るくて白っぽい生地であるということが結論づけられます。全体としては、群馬県で研究をされていた内容とほぼ同じです。次お願いします。

 今後の方向についてです。「はくぎん」糸の利用ですが、私は、先ほど来話が出ている横浜の皆さんが日本の最高級の技術で製品をつくるという中で、ぜひ使っていただきたいと思います。椎野社長さんからは、今、繭の生産をやっている段階だということをお聞きしております。
 もちろん高級和服にもよいのではないかと思います。それから、現在ネクタイを製作中です。12月末ぐらいには30種類ぐらいの柄を作る予定でいます。今日、事務局においてご出席名簿を掌握だと思いますので、できた段階で私の方から皆さんにご案内状を差し上げますので、ぜひ試着希望の人は応募していただきたいと思います。今のところかなりの量を作る予定でおりますので、相当の確率で当たるかもしれません。アンケートの回答は必要ですが、そういったものと同時にご案内をしたいと思いますので、ご協力いただければ幸いです。
 つぎに、細繊維性を生かした縫合糸についてですが、眼球などの手術の場合には、今ある最も細い0.9号よりもっと細い糸が必要とされています。是非そういった面も進めてみたいと思っております。また、「はくぎん」を三眠化して細くすることで、医療用、工業用方面で新しい用途が開発される可能性があると考えております。
 これでスライドは終わりです。どうもありがとうございました。(拍手)

進行(関川):どうもありがとうございました。「はくぎん」につきまして、さまざまな試みで新しいものに挑戦しているご報告でした(拍手)。


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