1.不定芽誘導の品種間差

 アグロバクテリウム法ではアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)を分裂細胞あるいは再分化能を有する細胞に感染させます。アグロバクテリウムに感染させる組織として、不定胚、茎頂や子葉節が報告されています。しかし、不定胚を用いる場合は、遺伝子銃法の場合と同様に誘導と維持に時間と手間を要します。また、茎頂の成功例は数例しかありません。そこで、これまでに多数の報告がある子葉節を用いることにしました。ただし、不定芽の誘導能には品種間差が存在することが知られています。まず、日本品種を中心にアメリカで遺伝子組換えに用いられている品種と不定芽の誘導能を比較しました。アメリカ品種の「Bert」と「Throne」では約60%以上の子葉節から不定芽が誘導されました。また、日本品種「ミスズダイズ」においても50%以上の子葉節から不定芽が誘導されました。そこで、これら3品種を用いて、アグロバクテリウム法による形質転換を実施しています。

2.アグロバクテリウムとの共存培養

 緑色蛍光タンパク質sGFP(S65T)の遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子(hpt)を接続したコンストラクト(pPZP200ベースのバイナリーベクター)を作製しました。アグロバクテリウム系統EHA105へエレクトロポーレーション法によって導入し、バイナリベクターが導入されたコロニーを100 mg/Lスペクチノマイシンと50 mg/Lハイグロマイシンを含むLB固形培地上で選抜します。アグロバクテリウム系統とバイナリベクターの組み合わせによって、適切な抗生物質の種類と濃度を選択する必要があります。
 植物組織に感染させるために、バイナリベクターを導入したアグロバクテリウムを200mlのYEP培地を入れた500mlのフラスコで650nmの吸光度が0.8-1.0に達するまで25℃で振とう培養します。植物組織に接種する前に50mlの培養液を20℃、3,270 gで10分間遠心し、菌体を沈殿させ、この沈殿物に25mlの液体の共存培地を加え、菌体を再懸濁させます。

 ダイズの乾燥種子をデシケーターに入れ、塩素ガスで滅菌します。塩素ガスは、100mlの次亜塩素酸溶液(約5%)に3.5mlの濃塩酸を加えて発生させます。16時間滅菌した種子を発芽培地上に置床し、温度25℃、日長18時間明期:6時間暗期、光強度90~150 mEm-2s-1の培養器で5日間発芽させます。子葉の表面が緑色になり種皮が剥がれた状態の芽生えから、根と大部分の胚軸を取り除き、滅菌した外科用メスで胚軸を切断し、2枚の子葉を切り離します。それぞれの子葉から上胚軸を取り除き、葉腋から子葉節にかけて移動しながら10回傷を付けます。25 mlの再懸濁したアグロバクテリウムの菌体液に約50枚の子葉を30分間浸漬します。固形の共存培地を含むプラスチックプレート (Φ90×20 mm)に滅菌したろ紙を敷き、プレート当たり子葉5枚を向軸側(平らな面)を下にして25℃、暗黒下で5日間共存培養します(図2A)。この段階で、アグロバクテリウムの感染による導入遺伝子の発現[この場合は緑色蛍光タンパク質sGFP(S65T)]が観察できます(図2B)。

3.不定芽の選抜

 不定芽の誘導、選抜といった一連の培養には、発芽に用いた培養器を同じ条件、温度25℃、日長18時間明期:6時間暗期、光強度90~150 μEm-2s-1で使用します。共存培養終了後、過剰に繁殖したアグロバクテリウムを液体の不定芽誘導培地で洗浄し、固形の不定芽誘導培地を含むプラスチックプレート(Φ90×20 mm)に置床します。選抜用のハイグロマイシンを含まない不定芽誘導培地で2週間培養した後、誘導された不定芽を含む組織を5 mg/Lのハイグロマイシンを含む新鮮な不定芽選抜培地へ2週間毎に移します。不定芽選抜培地で4週間培養した後、子葉や胚軸などを取り除き、10 mg/Lのハイグロマイシンを含む不定芽伸長培地へ移します(図2C)。健全な不定芽を含む組織は、ハイグロマイシンを含む新鮮な不定芽伸長培地に2週間毎に移します。3 cm以上に伸長した芽は切り取って、発根培地に植えます。そこで発根した個体を十分に生長させ、順化させた後に培養土を充填したポットへ移植し、閉鎖系温室内で栽培します(図2D)。

 


図2 子葉節へのアグロバクテリウムの感染と組換え体の作出


 

アグロバクテリウム法による形質転換の手順

1

ダイズ種子を塩素ガス法で滅菌する

2

発芽培地で発芽させる(5日間)

3

アグロバクテリウムをYEP培地で増殖させ、遠心後、共存液体培地に再懸濁する

4

発芽した種子から子葉を切り出し、子葉節にメスで傷付け、懸濁したアグロバクリウム菌体液に30分間浸漬する

5

共存培地(固形)に滅菌したろ紙を敷き、子葉節を下向きにして子葉を置き、25℃、暗黒下で5日間共存培養する(図2A )

6

過剰なアグロバクテリウムを取り除いた子葉を不定芽誘導培地に置き、25℃、18時間日長で不定芽を誘導する

7

ハイグロマシンを5 mg/lの濃度で含んだ不定芽選抜培地で形質転換した不定芽を選抜する(図2C )

8

ハイグロマシンを10 mg/lの濃度で含んだ不定芽伸長培地で形質転換した不定芽を伸長させる

9

3cm以上に伸長した芽を発根培地へ移し、十分に生長させる(図2D )

10

順化後、温室に移植する

培地組成はこちら



<当研究室の発表文献>

残念ながらまだありません。

<参考文献>

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更新日:2008年1月3日